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透明な壁の巻

◇啓太郎side


「──Aigz・re・ganz・allow」


 神宮司の詠唱と共に彼の右腕に纏わりついていた籠手が、白銀の龍と化す。

 それを見つめながら、啓太郎は目を大きく見開いた。


「……なるほど」


 一目で神宮司の狙いを悟ったアラン──今は犬のキーホルダーのような姿になっている──は、金郷教元教主フィルの肩の上で、感嘆の声を上げる。


「何故アイツが『ティアナ 』に選ばれたよか、今ようやく理解した」


 アランの呟きを掻き消すように、白銀の龍は雄叫びを上げると、口から雷の矢を吐き出す。

 矢を象った白雷は、物凄い速さで中空を駆け抜けると、翼の生えた子ども達との距離を詰めた。


「……っ!」


 背に翼を生やした子ども達──数は大体50人程度──は、超人的な身体能力で白雷の矢を避ける。

 音速より少し劣る速さ、常人では反応できない攻撃。

 それを難なく回避した後、天使の力を手にした子ども達は、司に攻撃を仕掛けようと、掌を淡く輝せ始める。


「──甘い」


 アランの言葉を肯定するかの如く、白雷の矢は『透明な壁』に激突すると、跳ね返されてしまう。

 そして、進行方向を極端に変えると、司に攻撃しようとした少女の翼を射抜いた。


「──っ!?」


 50人以上の子ども達は、進行方向を変えた雷の矢を見て、酷く動揺する。

 少女の背を射抜いた矢は、啓太郎の頬──美鈴の頭上を通り抜けると、再び跳ね返る。

 そして、先程よりも速い速度で宙を駆け抜けると、少年の背に生えた翼を射抜いた。


「あの白銀の龍は囮だ」


 アランの解説に耳を傾けながら、啓太郎は白雷の矢によって翼を射抜かれる子ども達を眺め続ける。


「アイツ──ツカサはあの白銀の龍を造るよりも先に子ども達の周囲に結界を張った。白銀の龍を造ったのは、彼等の視線を結界から逸らすためだ」


 結界に直撃する度、白雷の矢は次々に分裂する。

 分裂した白雷の矢は、結界の中を駆け回ると、次々に子ども達の背に生えた翼だけを射抜いていった。


「発射台である白銀の龍を壊すよりも先に周囲に張り巡らされた結界を破らなければ、あの雷の矢から逃れる事ができない」


「……お前、意外と頭使うんだな。オレもお前の事を脳筋だと思って、……げふっ!」


 アランはフィルの頬に魔力の塊を打つける。

 彼女の攻撃が頬に直撃した途端、フィルの口から短い断末魔を漏らした。


「……あいつ、そこまで考えて、あの攻撃を放ったのか……?」


 司の背後姿を眺めながら、啓太郎は驚きと困惑が入り混じった声で疑問の言葉を口にする。


「……多分、考えていると思うよ」


 今の今まで司の闘いを観察・分析していた美鈴が口を開く。


「お兄ちゃんが凄いのは、腕っ節の強さでも、魔法を無効化する籠手でもない。人智を超えたインプット力とアウトプット力だよ」


 次々に分裂した白雷の矢によって翼を射抜かれる子ども達を眺めながら、美鈴は顔を強張らせる。


「視覚・聴覚・嗅覚・触覚による感知能力で相手の出方を瞬時に察知し、得た情報を下に無駄のない動きで動いている。だから、お兄ちゃんは強いんだよ。相手の動きを見切った上で、最小限かつ最適な行動を取っているから」


「ああ、美鈴。貴様の言う通りだ」


 アランは美鈴の推測を肯定すると、軽く溜息を吐き出す。


「ヤツの強さは能力でも腕力でもない。状況に応じた最善を即座に導き出す知力、そして、その最善を実行できる行動力だ」


 50人以上の子どもの背に生えた翼が、全て分裂した白雷の矢によって撃ち抜かれてしまう。

 天使の力を失った子ども達は意識を手放すと、眠るように地面に倒れ込んでしまった。


「なっ……!? あいつ、傷一つつける事なく、子ども(あいつら)を無力化させやがった……!?」


 驚きの声を発しながら、フィルは目を大きく見開く。

 

「当たり前だ。ヤツの白雷(のうりょく)と状況判断能力があれば、これくらい余裕でできる」


 そう言って、アランは何かを決断したような表情を浮かべると、倒れ込んだ子ども達の下に向かう司の背に視線を送る。

 

「アラン、……君は一体何を決断した?」


 無駄に聡い啓太郎と美鈴は一瞬でアランの変化に気づいてしまう。


「私は、私のやれる事をやる。それだけだ」


 アランは簡潔かつ抽象的な答えを口にすると、口を閉ざしてしまった。

 



◇赤光の魔導士side


「……で、あんたはどうする訳?」


 世界と世界の間にある異空間。

 固形化した極光の裏に隠れながら、カナリア──司が酒乱天使と呼んでいる小鳥遊神奈子似の少女──は、赤光の魔導士に話しかける。


「俺にできる事をやるだけだ。と、言っても、今の俺にできる事なんて殆どないんだが」


 そう言って、赤光の魔導士はジングウとの闘いで負った腹部の傷に視線を向ける。


「……今、まともに闘えるのは私だけって事ね。アランは何故かこっちに来ないし、神宮司は天使達と闘っているし、頼みの綱であるジングウは第14人類始祖に付き纏っている青年に邪魔されるし……実質、私1人じゃない」


 そう言って、深い溜息を吐き出すと、カナリアは第14人類始祖の成れの果て──ガラスの皇女の生首を執拗に踏む『美桜』──第四人類始祖ガイアの力を手にした少女に視線を向ける。


「そういう事だ、頑張れ。俺は草葉の陰から応援するから」


「あんたも頑張るのよ」


 呆れたように溜息を吐き出しながら、カナリアはガラスの皇女の生首を踏む『美桜』を注意深く観察する。

 そんな彼女の横顔を見つめながら、赤光の魔導士は自らの推測を口にした。


「おい、カナリア。アレは本当に始祖ガイアなのか?」


「……」

  

 カナリアは沈黙を貫く。

 それを見た赤光の魔導士はカナリアが自分と同じ結論に至っている事に気づいた。


「……なるほど。やっぱり、そうなのか」


 苦々しく呟きながら、ガラスの皇女──()()()()()()()()()()()()()()()を攻撃し続ける『美桜』に視線を向ける。

 狂気と怒気を体外に放出している『美桜』を見ながら、赤光の魔導士は導き出した推測を口にした。


「──あの器、始祖ガイアから力を奪い取ったのか」



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想・いいねを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 本日の更新で7月の更新はお終いです。

 8月の更新予定はtwitter(雑談垢:@norito8989)の固定ツイートに記載しているので、そちらを見て下さると嬉しいです。

 

 また、次の更新は8月5日金曜日22時頃に更新致します。

 恐らくあと十数話(多分)で完結すると思いますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。


 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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