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4月31日(25) 始祖と天使の巻

 俺の白雷により一時的に行動停止状態に陥った化け猫──純粋悪"魔猫"は、碌な抵抗ができないまま、断末魔を上げる事さえままならないまま、脳筋女騎士──アランが放った一撃により、光の奔流に飲み込まれてしまう。

 彼女の放った一撃は、まさに破壊の権化。

 全長100キロメートル級の化け猫よりも巨大な光の斬撃で、彼女は化け猫を肉片の1つ残す事なく、灼き切ってしまう。

 いや、化け猫だけではない。

 彼女は化け猫が立っていた大地も跡形もなく消し炭に変えてしまった。

 

「あ、あれがあいつの全力……」


 震えた声で教主様は脳筋女騎士の火力を褒め称える。


「いや、全力じゃないわ」


 それを俺を背に乗せた状態で宙に浮いている酒乱天使カナリアが否定する。


「まだ余力はある。多分だけど、あいつ、あの一撃を連発しようと思えばできる筈だわ」


「みたいだな。奴が強みは火力ではなく、あの火力を──国の半分を更地にする一撃を連発できる所らしい。いや、流石は開拓者(会うとサイダー)といった所か。俺みたいな三流物書き(ゴーストライター)とは格が違う」


 茶髪の幼女は苦笑いしながら、教主様が作った砂鉄の足場に乗った状態で土煙に覆われた地表を見下ろす。


三流物書き(ゴーストライター)、……ね」


 含みのある言い方で酒乱天使は茶髪の幼女の方を見る。


「どうした?俺の正体がそんなに気になっているのか?」


「いや、そんな平行世界があるんだなって。私の予想なんだけど、あんたは……いや、あんたと赤光の魔導士はB世界群のX世界点から来たんじゃないの?」


 何か酒乱天使の口から未知の単語が出てきた。

 何だよ、B世界群のX世界点って。


「流石は世界を股にかける天使様だ。俺如きの隠し事を一眼で看破するとは」


「だったら、詠唱や技の名前を改める事ね。文学に精通している人なら、あんたの正体くらい余裕で看破できるわよ」


 文学に精通していない俺では、茶髪の幼女の正体を推察する事はできなかった。


「らしいな。そこにいる救世主志望も俺の正体に勘づいているようだし。……俺の雇い主も所変われば、人類史に名を残す大文豪になれたって訳か」


 忌々しいと言わんばかりに、茶髪の幼女は明後日の方向を睨みつける。

 その瞬間、地上から小さな爆音が聞こえてきた。

 

