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駅の巻

 翌日。

 俺──神宮司は駅のホームで新幹線が来るのを待っていた。

 理由は至って明瞭。

 実家と駅を繋ぐトンネルが復旧したからだ。

 

「こんなに早くトンネルが復旧するとは思っていなかったわ」


 俺の右肩に乗った酒乱天使が不機嫌そうに呟きながら、線路を睨みつける。


「別に良いじゃん。早く目的地に着きそうだし」


「目的地に到達すると同時にラスボス戦始まったら、どうすんのよ。今のままじゃ瞬殺されるわよ」


「大丈夫だ。別世界とはいえ、相手はバイトリーダーだ。こっちが殺意を向けなければ、初戦は撤退できる筈」


「だから、敵は始祖ガイアって言って──」


「人間じゃなきゃ、あの目はできねえよ」


 テレビ画面に映し出される少女──この世界のバイトリーダーの姿を思い出す。

 画面越しだったので、よく分からなかったが、彼女の瞳は追い込まれた時の美鈴と酷似していた。


「……あの目は危険だ。さっさと始祖(なかみ)とやらを取り除かないと、大変な事になる」


 喫煙所前で新幹線を待つ教主様と彼の肩に乗っかる脳筋女騎士──小さな犬のキーホルダーみたいな形になっている──を眺めながら、俺は溜息を吐き出す。

 

「……あんた、何に気づいているわ──」


 酒乱天使は途中で言葉を呑み込むと、キーホルダーの振りをする。

 視線を感じた俺は振り返る。

 啓太郎にジュースを買って貰っている美鈴と目が合った。

 視線の主は彼女じゃない。

 目線だけを横にずらす。

 すると、先生──駅まで俺達を送ってくれた──が俺の方に歩み寄っていた。


「ん、先生、見送りに来てくれたのか?」


「あ、……ああ」


 昨夜の事を思い出しているのか、先生の顔は青かった。

 気まずさに耐え切れず、俺は目を逸らしてしまう。


「……司」


 先生が俺の名前を呼ぶ。

 が、どう答えたら良いのか分からなかったので、俺は適当な相槌を打つ事しかできなかった。

 ……多分、俺達はここに戻って来る事はない。

 この世界のバイトリーダーをどうにかしたら、恐らく俺は元の世界に戻る事になるだろう。

 元の世界に先生はいない。

 だから、これが──厳密に言ったら、彼は俺の先生じゃないんだけど──先生と会話する最後のチャンスだ。

 ……右の拳を軽く握り締める。

 どうせ最後なんだ。

 だったら、最後くらい一歩踏み込んだ質問をしても──

 

「……えと、司、君は野球を続けているのか?」


 俺の一歩踏み込んだ質問は先生の疑問により遮られる。


「え、は、野球?」


「ほら、よく壁当てしたたじゃないか。七夕の短冊にも投げるのが上手くなりたいって書いていたし」


「いや、続けていないけど、……」


「じゃあ、今は何をしているんだ?」


「……喧嘩ばっかしている」


 拳をゆっくり握り締めながら、俺は先生の疑問に答える。


「喧嘩?君は暴力が嫌いじゃなかったのか?」


 先生の方に視線を向ける。

 彼は信じられないような目で俺を見つめていた。

 ……目を逸らす。

 彼の瞳に映る自分の姿は、とてもじゃないが立派な大人には見えなかった。


「どういう事だ?何故、君は喧嘩している?一体、君に何があった?」


「……さあ?俺にも分からねえよ」


 昨晩とは違う意味で居ても立っても居られなくなった。

 なので、俺は衝動のまま、1番聞きたかった事を口にする。


「……なあ、先生、何であんたは"生まれるべきじゃなかった"って考えてんだ?」


 静寂が俺達の間に流れ込む。

 地雷を踏んだ事を自覚していたので、先生の顔を見る事ができなかった。

 新幹線が俺達の前に現れる。

 恥辱と後悔が俺の背中を押した。

 先生に別れの言葉を告げる事なく、俺は"い"の1番に新幹線の中に乗り込む。


「司、待て、話はまだ終わって……」


 最後のチャンスを俺は自ら潰してしまった。

 自分の座席に座った俺は、全体重を背もたれに預ける。

 目を閉じようとした途端、新幹線の中に乗り込んだ啓太郎と美鈴と目が合った。


「お兄ちゃん、先生と話さなくて良いの?」


 不思議そうに首を傾げる美鈴を見た後、俺は瞼を閉じる。


「いいよ。この世界の先生は、俺が知っている先生じゃないし」


 啓太郎は俺に声を掛けなかった。

 美鈴と啓太郎、そして、教主様が自分の席に座る音を肌で感じ取る。

 目的地である東雲市に着くまで、惰眠を貪ろうと思った。


「おいおい、オレを置いて行くなよ!」


 教主様の煩い声が鼓膜を劈く。

 少しだけイラッとしたが、無視する事にした。


「クソ、……こいつ、本当オレの事を舐めているな。だったら、復讐だ。見てろ、見るも無残な姿にしてやるぜ」


 目を閉じたたま、迂闊に近づいてきた教主様の顎に拳を叩き込む。


「うげ!」


 目を開く。白目を剥いた状態で通路側に寝転んでいる教主様の姿が目に入った。

 彼の右手から油性マジックペンが零れ落ちる。

 どうやらアレで俺の顔に落書きするつもりだったらしい。


「司、他の人の迷惑だ。あまり騒ぐなよ」


 啓太郎が欠伸を浮かべながら、俺に忠告を投げかける。


「へいへい、大体承知」


 俺は気絶した教主様を席に座らせると、油性マジックペンで彼の顔面に落書きを施した。

 教主様の顔面を無様なものにした後、俺は自分の席に座る。

 すると、新幹線が動き始めた。

 窓に映し出される風景が、徐々に背後に流れて行く。

 それをぼんやりと眺めていると、俺の肩の上にキーホルダーと化した酒乱天使と脳筋女騎士が乗っかった。


「立て、ジングウツカサ。この列車に敵がいる」


「恐らく始祖ガイアからの刺客だと思うわ。先手を打ちましょう。背後の車両に向かって」


 2人は美鈴と啓太郎に聞かれないような小声で俺に動けと命じる。

 

「……大体承知」


 トイレに行く振りをして、俺は背後の車両に向かう。

 欠伸を浮かべながら、通路を歩いていると、俺の瞳に見覚えのある顔──俺が知っているよりも幼い──が映り込んだ。

 

「……ん?あの娘、あんたに似ていない?」


 酒乱天使が脳筋女騎士に話しかける。

 酒乱天使が指差す先には、脳筋女騎士を幼くした少女──聖十字女子学園生徒会長である四季咲楓と酷似している──が座席に座っていた。


「私の同一存在だろう。気にする事はない」


 そう言って、脳筋女騎士はさっさと背後の車両に向かえと俺に命じる。

 俺は欠伸で返事すると、再び背後の車両の方に向かい始めた。

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくいいね送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 申し訳ありません。諸事情により、告知通り更新できませんでした。

 この場を借りて、深くお詫び申し上げます。

 次の更新は来週4月29日金曜日22時頃に予定しております。

 リアルが忙しくて、週一ペースにしか更新できていませんが、多分、あと20話くらいで終わると思うので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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