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4月31日(19) 純粋悪「魔猫」の巻

「うおっ!?」


 気がつくと、俺達は宙に投げ出されていた。

 重力に従いながら、浮遊感を味わいながら、俺は目線だけを周囲に向ける。

 夜の闇に染まった空、荒野と化した街、そして、数百メートル規模のクレーターの中心に居座る全長凡そ100メートル級の黒猫。

 

「な、何でオレ達落ちてんだああああ!!!???」


 上の方から教主様のアホみたいな声が聞こえて来る。

 喧しいと思ったのか、彼のすぐ近くにいたアラン──四季咲と同じ顔をした脳筋女騎士──が彼の頬をビンタした。


「私が助けたからよっ!!」


 聞き覚えのある声が聞こえて来る。

 声の主の方を見ると、そこには俺達と同じように落下しているガラスの竜──今は竜の姿ではなく人間態──がいた。


「あんたら、何で空間に穴開けたりとか瞬間移動したりとかしなかったのよ!?私が助けなかったら、あんたら、ぺちゃんこよ!?どんだけ危機感ないのよ!?」


 ガラスの竜は俺達に怒声を浴びせる。


「空間に穴開ける事も瞬間移動もできるか!!」


「はぁ!?できないの!?何で!!??神域到達者なんでしょ!?だから、そんな低レベルの神造兵器使ってんのよ!バカ!アホ!」


「残念でしたー!これは神造兵器じゃなくて、心器(アニマ)らしいでーす!貴女が言う神なんちゃらじゃありませーん!!」


「何よ、そのアニ何とかって!?神造兵器でしょ、それ!!??」


 ギャーギャー騒ぎながら、俺はガラスの竜と言い争う。

 すると、俺達の存在に気づいたのか、今の今までクレーターの中にいた化け猫は空を仰いだ。

 ──背筋に冷たいものが流れる。

 本能的に死を悟る。

 ──脳が逃走を命じる。

 化け猫の視界に俺達の姿が映し出されたのを見て、俺は今まで感じた事のない危機感を味わう。

 何かしないと。

 何かしないと殺される──!

 即座に右の籠手を竜の形に加工しようとする。

 だが、俺の選択よりも化け猫が動く方が速かった。

 口から毛玉を吐き出すような動作で、化け猫は何かを吐き出す。

 奴の口から吐き出されたのは半径50メートル級の熱球──黒い炎で構成された高密度のエネルギー体──だった。


「やば……!」


 自滅覚悟で籠手を竜の形にしようとする。

 それよりも先にガラスの竜の方が圧倒的に速かった。

 

「あらよっと!」


 彼女は右人差し指で宙を突く。

 すると、彼女の指に突かれた空間に大きな穴が空いた。

 俺も教主様も脳筋女騎士もガラスの竜が空けた穴の中に吸い込まれる。

 気がつくと、俺達の身体は河原の上に寝転がっていた。


「ここは……」


 身体を起き上がらせる。 

 川と橋、そして、公衆トイレが目に入った。

 見覚えがある。

 ここは確か魔女騒動の時、馬女と闘った場所だ。

 そして、あの公衆トイレは俺がなけなしの1000円を失った場所だ。

 ガラスの竜の力でここに瞬間移動した事を曖昧ながら理解する。 

 さっき宙に放り出されたのも、彼女が俺達の足下の空間に穴を空けたからなんだろう。


「ボケっと寝ている暇じゃないわよ!ほら、さっさと立つ!!」


 無駄に元気なガラスの竜に急かされた俺達は、慌てて立ち上がる。

 立ち上がった俺達が先ず目にしたのは、遠く離れた場所に位置する化け猫の巨体だった。


「■■■■■■■!!!!!」


 化け猫の雄叫びが辺り一面に響き渡る。

 1キロ以上も離れているというのに、奴の叫びは俺達が立っている地面を激しく揺らした。

 奴の雄叫びだけで、河川敷に積もっていた雪が溶ける。

 先程まで澄み切っていた川は急激に濁り始め、河川敷の近くに生えていた木々は急速に枯れ果てる。

 十数秒前までは辛うじて生命の気配を感じ取っていたというのに、今は俺達以外の生命を感じ取る事ができなくなっ丸。


「な、……!?あれは雄叫びだけで環境を激変させているのか!?」

 

 何度目か分からない教主様の驚きの声が俺の耳に届く。


「アレでも生易しい方よ。アレが本気出したら、雄叫びだけであんたは死ぬわよ」


 サラッと教主様を小馬鹿にした発言をするガラスの竜。

 

「お、オレはそこまで紙耐久じゃない!」


「あんたを馬鹿にした発言じゃなくて、純然たる事実よ。魔法や魔術に対する耐性がある神域到達者なら大丈夫だけど、神域に至っていない人間だと奴の叫び声聞くだけで死に至るわ」

 

 彼女の発した言葉により、俺と教主様の背筋が凍てつく。

 もしアレがこの世界ではなく元の世界に現れたら、多くの人が死んでいただろう。

 下手したら、あの化け猫、雄叫びだけで大量虐殺できるんじゃ……?


「はっはっはっ!かなり苦戦しているようだな青少年共!」


 空から茶髪の癖毛が特徴的な幼女が落ちて来る。

 彼女はアメコミのヒーローがやるような着地を披露すると、化け猫に追い込まれている俺達を嘲笑う。

 

「……貴女。どの面下げて、私達の前に現れた訳?」


 殺意と敵意を放ちながら、ガラスの竜は幼女を睨みつける。


「ん?そりゃあ、赤光との約束を守るためだ。ジングウの足止めを条件に約束を交わしていてな。その約束を果たすために、ここに来たって訳だ」


「……は?」


「ん?奴から聞いていないのか?俺だよ、あいつが言っていた自称作家って奴は」


 自分の事を親指で指差しながら、幼女改め自称作家はおっさん臭い笑みを浮かべる。


「小さい方のジングウ。安心しろ、俺がお前の秘めた願望を暴いてやる。なーに、ゴーストライターと言えど、俺だって作家の末端を汚す者。文章力や構成力はともかく洞察力だけは無駄にあるぞ」


 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 次の更新は明日の12時頃に投稿予定です。

 元々は2〜3万文字で終わらせる予定だった9万PV達成記念短編『4月31日(破)』は今日明日の更新で5万文字突破しちゃいました。

 多分、残り7〜10話くらいで『4月31日(破)』は終わると思います。

 もう短編と呼べるボリュームじゃなくなりましたが、これからも更新していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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