「ちっ、どうやら第14始祖の成れの果てが動き始めたみたいだな」


「みたいね。なるほど、あいつが協力していたのは討伐した純粋悪から力を奪い取るためだったのか」


 彼女達の反応から察するに、ガラスの竜が地上で暴れているんだろう。

 恐らく"絶対善"の時みたいに死骸になった化け猫から力を奪い取ろうとしていると予想する。

 多分、ガラスの竜は真の力と真の姿を取り戻そうとしているんだろう。

 ……あの時は完全に復活していなかったから、何とか瞬殺できたが、今回も瞬殺できるとは限らない。

 今、真の姿とやらに戻られたら、かなり厄介だ。

 最悪、ガラスの竜の所為で元の世界が滅びるかもしれない。

 そんな事を考えていると、土煙の中からガラスの竜が出てきた。

 彼女は切羽詰まったような顔で背中にあるガラスの翼を羽ばたかせると、何かから逃げるように宙を飛び回る。

 彼女の跡を追うように、土煙の中から何かが飛び出た。


「あいつは………!」


 その"何か"は見覚えしかなかった。

 天真爛漫・人畜無害を体現するかのような容貌。

 雪のように真っ白になった髪に、ガラスの竜 (人間態)を幼くした風貌。

 間違いない、あれは美鈴だ。

 だが、俺が知っている美鈴とは少し違う。

 金郷教騒動後、彼女の髪は真っ黒になっている。

 だが、ガラスの竜を追いかけている美鈴の髪は真っ白だ。


「おい!酒乱天使!!美鈴は無事って言ってたよな!?あれは一体何なんだ……!?何で美鈴が空を飛んでい……」


「「ぎゃああああ!!!!」」


 酒乱天使が視線を上に向けた途端、頭上から聞き慣れた男女の声が聞こえて来た。

 反射的に俺は落ちてきた2人──美鈴と啓太郎の手を取る。


「ぎゃあああああ!!!!高いイイイイイ!!!!!落ち、落ち、落ちいいいいい!!!!!」


「何で僕らがこんな所にいるんだあああああ!!!!!????司!その手を離すなよ!!??絶対に話すなよ!!??」


「なるほど。やっぱり、あれはこの世界にいる神器を依代にしているって訳ね」


「おい、1人で納得するな。俺に説明しろ」


 暴れ狂う美鈴と啓太郎を酒乱天使の背に乗せながら、俺は疑問を呈する。


「言葉通りの意味よ。そこにいる美鈴ちゃんと第14始祖の成れの果てを追っている美鈴ちゃんは別存在って事。そして、あの美鈴ちゃんの中に入っているのは……」


 ガラスの竜を追っていた別存在の美鈴と目が合う。

 顔の左側が焼け爛れている別存在の美鈴と目が合った瞬間、俺と美鈴は確信した。

 あの美鈴の中に入っているのはガイア神──始祖ガイアである事を。


「──標的、確認。ジングウツカサの排除を最優先にします」


 別存在の美鈴──始祖ガイアは標的を変更すると、俺達との距離を縮め始める。

 その隙にガラスの竜は空間に穴を開けると、別世界に逃げ込んでしまった。


「ちっ……!いきなりラスボス戦かよ……!」


 籠手を装着した右腕で拳を握り締める。


「いや、これは好機と言っても過言じゃないぞ。何故かは知らんが、今の奴はかなり弱体化している」


 教主様の作った砂鉄の足場で胡座をかきながら、茶髪の幼女は淡々と呟く。


「しかも、アレは今1番厄介な"絶対性(アブソリュート)を持っていないわ。あれを殺るなら今しかない……!」


「おい、待て。とりあえず、僕らを安全な場所に移してから闘ってくれ。僕は色々おかしい司と違って、ガチの一般人なんだぞ」


「け、啓太郎さんの言う通りだよ。とりあえず、私達をあの金郷教元教主(クソ野郎)の所に避難させよう?じゃないと、足手纏いになるよ、私達」


「さ!ラスボス戦行くわよ!」


「大体承知!!」


「「お願いだから、僕/私の言う事を聞け/聞いて!!」」


 美鈴と啓太郎が何か言っているが、全部無視する。

 というか、ガス欠寸前の幼女と力不足の教主様の所よりも、酒乱天使の背中に乗っている方が安全だっての。

 そんな簡単な説明をする暇もなく、違う世界の美鈴の身体を乗っ取った始祖ガイアは、バカデカい光球を放ち始める。

 酒乱天使が宙を縦横無尽に駆けようとしたその時だった。

 突如現れたピエロみたいな風貌をした天使──俺がここに来る前に戦った天使。確か天使ガブリエルっていう名前だったと思う──が、始祖ガイアの背後を取る。

 そして、天使ガブリエルは攻撃を放とうとした始祖ガイアの背中に自らの右手を突っ込んだ。


「「「なっ──!?」」」


 天使ガブリエルは創造主である始祖ガイアから"何か"を抜き出す。

 抜き出した"何か"は黄金に輝く宝石だった。

 一眼見ただけで分かる。

 いや、俺はあれを破壊した事がある。

 あれは始祖ガイアの本体みたいなものだ。

 力の源流。

 この世界に存在するために必要なもの。

 そんな始祖ガイアにとって必要不可欠な代物を天使ガブリエルは奪い取ってしまった。


「……っ!なるほど、私と同じようにあの天使にも自我が芽生えたって訳ね!」


 ニタニタ笑うピエロみたいな風貌をした天使ガブリエルを睨みながら、酒乱天使は納得したような声を上げる。


「つまり、あの天使は創造主である始祖ガイアを超えるために、始祖ガイアを裏切ったって訳か。なるほど。"小さい方のジングウをこの世界に誘い出したのは、始祖ガイアの隙を作るためだった"。そう考えれば、色々納得がいく。恐らく救世主志望や松島啓太郎をこの世界に引き摺り込んだのは、確実に小さい方のジングウを誘き寄せるためだったんだろう」


 少ない情報で茶髪の幼女は真実に辿り着く。

 彼女のお陰で俺は理解する事ができた。

 何故、美鈴だけでなく啓太郎と教主様も巻き込まれたのかを。

 あいつは始祖ガイアの注意を引くために、始祖ガイアから確実に力を奪い取るために、俺をこの世界に誘き寄せたのだ──!


