?月?日(?)助っ人/フクロウと浮島と影武者/4月31日(急)プロローグ
『?月?日(?)助っ人』side:ジングウツカサ
「……分かった、君の要求を呑もう」
嫌そうな表情を浮かべながら、ジングウは赤光の魔導士の要求を呑む。
「始祖ガイアの討伐を優先する。その代わり、君は──」
「ルルイエが逃げ込んだ世界は、この水晶が教えてくれる」
赤光はジングウとの戦闘で負った傷を魔術で癒しながら、ルルイエの居場所をが記されている水晶をジングウに投げ渡す。
「あいつは傷を癒やし次第、逃げ込んだ世界にいる人類を滅ぼすだろう。あれはそういう女──」
赤光の言葉は異空間に現れた来訪者達によって阻まれてしまった。
即座にジングウと赤光は視線を周囲に向ける。
そこには始祖ガイアの従僕と思われる人型の土塊──始祖ガイアの従僕である天使達が立っていた。
「……数はざっと数百体、か」
ジングウは懐から愛用の短剣を取り出しながら、眉間に皺を寄せる。
「なるほど。始祖ガイアは小さい方のジングウ達ではなく、俺達を足止めしたいのか」
剣の形を象った光を右手で握り締めながら、赤光の魔導士は舌打ちする。
「……ああ、そうらしいな」
ジングウは始祖ガイアが逃げ込んだ世界に向かい始めた神宮司達の方に意識を向ける。
始祖ガイアは神宮司達を警戒していないのか、彼等に刺客である天使を送り込んでいなかった。
「はっ。始祖ガイアにとって、あいつらよりも俺達の方が厄介という事か。なるほど、そいつは光栄だ」
いつ襲いかかってもおかしくない天使達を睨みながら、赤光の魔導士は鼻で笑う。
「──赤光、動けるか?」
「誰かさんにやられた傷が痛くて、身動き1つ取れない……って言ったら、お前はどうする?」
「無駄口を叩く元気があるんだったら、大丈夫そうだな」
ジングウが呆れ顔で溜息を吐き出した後、上から褐色の青年が振り落ちる。
彼はダイナミックに固形化した極光の上に着地すると、ジングウと赤光に殺意を向けながら、こう言った。
「……お前らを、助けてやる」
指の骨を鳴らしながら、褐色の青年は天使と向かい合う。
「それは君の意思か?それとも第14始祖の成れの果ての意思か?」
褐色の青年はジングウの疑問に答える事なく、天使達の群れに突撃を開始し始める。
彼の後に続くように赤光の魔導士も攻撃を開始した。
ジングウは迫り来る天使の斬撃をナイフで受け止めると、大袈裟に溜息を吐き出す。
(これは一筋縄ではいかないようだな。……どうやら始祖ガイアはツカサ達に任せた方が効率的らしい)
始祖ガイアが逃げ込んだ世界に向かう神宮司達に想いを馳せながら、ジングウは自分に攻撃を仕掛ける天使達と闘い始めた。
『フクロウと浮島と影武者』side:フクロウの獣人
「……なるほど。始祖ガイアの力を奪った天使が逃げ込んだのは、この世界ですか」
空間の割れ目から抜け出したフクロウの獣人は、空に浮かぶ巨大な大陸を見下ろしながら溜息を吐き出す。
「……どうやらかなりの年月が経過したみたいですね」
宙に浮いたままの状態で、フクロウは空に浮かぶ大陸に住む人々の暮らしを見下ろしながら、年月の経過を確認する。
「以前、この世界に来た時は宙に浮く大陸なんてなかったと記憶していますが……もしや、あの天使、かなり前からこの世界に干渉していたのでしょうか?」
フクロウは黄金の風に乗ったまま、考察に耽る。
だが、情報が殆どない状態で幾ら考察しても満足のいく答えを得る事はできなかった。
「……とりあえず、調査しますか」
そんなでかい独り言を呟いながら、フクロウは浮島で1番栄えていそうな街に上陸する。
その街は数十メートル級の壁に囲まれていた。
浮島に降り立ったフクロウは周囲の状況を確認する。
敷き詰められている煉瓦の建物は闇の中に埋もれている。
街灯はどこにも見当たらない。
恐らくこの浮島に電気はないのだろう。
月光だけが街道を淡く照らす。
建物の中から微かに寝息が聞こえてくる。
そんな寝息が聞こえてくるくらい、街は静寂かつ平穏だった。
フクロウは何となくではあるが把握する。
この浮島の文明レベルを。
