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接触の巻[後編]

「私──否、私達始祖ガイアの複製は神器と呼ばれる人間の身体を得るため、彼女達の願いを叶えてきました」


 夜の闇に溶け込もうとしている木造の教室。

 窓から差し込む茜色の光に照らされながら、古びた教壇の上に立つ始祖ガイアの複製は説明を続ける。


「それはこの世界でも変わりません。創造した天使に力を奪われ、この世界に漂着した私は、神器である少女の身体に憑依しました」


「…….それがこの世界のバイトリーダーって訳か」


 どうやらピエロみたいな天使──天使ガブリエルに力を奪われた始祖ガイアの複製は、この世界のバイトリーダーに憑依したらしい。


「肯定──そして、話の本題はこれからです。私はこの世界のある少女──私を神と崇める教団に所属している女の子の身体に宿りました。そして、いつも通り、自らの身体を得るため、少女の願いを叶えようとしました」


「で、この世界のバイトリーダーは何を願ったんだ?」


「──ピーターパンを知っていますか?」


 彼女の口から予想外の単語が飛び出す。

 それに面食らった俺は戸惑いながらも、彼女の疑問に答えた。


「ああ、勿論知っているぞ。パン屋に行く度、毎回あんぱんと一緒に買っている。あれ、結構美味しいよな」


「ピーターパンは食べ物じゃありません。なに古典的なギャグを炸裂させているんですか?ちょっとは空気を読んでください」


 食い気味に罵倒された。

 なんかバイトリーダーと美鈴の反応が入り混じっているような気がする。

 多分、こいつ、自覚していないだけで彼女達の影響をめちゃくちゃ受けているんじゃないんだろうか。

 ──或いは。


「彼女との契約なので、私の口から言えませんが、彼女は理想郷を作ろうとしています」


「理想郷? ああ、あれか。金郷教の大願とか言われている……確かみんなが神様になれる『金の郷』だっけ?」


「彼女の思い描く理想郷は、金郷教のものと乖離しています。ですが、彼女の願いは金郷教のものと同一です」


「…………『全ての人に祝福を』」


 以前、キマイラ津奈木が言っていた事を思い出す。

 確か彼も金郷教教主フィルも金郷教信者も全人類が幸せになれるように頑張っていたんだっけ。

 ……金郷教騒動の時の事を思い出し、少しだけブルーになる。


「彼女の真の願いを知った私は、彼女の身体を得る事を諦め、他の世界に旅立とうとしました。ですが、力の大半を天使に奪われた今の私では彼女に争う事は不可能だった。結果、私は残っていた僅かな力さえも彼女に奪われ、彼女の下僕のようなものになってしまった」


「……なるほど、大体承知。つまり、あんたはバイトリーダーの支配から脱したいがために、俺と接触したのか」


「それも一つの理由ですが、大きな目的は彼女の暴走を止める事。このままでは私だけでなく、この世界──否、他の世界群や世界層の人々にも被害が出てしまいます」


「……この世界のバイトリーダーの所為で、全平行世界の人間がヤバいって事か?」


「ええ。今は『絶対悪』──この世界の人類の進化・発展を阻む存在で留まっていますが、このまま彼女を放置していると、『純粋悪』を取り込み、選別された人々から『必要悪』と認■され、最終的■は『■■■』に──」


 始祖ガイアの複製の声が遠退く。

 今になってようやく彼女の身体が霞んでいる事に気づいた。


「把握──今の私に残されている時■がない■を」


「結局、あんたはなんで俺と接触しようと思ったんだ?あんたに言われなくても、俺はあんたとバイトリーダーを止めようとしていたんだぞ。わざわざ俺と接触するメリットがないと思うんだが……」


「──この駅の終■点に彼女はいま■」


 視界が霞み始める。多分、現実世界の俺の身体が覚醒しようとしているんだろう。

 

「金郷■教主は彼女にこの新■線の中にいる人達を食べ■せようと企んで■ます。そして、彼女は■■の■■達に■■■を憑■させようと………」


 この新幹線に金郷教信者達が潜んでいた理由を告げながら、始祖ガイアの複製は伝えなければならない最低限の情報を淡々と告げる。

 いや、お前の昔話をする前に話しとけよ。

 時間制限があるならさ。


「私は彼女から解放さ■たい。……達は彼女を止め■い。な……ば、手を組むのが最善で■ょう。どうです? 悪い話じゃ…………と思い………■が」


「──あんたさ、嘘吐いているだろ」


 始祖ガイアの複製は目を大きく見開くと、嬉しいような悔しいような表情を浮かべた後、苦笑いのような表情を浮かべる。

 その表情は複雑かつ愚かな人間のものだった。


「なら、こうしま■ょう、神■司、私の要求通りに動いて……たら、貴方の望みを……一つ■■……」


 始祖ガイアの声が遠退く。

 茜色に染まる教室が輪郭を失い、始祖ガイアの複製を名乗るドラゴンは霧散していく。

 それを眺めながら、俺は重い目蓋を開けた。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、いいねを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方と新しくいいねを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新ですが、諸事情により6月1日22時頃に投稿致します。

 公募用の小説に注力するため、来週は更新できません。

 本当に申し訳ありません。

 本日更新したお話が、5月最後の更新になりますが、これからも投稿し続けるので、どうかお付き合いよろしくお願い致します。

 唯でさえ週一更新なのにお休み貰って、本当にごめんなさい。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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