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呑気な提案の巻

 重い目蓋を開ける。

 何者かの視線を感じ取った俺は、ゆっくり新幹線の通路に視線を送った。

 何処で見た事がある女の子と目が合う。 

 俺の事をじっと見つめる少女は酒乱天使──カナリアと酷似していた。


「……何か用か?」


 欠伸を浮かべながら、俺に視線を送る少女に疑問を呈する。

 少女は少しだけ身体を揺らすと、意を決したような表情で、こんな事を言い出した。


「……どうしたら、あんたみたいに強くなれるの?」


 酒乱天使の容姿を幼くした少女──この世界の小鳥遊神奈子は疑問を口にする。

 その反応を見て、彼女が先程の喧嘩──金郷教信者達+キマイラ津奈木とバトったのを見ていた事に気づく。


「強くなりたいの。弟を……家族を守れるくらいに。だから、教えて。強くなる秘訣を」


 この世界の小鳥遊神奈子が力を求めている理由を何となく察する。

 『喧嘩なんて強くなっても意味がない』というのは簡単だ。

 しかし、彼女が置かれている状況──人狼という理由で魔法使い達に忌み嫌われている──を考慮すると、俺の価値観を押し付ける訳にはいかなかった。

 

「売られた喧嘩は全力で買え」


 座席に身を預けながら、俺は今まで培ってきた経験の一部を彼女に伝授する。


「自分を負かせた奴は勝つまで挑め。喧嘩ってのは腕力が強い奴が必ず勝つんじゃねぇ。最後まで立っていられる奴だ。あと、カッコつけるのも大事だな。強くなる時は形から入るのも大事だ。自分がカッコいいと思う奴を真似る所から始めたら良いと思うぞ」


 少女から視線を逸らした俺は窓の外に視線を送る。流れていく風景は見ていて面白味のないものだった。


「以上が喧嘩に勝つための秘訣だ。何か質問はあるか?」


 脳裏にこびりついた先生が悲しそうな表情を浮かべる。

 その顔を想像しただけで、胸の中のモヤモヤが更に強くなってしまった。


「つまり、お兄ちゃんみたいな一匹狼がベストイズベストって訳ね」


 この世界の小鳥遊は何故か目をキラキラさせながら、俺の事を見ていた。

 いや、俺、一匹狼じゃねぇし。

 訂正するのも面倒だったので、俺は窓に視線を向けたまま、空返事する。

 この世界の小鳥遊はお礼の言葉を告げると、自分の席に戻ってしまった。

 窓硝子に映った美鈴と啓太郎、教主様を見る。

 彼等は気持ち良さそうに眠っていた。

 欠伸を浮かべる。

 すると、スピーカーから『そろそろ終着駅に着きますよ〜』みたいな音声が流れてきた。

 

『──この駅の終■点に彼女はいま■』


 夢の中で出会った始祖ガイアの言葉を思い出す。

 アレが言った事が本当だったら、終着点である『喜多駅』に彼女──この世界のバイトリーダーがいる。

 彼女さえ倒せば、否、彼女の中にある始祖ガイアの力をどうにかしたら、この騒動は収まる筈だ。


(……とりあえず、この世界のバイトリーダーを殴れば、何とかな──)


 夕暮れの教室に潜む先生の姿が脳裏を過ぎる。

 立派な大人の振りをしている先生の姿を思い出してしまった。

 泣きそうな顔をしている先生を思い出す。 

 それを思い出すだけで、気分が悪くなってしまった。

 居ても立っても居られなくなった俺は席を立つ。

 まだ終着駅に着いていないにも関わらず、俺の身体は座席から離れると、先頭車両に向かい始めた。

 窓の外の風景が前から背後に流れていく。

 その攻撃をぼんやり眺めながら、俺は運転席の方に向かって歩き続ける。

 新幹線が駅に着く頃、俺は先頭車両に辿り着いた。

 出入り口の扉が開くや否や、俺は新幹線の外に出る。

 喜多駅のホームは人で賑わっていた。

 それらをぼんやり眺めながら、俺は改札口の方に向かって足を動かす。

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 改札口を通り抜け、人で埋め尽くされた駅構内を通り過ぎ、駅前広場に辿り着く。

 老若男女が集っている駅前広場のど真ん中。

 そんな人の往来が激しい場所に銀髪の少女は突っ立っていた。


「……」


 俺が見慣れている姿よりも幼い外見をしたバイトリーダーが、駅前広場に辿り着いたばかりの俺を死んだような魚の目をしたまま、睨みつける。

 敵意は感じられても、殺意は感じられなかった。

 どうやら俺から攻撃でもしない限り、攻撃する気はないらしい。

 見えていないのだろうか。

 銀髪の少女に構う事なく、老若男女は駅前広場を通り抜ける。

 ラスボスがいるというのに、呑気に通り過ぎる老若男女を横目で眺めながら、俺は右人差し指で右頬を掻いた。

 そして、口から溜息を吐き出すと、俺の事を睨んでいる銀髪の少女に声を掛ける。


「……飯、食いに行くか?」


 我ながら呑気な提案だと思った。


「……」


 銀髪の少女は首を縦に振った。

 呑気なヤツめ。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、いいね送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、新しくいいねを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 今回のお話でようやくラスボスを出す事ができました。

 残り20話(多分もっと話数増える)になりましたが、これからも定期的に更新していきますので、完結までお付き合いよろしくお願い致します。

 次回の更新は6月10日金曜日22時頃に予定しております。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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