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真実の巻


『お父さん、お母さん、こんなダメな息子でごめんなさい。こんな無価値なダメ息子を育ててくれてありがとう。いじめられて、もういきていけない。生まれ変わったら、誰かのために頑張れる価値ある人間になりたいです』


 今から十数年前に起きた事件を思い出す。

 当時小学6年生だった少年がいじめを苦に自室で首を吊って自らの命を絶った事件。

 イジメの主犯格による発言により、自殺した少年の担任をしていた男性教師がイジメのきっかけを作っただけじゃなく、イジメに加担していた事実が発覚し、大きな問題になったイジメ問題。

 連日報道されたらしいけど、イジメの主犯格の少年達もイジメのきっかけを作った担任も証拠不足により裁かれなかった悲しい事件。

 そして、俺の恩師である先生──光洸太が加担した事件。


「光洸太。貴方はあろう事か、イジメ事件に加担したそうだな」

 

(何で啓太郎があの事件の事を知っているんだ──!?)


 窓の外から聞こえて来る声に耳を傾けながら、俺は息を潜める。

 落ち着け、俺。

 啓太郎があの事件を知っていても何らおかしくない。

 だって、あの事件は当時全国ニュースになったのだから。

 まだガキだった俺はともかく、啓太郎が知っていてもおかしくない。

 だが、俺の記憶が正しければ、あの事件の報道で加害者の名前は表に出ていなかった筈だ。

 あのイジメ事件に加担した人の名前を知っているのは、当事者と当事者から話を聞いた人だけ。

 もしかして、啓太郎は誰かから話を聞いたのか……?

 何で? 何のために? 

 頭の中がゴチャゴチャになる。

 何から考えたらいいのか分からなかった。

 

「な、…….何の話だ?」


「惚けるな。この世界でも、あの事件があった事は把握している」


 駐車場から聞こえる啓太郎と先生の声に耳を傾ける。

 彼等の間に割って入ろうとは思わなかった。

 というより、俺も知りたいと思った。

 あの事件の真実を。

 先生が本当にイジメ事件に加担したのか、を。


「教えろ。何故、彼を見殺しにした? 何故、先生であるにも関わらず、イジメに加担した?」


 夜風が窓を微かに揺らす。

 それ以外の音は聞こえなくなってしまった。

 痛い程の沈黙が俺に焦燥感を抱かせる。

 悪い事を何もしていないにも関わらず、心臓が早鐘のように鳴り響いた。


「……き、君は何か誤解している」


 先生の弱々しい声が俺の鼓膜を微かに揺らす。


「私は知らなかったんだ。イジメがあった事を。それさえ知らなかったのだ」


 声が上擦っている。

 多分、先生は嘘を吐き慣れていないのだろう。

 思い出が汚された気分になった。


「いや、もしかしたら、イジメなんてなかったかもしれない。もしアレがイジメだったとしたら、私は教師を続ける事ができていない。言いがかりだ。私はイジメ事件に加担していない。いや、きっとアレはイジメじゃなかった筈だ。彼の自殺の原因は他にあった筈……」

 

 聞き慣れた嫌な音が先生の言葉を遮る。

 その音を聞いた途端、右の拳に痛みが走った。


「……正直に答えろ。何故、彼を、……僕の弟分を見殺しにした…!?」


 怒りを懸命に抑えながら、啓太郎は言葉を紡ぐ。


「これ以上、くだらない嘘を吐いてみろ。もう一発、叩き込むぞ……!」


「はっ、……見殺しにした、か。それは君にも言える事じゃないのか?」

 

 今まで聞いた事のない先生の鼻で笑う声が俺達の神経を逆撫でる。


「君が側に寄り添っていたら、あの子も自殺せずに済んだんじゃないのか?君はあの子に何をした?何をしてやった?何もしなかったから、あの子は自殺したんじゃないのか?」


「黙れ」


 啓太郎の野太い声が鼓膜を劈く。


「君達はいつもそうだ。自分達の怠惰を私一人の所為にしている。担任だから私の所為?それは違う。君達が悪いんだよ。あの子が苦しんでいる事に気づかなかった君達が。あの子が死んだのは、私の所為じゃない」


 早口で捲し立てながら、先生は言い訳を連ねる。

 窓の外には俺が尊敬している先生は何処にもいなかった。


「私は気づいていた。彼が苦しんでいるのを。だから、私は彼に渾名をつけてやった。渾名をつける事で彼をクラスに馴染ませようとした。そしたら、これだ。私がつけた渾名がイジメのきっかけだって?バカバカしい。彼はその前からイジメられていた。イジメの原因は、彼が根暗だったからだ。彼が友達を作らなかったからだ。私の所為じゃない。全部、彼本人と君達が悪い、……」

 

 窓を蹴破る。

 勢い良く蹴破った所為で、窓枠とガラスの破片が地面に落ちてしまった。

 言い訳を遮られた先生は、2階から見下ろす俺の姿を視界に入れる。  

 そして、顔を青褪めると、逃げるようにその場から立ち去った。

 

「……起きていたのか」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、啓太郎は俺から目を逸らす。


「悪かったな、真実を突きつけて」


「別に。とっくの昔から知っていた事だし」


「本当にそうか?」


 啓太郎は意地の悪い質問を投げかける。


「君は恩師の本当の姿を知っていたのか?」


 その質問に答える事はできなかった。


「……悪い、八つ当たりしてしまった」


 謝罪の言葉を告げた後、啓太郎は何処かに行ってしまう。

 残された俺は右の拳を握り締めると、夜空を仰いだ。

 夜空は厚い雲に覆われていた。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、いいねくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 皆様のお陰で、本作品のブクマ件数が350件突破する事ができました。 

 この場を借りて、お礼を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

 次の更新は4月11日月曜日22時頃に更新予定です。

 まだまだ続きますが、これからも定期的に更新し続けるので、お付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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