激突の巻
◇啓太郎side
地面に転がった玖陽土華亞真を見た羽を生えた子ども達が、一斉に青年──ジングウツカサに視線を向ける。
彼等の瞳には怒気──ではなく、困惑で満ち溢れていた。
それに気づいた啓太郎は眉間に皺を寄せる。
(もしかして、彼等は嫌々教主に従っているのか?)
啓太郎の推測を遮るように教主の声が周囲に響き渡る。
「何をやっているの! さっさとこの不敬者を『ぱん』しなさい!」
先程の余裕たっぷりの態度が嘘だったかのように金郷教前教主── 玖陽土華亞真は声を荒上げると、この場にいる背中に羽を生やした子ども達に命令する。
「……流石にこの数は厳しいな」
前教主に命令された子ども達は、ジングウツカサ──神宮司の同一存在──に視線を向ける。
いつ襲いかかってもおかしくない彼等を前にして、ジングウは啓太郎の側にいるカナリア──酒乱天使──とアラン──脳筋女騎士──に声を掛けた。
「カナリア、アラン。半分程引き受けてくれないか?」
「あー、無理。私、あんたと違って、この世界のティアナから有害判定されているから」
「お前が撒いた種だ。お前が何とかするがいい。ほら、お前ら、さっさとこの場から離れるぞ。後はアイツが何とかしてくれる筈だ」
狼のキーホルダーと犬のキーホルダーに擬態しているカナリアとアランは、ジングウの要求を一蹴すると、啓太郎・美鈴・フィルに逃げるよう促す。
「え、ちょ、待っ……俺1人じゃ負ける事はないけど、勝つ事も難しいんだけど」
今までの冷静な態度が嘘みたいにジングウは取り乱す。
その姿は啓太郎や美鈴がよく知っている神宮司と大差なかった。
「……やっぱ、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだね」
神宮司の同一存在であるジングウツカサを眺めながら、美鈴は溜息を吐き出す。
啓太郎は敢えて美鈴の言葉に同意しなかった。
……ジングウと神宮司の名誉を守るために。
「さあ!やっておしま……ぎゃああああ!」
羽の生えた子ども達に命令しようとした途端、玖陽土華亞真は再度後頭部にドロップキックを叩き込まれる。
断末魔を発しながら、玖陽土華亞真は再度地面の上を無様に転がると、白目を剥いて気絶してしまう。
啓太郎達はすぐさま玖陽土華亞真にドロップキックを叩き込んだヤツに視線を向けた。
「……あれ?もしかして、俺、やらかした?」
そこにいたのは── 玖陽土華亞真に再度ドロップキックを叩き込んだのは──神宮司だった。
◇神宮司side
「──あんたじゃ俺には勝てねぇよ」
目の前にいるこの世界のバイトリーダー『美桜』に宣戦布告を叩きつける。
そして、今にも襲いかかってもおかしくない彼女を睨みつけると、俺はゆっくり右の拳を握り直した。
「──いいわ。貴方の挑戦、受けて立……っ!」
何かしらの異変を察知したのか、美桜は不思議な力で空間に穴を開けると、穴の中に飛び込んでしまう。
「あ、おい!待てっ!」
俺は右の籠手を着けたまま、穴の中に飛び込んだ彼女の後を追いかけた。
黒を基調とした異空間と辺り一面に散らばった固形化した極光が俺を出迎える。
そこまで重力が機能していないのか、俺達の身体はタンポポの綿毛のように、ゆっくり地面に落ちていった。
「あいつ、何処に行って……!」
固形化した極光の上に着地した俺は、美桜の姿を探す。
しかし、幾ら周囲を見渡しても、彼女の姿を見つける事ができなかった。
「……ん?この声?」
背後から啓太郎の声が聞こえて来る。
音源の方に視線を向けると、背後にある異空間に大きな穴が空いている事に気づく。
穴の中を覗き込む。
翼の生えた子ども達に囲まれている啓太郎・美鈴・教主様・脳筋女騎士・酒乱天使、そして、平行世界の俺──ジングウが見えた。
何かピンチっぽい。
