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4月31日(20) 圧倒の巻


「小さい方のジングウ。安心しろ、俺がお前の秘めた願望を暴いてやる。なーに、ゴーストライターと言えど、俺だって作家の末端を汚す者。文章力や構成力はともかく洞察力だけは無駄にあるぞ」


 自分の事を親指で指差しながら、幼女改め自称作家はおっさん臭い笑みを浮かべる。

 唐突に話を振られた俺は少し動揺してしまい、疑問の言葉を口にする事ができなかった。


「つまり、何?私達の味方になるとでも言いたい訳?」


 少し苛ついた様子でガラスの竜は茶髪の幼女に疑問を呈する。


「まさか。俺は小さい方のジングウを批評しに来ただけで、あの純粋悪モドキを止めるつもりはない。あれはルルの足跡の一部だからな。奴の末路を見届ける事が俺の目的である以上、奴の邪魔をするお前らと仲良しこよしするつもりはない」


「では、貴様は私達の敵……で良いんだな?」


 殺意を剥き出しにしながら、脳筋女騎士は剣を構える。


「おいおい、俺を殺す気か?止めとけ。俺がいないとジングウを覚醒させる事ができないぞ。始祖ガイアは勿論、あそこにいる純粋悪モドキですら倒す事ができなくて良いんだったら止めないが」


「ツカサが覚醒しなくても、私達で何とかしてみせる」


「無理だな。あれは劣化品ではあるが、古代ブリデンを震撼させた魔猫──キャスパリーグだぞ。純粋悪を狩る事に長けていた初代ロビンフードやアーサー王でさえも"奇跡"が起きなければ勝てなかった相手だ。俺達みたいな三流が勝てる相手じゃない」


「キャスパリーグ……!?あれが……!?いや、あれは物語じゃなかったのか……!?」


 教主様もガラスの竜も脳筋女騎士もキャスなんちゃらの名前を聞いた途端、目を大きく見開く。


「え、……何それ?何か凄えやつなよ?」


 キャス何ちゃらに関して知らない俺は首を傾げる。

 教主様が知っている事から、多分、俺達の世界にもキャスなんちゃらという概念はあるのだろう。

 だが、俺は魔法使いでも魔術師でも魔導士でもない唯の高校生。

 魔法使い達の常識を知る訳な──


「知らないのか!?アーサー王伝説に出てくる化物だぞ!?」


「あーさー、王?」


 何か昔バイトリーダーが言っていたような言ってなかったような。

 いや、桑原の夜のお店の人だっけ?


「ああ、思い出した。エクスカリバーっていう名の名器で老若男女をヒイヒイ言わせな伝説のAV男ゆ……」


「古代ブリデンを統治していた王の名だ!」


 教主様に頭を叩かれる。


「ぶりでん?ああ、アレだろ。東雲市にある夜のお店の名前だろ?俺の知り合いがそこで働いて……」


「アーサー王伝説も知らないのか、お前は!?」


 教主様は信じられないような目で俺の方を見る。


「バッカ、俺はつい最近まで魔法の"ま"の字も知らなかったんだぞ。アーなんとかとかキャスとか分かる訳な……」


「アーサー王伝説というのは、古代ブリデンを統治していた伝説の騎士アーサー王を中心とする騎士道物語の事だ」


 少し不機嫌そうに茶髪の幼女は、俺にアーサー王伝説について教える。

 

「……物語って事は、フィクションなのか?」


「魔法の"ま"の字も知らない一般人達の間では、な。歴史的な資料による実在性は証明されていないが、魔力の痕跡や魔術媒体からアーサー王と円卓の騎士の実在性は証明されている」


 どうやらアーサー王という王様はフィクションの存在じゃないらしい。

 

「まあ、俺が生まれ育った世界での話だから、お前らの世界群では、どうなっているのか知らん。だが、俺がいた世界では知らない者がいないくらい有名な物語だった。……と、話が逸れたな。訳の分からない事だらけだが、今、俺の口から明確に言える事は3つ。あの救世主願望持ちの女が死骸を使ってキャスパリーグを生み出した事。あの獣を討つには"ジングウツカサ"の力が必要不可欠である事。そして、あの獣を放置していたら他の平行世界も餌食になる事だけだ」


 幼女は淡々と事実だけを述べる。

 美鈴と歳は変わらないというのに、言動は年老いていた。

 ……もしかしたら見た目通りの年齢じゃないのかもしれない。


「んじゃあ、俺じゃなくてジングウでも良いって事なのか」


「ああ。だが、奴は現在進行形で赤光の魔導士と闘っている。赤光を倒さない限り、こっちに力を貸してくれる事はないだろう」


「大体承知。んじゃあ、さっさと俺をパワーアップさせてくれ。あれを倒すから」


「は、流石効率厨。そこで睨みを気がしているババア達と違って、話が早くて助かる。そこら辺はでかい方のジングウと大差ないな」


「「おい、誰がババアだ/よ」」


 脳筋女騎士とガラスの竜が身体から殺意を漏らす。

 それを屁でも思っていないのか、幼女は淡々と話を前に進めた。


「……と、言っても、今の状況でお前の心器(アニマ)を完成させる事は不可能だ。俺が批評した所で、お前は自分の願望を自覚する事はできないだろう。何せお前は自己評価が低いからな。たとえ俺の口から真実を述べたとしても、お前はそれを鵜呑みする事はない」


