「集え白雷よ」の巻
◇ジングウside
「──っ!」
世界と世界の間にある間の世界。
真っ黒な空間に浮かぶ固形化した極光の上で褐色の青年と闘いながら、ジングウは首を切断されたガラスの皇女を視界に捉えた。
「余所見をするな」
ジングウの視線がガラスの皇女に向けられた途端、褐色の青年は蹴りを放つ。
ジングウは迫り来る蹴りを間一髪の所で受け止めると、敵から距離を取るため、後方に跳ぶ。
そして、敵である褐色の青年と大きく距離を取った後、疑問の言葉を口にした。
「お前のお仲間の首が取れたぞ?心配しなくていいのか?」
「必要ない」
ジングウの疑問をバッサリ切り捨てた後、褐色の青年は尋常じゃない脚力で足場である極光を蹴り上げる。
「──っ!なるほど、あんな程度じゃ死なないってか……!」
一瞬で自らの間合いに入り込んだ褐色の青年を睨みながら、ジングウは素手で褐色の青年の拳を受け流す。
「そういう訳だ。──だから、闘いに集中しろ」
跳び上がった褐色の青年はジングウの脳天目掛けて踵落としを打ちかまそうとする。
それを間一髪の所で避けたジングウは、隙だらけだった敵の身体に蹴り──を叩き込む事なく、後退した。
(踵落としの後にできた隙は、ヤツが敢えて作り出したもの……!あそこで攻撃していたら、間違いなくカウンターの餌食になっていた……!)
「ほう、お前は中々やるようだな」
ジングウの背後を取った褐色の青年は感嘆の声を上げる。
あっさりと背後を取られたジングウは目を大きく見開くと、褐色の青年が繰り出した蹴りを間一髪の所で避けた。
(くそ……!いつの間に……!?)
並外れた身体能力で褐色の青年は跳び上がると、再び踵落としを披露する。
ジングウは先程のように避けよう……と思ったが、咄嗟の判断で右腕に籠手を装着すると、踵落としを籠手で受け止めた。
「ちっ……!」
十数手先を読んだジングウは一瞬で『最良』の選択肢を掴み取る。
が、ジングウの取った選択肢は『最善』ではなかった。
「──っ!」
再びジングウは背後を取られる。
褐色の青年は避ける隙を与える事なく、ジングウの背中にツッパリを叩き込んだ。
「ぐっ……!」
咄嗟に前に跳ぶ事でジングウはツッパリの威力を半減する。
が、バランスを崩してしまい、ジングウの身体は固形化した極光の上を無様に転がった。
(くそ……!俺と相性が悪過ぎる……!)
心の中で毒吐きながら、ジングウは体勢を整える。
もしも褐色の青年の相手が、赤光の魔導士やカナリアだったら、ここまで苦戦を強いられていなかっただろう。
一流の魔法使い・魔術師だったら、褐色の青年相手に有利に闘える筈だ。
しかし、ジングウの魔法──白雷は対魔法に特化した代物。
魔法・魔術を使えない者に対して有効打になり得ない。
加えて、ジングウは簡単な魔術しか使う事ができない。
そのため、褐色の青年に対して必殺になり得るものを持ち合わせていないのだ。
(……ヤバいな)
天敵と言っても過言じゃない敵を前にして、ジングウは額に汗を滲ませる。
魔法は通用しない。
魔術も決定打になり得ない。
身体能力も格闘センスも自分よりも優に上回っている。
(……コレはかなり長引きそうだ)
ジングウの頬を冷や汗が伝う。
その瞬間、褐色の青年は尋常じゃない脚力で地面を蹴り上げると、再びジングウの背後に回り込んだ。
◇神宮司side
「啓太郎、美鈴、教主様。そこを動くな」
翼を背に生やした子ども達の猛攻を切り抜けた俺は、啓太郎達の下に転がり込む。
そして、彼等の前に立つと、いつでも攻撃に対処できるように身構えた。
「……司、勝機はあるのか?」
心配そうに疑問の言葉を投げかける啓太郎に視線だけを向けながら、質問に答える。
「ある。けど、あの子ども達に暴力を振るう事になる」
「なっ……!? お兄ちゃん、もしかして、あの子達を助けるつもりなの……!?」
「ああ。あいつらは天使ってヤツの力を持っているんだろ?それさえ排除すれば、ただの子どもに戻る筈だ」