(私の予想が当たっていれば、この浮島は私の世界で言う中世ヨーロッパと同レベル。電気は普及しておらず、夜の闇を蝋燭の火で誤魔化している)
家の中から微かに漏れる蝋燭の灯りを眺めながら、フクロウは誰1人いない表通りを歩き始める。
すると、フクロウの耳に2人分の足音が聞こえてきた。
その足音の主に意識を向ける。
その瞬間、フクロウは理解した。
この世界に逃げ込んだ天使の目的を。
あの天使が始祖ガイアから力を奪った理由を。
(……これは、手段を選んではいられませんね)
そう思ったフクロウは足音の主の方に向かい始める、
裏道に入るや否や、フクロウは足音の主と鉢合わせた。
「なぁっ!?人型のフクロウ!?」
驚く女性の声がフクロウの鼓膜を劈く。
「声がデカい!!追っ手に見つかったら、どうするのよ!?」
「お嬢様の方が声でかいと思いまーす!!」
「本当、ああ言えばこう言う子ね!誰に似たのかしら!!??」
「そりゃあお嬢様ですよ。ほら、私、お嬢様の影武者ですし?」
高そうなドレスを着た金髪金眼爆乳美女は、高そうな金髪金眼爆乳美女と睨み合いを開始する。
彼女達の容姿は瓜二つだった。
彼女達を目の当たりにしたフクロウは少しだけ驚きの声を上げる。
彼女達の容姿が瓜二つである事に驚いているのではない。
"彼女"の身体から漏れ出る魔力量に驚いているのだ。
(なるほど。あの天使はこの娘を依代にするつもりなのか)
人の身ではあり得ない魔力量──その量は過去に始祖ガイアの分霊を宿した美鈴と同程度──に驚きながら、フクロウは確信する。
目の前の女性が天使にとって必要不可欠である事を。
「……さて、世界を救わせて貰いましょうか」
お嬢様と呼ばれる女性の"影武者"の方を見つめながら、フクロウはキザな台詞を口から吐き出した。
4月31日(急)プロローグ side:ガラスの竜
「……ここね、始祖ガイアが逃げ込んだ世界は」
神宮司達よりも先にガラスの竜は始祖ガイアが逃げ込んだ世界に辿り着くや否や、高層ビルの屋上にて傍観に徹する。
「ふーん、なるほど。始祖ガイアはこの世界のあいつらに呼ばれたって訳か」
ガラスの竜は千里眼で始祖ガイアの分霊を宿した"少女"──ガラスの竜と少なからず因縁のある女の子の同一存在──を眺めながら、溜息を吐き出す。
「よりによって、この世界の"あの女"に憑依したか。……これはかなり面倒臭い事になりそうね」
面倒臭いと言いつつ、ガラスの竜は側から見たら楽しそうな表情を浮かべながら、"あの女の同一存在"を観察する。
「さあ、勝つのは始祖ガイアかしら。私かしら?神域到達者かしら。それとも──"あの女"かしら?」
千里眼の行使を止めたガラスの竜は、眼前に広がる街──東雲市新神──を眺めながら、頬の筋肉を緩ませる。
その顔は悪戯を思いついた子どもみたいに幼く可愛いらしいものだった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。
今回の番外編は4月31日(破)の補足みたいなものです。
ジングウ・赤光・褐色の青年は始祖ガイアによる足止めを食らっている事、ガラスの竜は神宮司達よりも先に始祖ガイアの世界に辿り着いた事を描写したいがために、今回の話を投稿しました。
また、フクロウの獣人視点の「フクロウと浮島と影武者」は現在同時連載中の『王子の尻を爆破してお尋ね者になった悪役令嬢とコスパが悪過ぎるという理由で追放された僧侶と自由を求めて奴隷になった魔王の娘と浮島に呼び出された俺。〜頼むからお家に返して…え?んな事言ってももう遅い?〜』の第0話みたいなものです。
ピエロみたいな天使が始祖ガイアの力を奪った理由、フクロウの獣人の掘り下げは『王子の尻(略)」で掘り下げますので、こっちの作品もお付き合いしてくれると嬉しいです。
また、12月は『王子の尻(略)』の方に集中するので、本作品の投稿スピードは遅くなると思いますが、ちゃんと完結させるので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は12月10日(金)12時頃に投稿予定です。