「前置きは良いから、とっととやってくれ」


 アニマとか何とかは分からないので、素直にスルーする。

 ここで突っかかってもアレだし。


「待て待て。そう焦るな。今、お前の心器(アニマ)を完成させる事はできないが、お前自身をパワーアップさせる事ならできる」


「話が無駄に長いんだよ。さっさとしろ。じゃねぇと、あの化け猫がこっちに……」


 案の定、モタモタしていた所為で、俺の声は動き始めた化け猫の雄叫びによって遮られる。

 反射的に振り返ると、化け猫は8本の尾を妖しく輝かせると、尾の先から光線を乱射し始めた。

 化け猫の尾から出た光線は、曇天を裂き、荒野を燒き、彼方にあった山々を薙ぎ、大地を穿つ。

 四方八方に放射される光線。

 その有様は、まさに光の柱。

 全てを灰燼と化す熱量は圧巻としか言いようがなかった。

 爆炎と爆煙が世界を包む。

 化け猫がいるであろう場所からは花火が炸裂するかの如く、無数の閃光が瞬いていた。

 あちこちで響き渡る爆音が俺達の身体を軋ませる。

 休む事なく降り注ぐ光線は大地を爆撃すると、再び地面を揺らし始めた。

 東京タワーよりも太く長い閃光が俺らの方に迫り来る。

 1番最初に動いたのはガラスの竜だった。

 彼女は両手を前に出すと、曼荼羅のような模様が刻まれたガラスの盾を造り上げる。

 街一つ覆い隠せる程に巨大かつ広大な盾が一瞬で俺達の眼前に展開される。

 途轍もない圧力と存在感を放つガラスの盾は、化け猫が乱雑に放つ光線により呆気なく砕かれた。

 飴細工のように砕け散る盾。

 俺の右の籠手でも簡単に壊す事ができない程の強度を持っていた盾が、呆気なく、跡形もなく焼き切られる。

 次に動いたのは俺と脳筋女騎士だった。

 俺は籠手の力の力──反発の力で光線を弾き飛ばそうと試みる。

 しかし、光線の方が威力があるのか、右腕にかなりの負荷がかかった。

 右腕から嫌な音が聞こえて来る。

 身体が弾き飛ばされそうになる。

 このままでは押し負けてしまう事を直感する。

 骨が折れるよりも先に光線を受け流す事を選択した。

 籠手の力で光線の軌道を逸らそうとする。

 だが、幾ら籠手に力を注いでも光線の軌道は変わる事はなかった。

 光線は速度を落とす事なく、俺達との距離を詰める。

 どうやら俺程度の力では、あの光線を防ぐ事も逸らす事もできない。

 多分、あの光線を籠手越しに触れたとしても、無効化する事はできないだろう。

 無効化するよりも先に俺の身体が消し飛んでしまう。

 右腕の骨が軋む度に痛みが走る。

 そんな俺を不憫にでも思ったのか、作家を名乗る幼女は巨大な本を光線にぶつけた。

 彼女の攻撃のお陰で、ほんのちょっとだけ光線の速度が落ちる。

 だが、光線は俺達の全力を受けても尚、止まる事なく爆進し続けた。


「──"万物を切り裂くのは(ドゥオン・)我が忠義のため(マグナ・カルラ)っ!!」


 脳筋女騎士──アランは目と鼻の先まで迫った光線に光を纏った斬撃を浴びせた。

 彼女の渾身の一撃と俺の籠手の力により、ようやく光線を逸らす事に成功する。

 俺達の決死の連携により受け流された光線は俺達の左横を駆け抜けると、背後にあった河原も土地も焼き尽くす。

 光線が止む頃には、俺達の周囲の土地は焦土になってしまった。

 桑原学園の方を見る。

 隣の隣の隣町辺りにある桑原町とその周辺の土地は、ギリギリ光線の餌食になっていないのか、健在だった。

 安心すると同時に、どっと疲れが押し寄せる。

 ガラスの竜とアランは俺よりも疲れたようで、額に脂汗を滲ませると、少しだけ息を乱していた。

 目線だけ焦土と化した周囲に向ける。

 化け猫がちょっと暴れただけで、聖十字女子学園の周囲にあったものは全て灰になってしまった。

 たった数秒で町がなくなってしまった。 

 多分、聖十字女子学園の隣町だけでなく、隣の隣町も焦土と化しているんだろう。

 どこが隣町かどうかさえ分からない程、俺達の周囲は荒廃していた。

 他の人達の顔色を伺う。

 ガラスの竜は疲弊したような表情を浮かべていた。

 アランが持っていた剣は光線によって大破してしまった。

 作家を名乗る幼女は息を切らしており、教主様はというと白目を剥いたまま失禁していた。

 身体全体に鈍い痛み、右腕に鋭い痛みが走る。

 さっきの攻防だけで俺達は疲弊してしまった。

 にも関わらず、化け猫は未だに健在。

 さっきの攻撃も奴にとってジャブ程度なんだろう。

 あいつの本気を想像しただけで吐きそうになる。

 勝てる訳ねぇだろ、あんなの。

 光の国から怪獣殺しの専門家呼んで来い。

 

「…………なあ、提案があるんだが」


 そう言って、俺は彼女達の視線を集める。

 

「提案……?何か良い案があるのか?」


 1番最初に食らいついたのはアランだった。

 俺は大袈裟に首を縦に振ると、思いついた案を口に出す。


「──今からカラオケ行かないか?」


「「「現実逃避するな」」」


 怒られた。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は金曜日12時頃に予定しております。

 これからも更新していきますので、よろしくお願い致します。

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