「む、無茶だよ……!あの子達は天使と殆ど同じなんだよ……!お兄ちゃんだって、何回も天使と闘ってきたから分かるでしょ!?天使の脅威を……!」
美鈴に言われて、天使と闘った記憶を思い出す。
魔女騒動。
新神。
人狼騒動。
そして、4月30日に遭遇したピエロみたいな天使。
色々思い出してみたけど、特に苦戦した記憶はなかった。
「……無力化するんだったら、あいつらの翼を狙え」
今の今まで黙っていた教主様──フィルが俺にアドバイスを送る。
「あいつらの天使の力は、翼に込められている。あの翼を壊せば、多分、ヤツらは元に……」
「大体承知っ!んじゃあ、とりあえず行ってくるわ!」
「最後まで聞けっ!」
俺が駆け出そうとするよりも先に天使とやらの力を手にした子ども達が光弾を乱射し始める。
ドッジボールくらいの大きさの光弾は、宙を駆け抜けると、あっという間に俺達の間合いに入り込んだ。
「ちっ……!」
右の拳で左掌を殴りつけた俺は、両手を前に突き出す。
すると、俺達の前に白雷を纏った透明な結界が現れた。
「なっ……!?結界……!?」
教主様の驚きの言葉は透明な壁に激突した光弾の音によって掻き消される。
白雷を纏った透明な壁にぶつかった光弾は、勢い良く爆ぜると、爆炎と爆煙を撒き散らした。
「お、お兄ちゃん……!いつの間に結界を覚えたの……!」
「あー、これか?『鬼』と闘った時に身についた」
故郷で遭遇した純粋悪『鬼』を思い出しながら、俺は顔を顰める。
あの時、俺は純粋悪『鬼』と化した彼等を封印するため、透明な壁──美鈴のいう結界──を生み出す技術を無意識のうちに会得した。
何で結界が使えるようになったのか、具体的に説明する事はできない。
強いて言えば、『彼等を封印したい』と願ったら、いつの間にか会得していた。
(この結界ってヤツを応用したら、……いや、右の籠手の形状を変えつつ、結界も使用したら、あいつらを無傷のまま、無力化できるかもしれない)
先程、ジングウ──平行世界の俺が言っていた事を思い出す。
彼は言っていた。
『能力は変わらないが、右の籠手の形状は幾らでも変えられる』、と。
この世界に来る前に遭遇した幼女──自称作家は言っていた。
『右の籠手は願望によって形状を変えられる』、と。
(俺が望めば、右の籠手の形状が変わる……それは『絶対善』との喧嘩で確認済みだ)
人狼騒動の時の事──『絶対善』との喧嘩を思い出す。
あの時、俺は強く願った事で右の籠手の形状を『竜』に変えた。
なら、俺が強く願えば、右の籠手を想像通りに変えられる筈。
「──集え白雷よ」
右の籠手の形状を変えようと、心の中で願いを思い浮かべる。
すると、俺の口から勝手に言葉が漏れ出てしまった。
それと同時に右の籠手の形状が変わり始める。
「──我は花園を統べし者」
無意識のうちに漏れ出た言葉が、右の籠手を膨張させる。
膨張した籠手だったものは、俺の右腕から離れると、瞬く間に全長3メートル程の龍に変貌した。
「──Aigz・re・ganz・allow」
右人差し指と右中指を子ども達の翼に向ける。
右の籠手だった竜は全身から白雷を放射すると、口から白雷の矢を掃射した。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイント・いいねを送ってくださった方、本当にありがとうございます。
この場を借りて、お礼の言葉を申し上げます。
また、今回のお話の最後辺りに登場した『Aigz・re・ganz・allow』というは見た目のカッコ良さを重視した英文モドキです。
殆どの単語は造語であり、アイギス『Aegis』と矢『arrow』を意味する英単語は完全に別物になっております。
コレからも個人的にカッコいいと思い込んでいる英文モドキを酷使すると思うので、大変恐縮ですがご理解の程よろしくお願い致します。
次の更新は7月29日金曜日22時頃に更新予定です。
これからも更新していくので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。




