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金郷教前教主の巻

 テレビの画面に映し出される金郷教教主を名乗る女性──玖陽土(くぴど)華亞真(かあま)ではなく、彼女の背後にいる幼いバイトリーダーに意識を奪われる。

 金郷教前教主である女性が、"世界は破滅の危機に陥っている"とか"ガイア神を崇めれば全人類は救われる"とか言っているが、俺の頭に何一つ残らなかった。


「……何で始祖ガイアは、この女の言う事を聞いているの……?」


「恐らくコイツが始祖ガイアを完全に制しているか、或いは始祖ガイアの気まぐれか。どちらにしろ、始祖が大人しくしている理由が分からない。……何か理由がある筈だ」


 酒乱天使と脳筋女騎士が何もしない始祖ガイアに違和感を抱く。

 俺はというと、この世界のバイトリーダーを注意深く観察するだけで精一杯だった。


「どうした、司。そんな険しい顔をして」


「……あ、いや、平行(べつ)世界とはいえ、バイトリーダーと闘うのは嫌だなーって」


 啓太郎の疑問に答えながら、俺は眉間に皺を寄せる。


「知り合いに似ているからって日和るんじゃないわよ。アレはあんたの知っている黄泉川なんちゃらじゃない。始祖ガイアなの。好きだとか嫌いだとか言ってられる次元じゃないの。情けをかけて何とかなる相手じゃ……」


「お兄ちゃんは何でお姉ちゃんと闘うのは嫌だと思っているの?」


 酒乱天使の言葉を遮るように美鈴は疑問を口にする。


「そりゃあ、俺、何故か知らないけど、あいつの事が苦手だし……あいつに勝った事、1度もないし」


 いつも俺の心を見透かすバイトリーダーを思い出しながら、俺は溜息を吐き出す。


「だから、アレはあんたの言うバイトなんちゃらじゃなくて、始祖ガイアだって。あの娘の身体は、始祖ガイアが乗っ取ったって」


「……ん?待て、司。君はアレをバイトリーダーとして見ているのか?」


 何度言っても聞く耳を持たない俺に呆れる酒乱天使に対し、啓太郎は聞く価値がないような質問を繰り広げる。


「ん?アレはバイトリーダーだろ?正確に言ったら、俺らが知っているバイトリーダーじゃないけど」


 テレビに映っている彼女の姿と啓太郎を交互に見ながら、俺は首を傾げる。

 

「君はアレを始祖ガイアとして……」


 突如、鳴り響いた地鳴りにより、啓太郎の疑問は掻き消される。


「また地震かよっ!?」


 リアクション担当の教主様は頼んでもいないのに良い反応を披露してくれる。

 リアクション芸人みたいだと思いながら、地震が収まるのを待つ。

 すると、テレビ画面の中に映し出されていた荒野(けしき)が森へと変貌した。

 金郷教前教主の女性と幼いバイトリーダーの背後に山よりも大きな見覚えのある巨体──角が生えている筋肉隆々の人型の化物──がテレビ画面に映し出される。

 それを見た瞬間、俺は先程遭遇した純粋悪"鬼"を思い出した。


「なっ……!?また純粋悪が現れたというの!?」


「どうなっているんだ、この世界は……!?」


 立て続けに純粋悪が顕現する事自体が異常事態なのか、酒乱天使と脳筋女騎士はかなり動揺する。

 俺はというと、酷く落ち着いていた。

 理由はよく分からない。

 いや、何となく理解している。

 多分、俺は信頼しているんだろう。

 彼女を。


「「「「……!?」」」」


 画面に現れた山よりも大きい純粋悪"鬼"は突如現れた光の柱によって、跡形もなく消される。

 鬼は誰かを害する事なく何かを害する事なく何も成し遂げる事なく、この世界のバイトリーダーに消されてしまった。


 "見てください"、と金郷教前教主である女性がテレビの前にいる俺達に語りかける。

 女性は力説した。

 "信じる者は救われる"と。

 "金郷教に入れば、みんな幸せになれる"と。

 その言葉は薄っぺらくて、俺の胸には何も響かなかった。


「あの純粋悪っていう化物を一撃って、……こ、これがガイア神……いや、始祖ガイアの力なのか……?」


 この世界のバイトリーダーが放った光の柱の破壊力に恐れ慄く教主様。

 美鈴も啓太郎もテレビに映し出された情報を飲み込めていないのか、ポカンと口を開けていた。


「……始祖は万能の生命体だからね。これくらい余裕でできるって訳よ」


 そう言って、酒乱天使は苦々しい表情を浮かべる。


「あ、……あんな大火力をぶっ放せる相手に勝ち目なんてあるの……?」


 美鈴は目を大きく見開いたまま、固まってしまった。


「たとえ私とアランが万全な状態で闘えたとしても、私達だけで始祖を倒すのは無理ね。あと開拓者(アウトサイダー)が2〜3人集まれば、あいつの"絶対性"にメタ張れるツカサがいるから勝てるかもしれないけど、……」


 自信なさそうに呟く酒乱天使から目を逸らしつつ、俺は他の人の顔色を伺う。

 美鈴も啓太郎も教主様も脳筋女騎士も眉間に皺を寄せていた。

 うん、めちゃくちゃ空気が重い。

 なので、俺は場の空気を明るくするため、ある提案を投げかけた。


「とりあえずカラオケ行こうぜ」


「「「「行かない」」」」


 ガチ目な感じで睨まれた。

 "やべえ、冗談でも言うべきじゃなかった"と思いながら、俺は明後日の方向に視線を逸らす。


「本当、君は何処に行っても、何が起きても、君のままだな」


「どういう意味だよ、それ」


「信頼しているという事だ」


 呆れたように呟く啓太郎の言葉が俺の胸に突き刺さる。

 ああ、もう少し気の利いた事が言えるような大人になりたい。 

 そんな事を心の底から思った。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は来週金曜日2月25日12時頃に予定しております。

 追記:申し訳ありません。私情により2月25日の更新をお休みさせて貰います。次の更新は3月4日22時頃の予定です。告知通りに更新できなかった事を深くお詫び申し上げます。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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