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4月31日(17)「祝禍は夢視るもののために」の巻

 右の籠手に蜘蛛の糸が張り付く。

 すぐに籠手に張り付いた蜘蛛の糸を白雷で焼き切り、教主様を助けに行こうとする。

 その間、たった1秒。

 だが、その1秒のロスの所為で、教主様を救援する事ができなかった。


「間に合え……!」


 右の籠手の力で飛んで来た攻撃を弾き飛ばそうと試みる。

 だが、俺が何かやるよりも先に黄金の嵐が教主様の身体を裂く方が速い事を理解してしまった。


「くそ……!」


 俺が毒吐いた瞬間、教主様に迫り来る黄金の嵐(流れ弾)は白雷を纏った矢によって撃ち砕かれた。

 何事もなかったかのように消え去る黄金の嵐──フクロウの攻撃──を見て、俺は平行世界の自分──ジングウが教主様を助けた事を把握する。

 (おれ)の方を見る。 

 (おれ)はサバイバルナイフ1本で、赤光の魔導士が繰り出す斬撃を捌いていた。

 

「なに余所見してんのよ!前見ろ、前っ!」


 上からガラスの竜の罵倒が聞こえて来る。

 そのお陰で俺は馬の化物の不意打ちに気づく事ができた。


「おわぁっ!?」


 馬の化物が振るう鉄棒を間一髪の所で避ける。

 いつもなら不意打ちの1つや2つ、すぐに気がつくというのに、今回だけは察知する事ができなかった。

 その理由は至って明白。 

 化物達はあらゆる対象に敵意と殺意を向けているからだ。

 だから、彼女達が向けている殺意と敵意が俺に向けられているのかどうか理解する事はできない。

 常時殺気と敵意を垂れ流す彼女達の不意打ちは、敵意と殺意を把握する事に長けた俺にとって、把握し辛い代物なのだ。


「うおっ……!?」


 鳥の化物の翼撃を跳んで回避した後、中空で猫の化物の爪を右の籠手で受け流しつつ、地面に着地。

 そして、蛇の化物の尾を身を低く屈める事で躱した。


「あぶね……!」


 間一髪の所で攻撃を躱した俺は、右の籠手の形を元の状態に戻すと、慌てて彼女達との距離を取ろうとする。

 だがしかし、彼女達の標的は俺ではなく、少し離れた所にいた教主様の方に向かっていた。


「教主様!逃げ……!」


 右の籠手の力で化物達の身体を引き寄せようとする。

 俺が右の籠手に力を込めようとしたその時、一陣の風が戦場を駆け抜けた。

 脳筋女騎士だ。

 彼女は目にも留まらぬ速さで戦場と化した中庭を駆け抜けると、化物達の背中に重く鋭い斬撃を浴びせる。


「おいおい、そいつを助けている余裕があるのか?」


 そう言って、茶髪の癖毛が特徴的な幼女は脳筋女騎士の背中に攻撃を浴びせようとする。

 しかし、彼女の攻撃は音速で飛翔する"何か"によって阻止された。

 幼女は持っていた本で飛んで来た攻撃を受け止める。

 本の背表紙にはサバイバルナイフが突き刺さっていた。

 ジングウのものだ。 

 彼の方を見る。

 彼の目線は幼女の方に向いていた。


「余所見している場合か?」


 赤光の魔導士は武器を失ったジングウの身体に斬撃を浴びせようとする。

 それに気づいた俺は右の籠手の力で赤光の身体を弾き飛ばした。

 

「だから、余所見するなって!」


 ガラスの竜は中空に浮いたまま、ガラスでできた鞭を振るうと、物凄い速さで俺の方に迫り来る女僧侶──ルルの身体を鞭で弾き飛ばす。


「貴女の方こそ余所見している場合ではないのでは?」


 ガラスの鞭を両腕を交差することで受け止めた女僧侶は、彼女の背後の方に視線を飛ばす。

 それに気づいたガラスの竜は瞬時に背後に視線を向けた。


「……って、何もないじゃない!」


 まんまとガラスの竜は女僧侶の罠に引っかかる。

 その隙に彼女は指を大袈裟に鳴らすと、俺とガラスの竜の身体を指パッチンで生じた風圧だけで吹き飛ばした。

 

「うおっ……!?」


 俺達が体勢を崩している隙に、彼女はブツブツと独り言を言い始める。

 

「──我が才は万物の真価を引き出す。聞け、己の価値を知らぬ俗物共よ。我は路傍の石を尊ぶ者。玉座に座りし宝玉を弄ぶ者。ありとあらゆる生命を愚弄する者」


 ……ガラスの竜といい女僧侶といい、何で詠唱を唱えているんだろう?

 というか、唱える時間無駄じゃない?

 そんなどうでもいい事を考えながら、俺は女僧侶との距離を詰めようとする。

 今の彼女は隙だらけだ。

 邪魔さえ入らなければ、彼女を倒せる筈……!


「──ライトニング・ガンズ・アロー」


 女僧侶の下に向かって駆け出した瞬間、赤光の魔導士に敵意を向けられる。

 それを感知すると同時に、無数の赤光の矢が俺の頭上に降り注いだ。

 

「本当、どっちの味方だよ、あいつ!!」


 右の籠手で迫り来る無数の矢を受け流しつつ、身軽な動作で赤光の矢を躱し続ける。

 矢の雨を避けるのが精一杯で、女僧侶(かのじょ)の隙を突く事はできなかった。


「──反転し、叛逆し、半壊せよ、滲み出る混沌よ。夢視ぬ道化はこの世に要らぬ」


 ジングウが赤光に殴りかかったお陰で、ようやく矢の雨から解放された。

 だが、時既に遅し。

 彼女が最後の一節を唱えると共に化物達の身体に変化が生じる。

 

「──『祝禍は夢視る(ゆあ・ゆあ・)もののために(ぐんぐるどぅ)


 その瞬間、化物(かのじょ)達の身体から黒い炎が噴き出た。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は明日10月29日12時頃に予定しております。

 これからも更新していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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