「力の92%を喪失した事を確認。──緊急事態発生。これより別世界への転移を始めます」


 そう言って、始祖ガイアは最後の力を振り絞って、空間に穴を開けると、その中に入り込む。

 

「逃がすかっての……!」


 逃げようとする始祖ガイアを右の籠手の力で捕らえようとする。

 それと同時に天使ガブリエルは空間に穴を開けると、開けた穴の中に飛び込んでしまった。


「あ、ちょ、待て!!」


 慌てて天使ガブリエルも右の籠手の力で引きつける。

 その所為で、力が分散してしまい、どっちも逃してしまった。


「……二兎追うものは一兎も得ず」


 啓太郎の呆れたような声が俺の鼓膜を揺らす。


「いや、今のはツカサだけの落ち度じゃないわ。始祖ガイアの判断力とあのピエロみたいな天使の対応が、今の私達よりも上だっただけ。別に恥じる事はないわ」


 俺の失態を酒乱天使はフォローしてくれる。

 その優しさが俺の心に染み渡る。

 やばい、俺、こいつに惚れちゃいそう。


「魔力の流れから察するに、どうやら始祖ガイアと始祖ガイアから力を奪った天使は、別々の世界に逃げ込んでいるみたいだな」


 茶髪の幼女は興味なさそうに呟きながら、俺達の反応を伺う。


「ちなみに俺はもうこれ以上お前らに協力する気はないぞ。赤光との約束は殆ど果たした上、始祖ガイアの弱体化を確認できたからな。あれならお前らだけで対処できるだろう。俺は下ろさせて貰う」


「あの天使はどうするつもりだ?見逃すつもりか?」

  

 土煙の上がる地表から脳筋女騎士アランが俺達の下にやって来る。

 彼女は飛べる事が当たり前と言わんばかりに、宙を飛行していた。

 ……いいなー、俺も自由に空飛びたい。


「はい、タ○コプター (裏声)」


「………」


「ちょ、お兄ちゃん!?無言で啓太郎さんを落とそうとするの止めて!!めちゃくちゃ怖いから!!」


 めちゃくちゃ下手な猫型ロボットの物真似をした啓太郎を地上に落とそうとするも、全力で美鈴に止められてしまう。


「安心しろ、脳筋。あのフクロウの獣人が天使の後を追っている。俺の予想が正しければ、あいつ1人でどうにかなるだろう」


「どうにかなる……ねぇ。果たして、どうにかなるかしら」


 茶髪の幼女の主張が不服なのか、酒乱天使は反対意見を述べる。


「大丈夫だろう。あいつは何だかんだ甘い赤光の魔導士と違い、本当の意味で手段を選ばない男だ。あの天使が本格的に暴れる前に奴の野望を挫いてくれるに違いない」


「だから、危険なのよ。あいつ、目的のためなら、犠牲にできるものは何でも犠牲にすると思うわよ」


「そんなに心配するんだったら、お前が何とかすれば良い。……まあ、お前がこの場で出す結論は既に決まっているだろうがな」


 その言葉が最後と言わんばかりに、茶髪の幼女は空間に穴を開けると、この場から立ち去ろうとする。


「……ああ、そうだ、小さい方のジングウ。お前に最後のアドバイスだ」


 空間に開けた穴の中に入りながら、茶髪の幼女は俺に語りかける。


心器(アニマ)とは己の願望を形にする武器だ。つまり、お前が己の願望を自覚しない限り、その籠手の力を十二分に引き出せない。強くなりたければ、己の願望を自覚しろ。お前の場合、14の夏を思い出すのが1番の近道だ」

 

 その言葉を俺に残すと、茶髪の幼女は俺達の前から永遠に姿を消した。

 多分、2度と会う事はないだろう。

 確証はない。

 けど、そんな気がする。

 きっと彼女と相対するのは俺の役目ではないんだと思う。

 多分、あの幼女と相対する運命にあるのは俺ではない俺だ。

 ……そんな気がする。


「で、これからどうするんだ?」


 啓太郎は残った俺・美鈴・教主様・酒乱天使・脳筋女騎士に疑問を投げかける。  

 当然、俺達の出す結論は決まっていた。

 ほぼ同じタイミングで俺と酒乱天使と脳筋女騎士は、同じ内容を口にする。


「「「始祖ガイアを追いかける」」」


 かくして、俺達は違う世界のガイア神を追いかける事になった。



 ──4月31日(破):閉幕──

 

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 今回の更新で9万PV達成記念短編「4月31日(破)」は終了です。

 7万文字という短編とは名乗れない程の大ボリュームになってしまいましたが、10万PV達成記念短編「4月31日(急)」は2〜3文字で完結すると思います。

 また、「4月31日(破)」に出てきたジングウ・赤光の魔導士・ルルイエ・茶髪の幼女は、「価値あるものに花束を・ブクマ200件記念中編」で掘り下げる予定です。

 恐らくブクマ200件記念中編の投稿は、来年の2月以降になると思いますので、少々お待ちください。

 現在、鋭意執筆中です。

 ちなみに、次の更新は12月3日金曜日12時頃に投稿予定です。

 「4月31日(破)」の後日談兼「4月31日(急)」の前日譚みたいな内容のお話を投稿すると思います。  

 10万PV達成記念短編「4月31日(急)」は12月10日12時頃から投稿を開始する予定です。

 恐らく今年中に完結しないと思いますが、来年の春までに完結できるように頑張りますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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