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?月?日(1) 見知らぬ世界と死んだ彼の巻


「どうして、こうなったんだろう」


 河原に両手両膝を突きながら、項垂れる美鈴を横目で見つつ、俺は逸れてしまった愉快な仲間達()を探す。

 幾ら周囲を見渡しても、見覚えのある木々しか見当たらなかった。


「……まさか、啓太郎さん達と逸れるなんて……」


 今、俺達が置かれている状況を簡単に説明しよう。

 始祖ガイアを追っていた俺達は、啓太郎・教主様・酒乱天使カナリア・脳筋女騎士アランと逸れてしまった。

 何で逸れたかというと、この世界に向かう途中、酒乱天使と脳筋女騎士が目に見えない力によって弾かれたからだ。

 その見えない力の余波とでも言うべきか、それにより俺達は分断してしまった。

 現在、俺と美鈴は見慣れた川原──美鈴にとっては見慣れないもの──で途方に暮れているという訳だ。

 以上、説明は終わり。


「ここはガイア神……ううん、始祖ガイアが逃げ込んだ世界なのかな?カナリアさん達はどこにいるのかな?というか、カナリアさん達と合流しなかったら、元の世界に戻れないんじゃ……」


「不安になっても時間の無駄だ。美鈴、とにかく動くぞ。困った時は、とりあえずアクションだ。何かしらの道が開ける筈」


 落ち込む美鈴を励ましつつ、俺は人里に向かおうとする。

 とりあえず先ずは衣食住を確保しよう。

 人間、着るものと食べ物と寝る所を確保しないと生きていけない訳だし。

 とりあえず啓太郎達を探すのは後回しにしよう。

 多分、酒乱天使辺りが逸れた俺達を見つけてくれるだろうし。

 とにかく今はできる事をできるだけしよう、うん。

 そう思いながら、俺は"村"の方に歩き始める。


「って、お兄ちゃん!?どこに向かっているの!?ここ、山の中みたいだけど……そんな闇雲に歩いて大丈夫なの!?遭難しないよね!?」


「大丈夫だ、美鈴。多分、俺が正しければ、ここは……」


 そんな事を言いかけた途端、遠くから水の跳ねる音が微かに聞こえて来る。

 この音は魚がジャンプする音ではない。

 水を掻く音だ。

 それも泳ぎが上手い人が出す音ではない。

 溺れている人が出す水の音だ。


「ちっ……!」


 誰かの命の危機を悟った俺は、慌てて音源の方に向かう。


「ちょ……!お兄ちゃん!置いて行かないで!!めちゃくちゃ心細くなるから!!」


 美鈴が着いて来ている事を把握しつつ、俺は全速力で河原を駆け抜ける。

 走り始めて十数秒後。

 俺は短髪の男の子が懸命に手足を動かしているのを目視した。

 音源があの男の子からである事、あの男の子は泳げない事を瞬時に把握する。


「今、助けてやるからな……!」


 そう言って、俺は川の中に飛び込む。

 気がつくと、俺は河原の上で寝そべっていた。


「バカなの!?お兄ちゃん、バカなの!?」


 口の中に入った川の水を吐きながら、俺は美鈴の方を見る。

 彼女はさっきまで溺れかけていた少年の背中を叩いていた。

 美鈴が少年の背中を叩く度、少年の口から水がドバドバ出てくる。

 どんだけ水を飲んだんだ、こいつ。


「泳げないのに水の中に飛び込まないでよ!お兄ちゃんも助けなきゃいけない事になったじゃんか!!」


 美鈴の発言により、俺も溺れていた事を自覚する。

 ああ、そういや、俺、泳げないんだっけ。

 最近、色々あったから、つい忘れていた。

 胃の中に入った水をドバドバ吐き出しながら、俺は自分が泳げない事を改めて痛感するり


「忘れないでよ!というか、こないだプールで何度も溺死しかけたよね!?生死の境目を彷徨っていたのを忘れないでよ!お願いだから!!」


 自分よりも圧倒的に幼い少女に叱られてしまう。

 ……こんな調子で俺は立派な大人になる事ができるのだろうか。

 自分自身に呆れながら、俺は美鈴に感謝と謝罪の言葉を述べる。

 

「……まあ、お兄ちゃんの愚行は置いといて。この子の事なんだけど………」


 そう言って、美鈴は俺と溺れていた男の子の顔を交互に見る。

 そして、何か変な事を言い始めた。


「ん?……この子、どことなくお兄ちゃんの面影があるような……」


「ん?そうか?」


 本当に俺の面影があるのか、確かめるために少年の顔をぼんやり眺める。

 黒紅色の髪。

 幼い顔つき。

 美鈴の言う通りだった。

 というか、毎朝見ている顔だから分かる。

 こいつは俺の……


「司っ!?どこにいる司っ!?」


 遠くから中年男性の声が聞こえて来る。

 その声を聞いた瞬間、俺の心臓は跳ね上がった。

 その声の主の方に視線だけではなく、顔も身体も向ける。

 すると、木々の間から懐かしい姿が飛び出して来た。

 彼の姿を見た途端、俺は息をする事もわすれてしまう。

 彼の姿は俺が知っている彼よりも少しだけ若々しく、見慣れたものだった。

 あの晩夏の教室で交わした会話が、あの夕暮れの教室で聞いた価値のある言葉が、俺の脳裏に過ぎる。

 そう、彼は俺の──


「……司、なのか?」


 俺の恩師でもあり、孤児園『ひまわりの園』で働いている美智子さんの夫でもある"先生"──(ひかり)洸太(こうた)は、高校生になった俺と伏せている小学生の俺を交互に見ると、驚きのあまり声を失ってしまった。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 本日から10万PV達成記念短編4月31日[急]を投稿していきたいと思います。

 前回の4月31日(破)とは違い、今回のお話は本編と同じように神宮司の掘り下げを中心に行っていく予定です。

 また、本編内で残っている伏線も出来るだけ回収していきたいと思います。

 現在、同時連載中の「王子の尻を爆破した(略)」の完結の方を優先しているため、今月の「価値あるものに花束を」は週一更新になると思いますが、ちゃんと此方も完結させるので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。

 次の更新は12月17日金曜日12時頃に予定しております。

 もしかしたら20時頃に変更になるかもしれませんが、その時はTwitterの雑談垢(@norito8989)・宣伝垢(@Yomogi89892)にて告知するので、ご理解の程よろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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