あと、何か悪そうな女が悪そうな命令を飛ばしている。
状況はよく分からないけど、とりあえずあの悪そうな女は蹴飛ばして良いだろう。
そう思った俺は穴の中に飛び込むと、悪そうな女の後頭部にドロップキックを叩き込む。
「ぐぴゃ!」
悪そうな女は頭悪そうな断末魔を口にすると、地面の上をゴロゴロ転がった。
ドロップキックを綺麗に決め、華麗に着地した俺は啓太郎達に声を掛けようとする。
何故か知らないけど、彼等は『こいつ余計な事しやがって』みたいな目で俺を見つめていた。
「……あれ?もしかして、俺、やらかした?」
そう言った途端、今の今まで静止していた翼の生えた子ども達が一斉に襲いかかってきた。
「うおっと!」
バカの一つ覚えみたいに突っ込んできた羽の生えた少年を背負い投げの要領で地面に叩きつける。
やはり天使とやらの力を保持しているのか、地面に叩きつけられた程度では少年の身体にダメージは入らなかった。
「──っ!」
少し離れた所にいる少年少女達が、翼の先端からビームを発射する。
反射的に右の籠手で受け止めようとした瞬間、俺の前にジングウが現れた。
「迂闊な行為は身を滅ぼすぞ」
そう言って、ジングウは何処からともなく取り出したナイフで飛んできた光線を受け流す。
ナイフには白雷が纏わりついていた。
「お前、それ……!」
「ああ、君が思った通りだ」
瞬きしている内にナイフの形が変わる。
変形したナイフは、ジングウの右腕に纏わりつくと、籠手の形に変わってしまった。
「これは君が使っているものと同じ心器──アイギスだ。能力は変わらないが、アイギスの形状は幾らでも変えられる」
ジングウの右腕に纏わり付いていた籠手が、あっという間に双剣に変わる。
彼は双剣に変わった籠手──アイギスを両手で持つと、俺にアドバイスを提示した。
「その武器は君の願望次第で形を変える事ができる。喧嘩が強いだけじゃ、この先生きていけないぞ。これから先、大事になってくるのは発想力と臨機応変力。最善を選ぶだけじゃ、最善の結果を掴み取る事ができないぞ」
聞き分けのない子どもに言い聞かせるように、ジングウは俺にアドバイスを与える。
余裕たっぷりの笑みを浮かべる彼を見て、俺は『よく迂闊な行動を取るなって言えたよな』みたいな目をしている啓太郎達を指差す。
「なあ、何で啓太郎達はあんな目でお前を見てるの?お前、何やらかした訳?」
「大事なのは現在だ。過去じゃない」
「お前がやらかした事だけは分かった」
そして、俺とジングウは今にも襲いかかりそうな翼を生やした子ども達と向かい合う。
彼等は俺達に対して敵意は抱いているが、悪意は抱いていなかった。
「──やれるか?」
「子どもに暴力を振るうって点を除けば」
ジングウの疑問に答えた後、俺達は前に向かって駆け出す。
それとほぼ同じタイミングで翼を生やした子ども達も襲いかかってきた。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・感想・レビュー・いいねを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
次の更新は7月15日金曜日22時頃に予定しております。
また、7月16日に新作短編を投稿する事をこの場を借りて告知致します。
これからも完結目指して執筆し続けるので、お付き合いよろしくお願い致します。
[追記:7月16日]
申し訳ありません。
体調を崩した所為で、告知通りに更新する事ができませんでした。
この場を借りて、深くお詫び申し上げます。
次の更新は7月18〜20日の間に更新致します。
詳しい日時に関しては、Twitter(宣伝垢:@yomogi89892・雑談垢:@norito8989)で告知致しますので、よろしくお願い致します。




