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4月31日(16) 「余所見をするな」の巻

 蜘蛛の化物の口から出た火炎を右の籠手の力──正確に言えば、籠手から放出された白雷──で打ち消した俺は、全長10メートル級になった蛇の化物の胴体に拳を叩き込む。

 右の籠手越しに蛇の化物に触れた途端、俺は違和感を抱いた。


(何かに覆われている……?)


 その感覚は鉄と呼ぶには柔らかく、肉と呼ぶには硬過ぎるものだった。

 化物達の身体を覆う"何か"に違和感を抱きつつ、怪鳥が放つ翼撃を紙一重で躱す。

 そして、ガラ空きだった怪鳥の胴体に白雷を纏った拳をお見舞いしてやった。

 打撃を与えつつ、全ての魔を退ける白雷を流し込む。

 化物の身体を覆う"何か"の所為で、白雷は鳥の化物の身体全体に行き渡る事なく消えてしまった。


(白雷が無効化された……いや、流し込む量が適量じゃなかった……!)


 一瞬で状況を把握する。

 今さっきの白雷の量では化物達の身体を覆う"何か"を無効化する事ができない事を。

 "何か"を破壊するには今以上の白雷を流し込まないといけない事を。

 そして、今以上の白雷を放出するには右の籠手を大きな形に加工し直さなければならない事を。

 敵の攻撃を最低限最小限の動きだけで躱しながら、俺は右の籠手の形状を変えようとする。

 が、"絶対善"戦の時の失敗を思い出してしまい、少しだけ慎重になる。

 あの時、俺は"絶対善"の尋常じゃない攻撃を受け止めるため、右の籠手を竜の形に加工した。

 その結果、身動きできない状況──酸欠状態に陥った。

 あの失敗を繰り返す訳にはいかない。


(なら、少しずつ右の籠手を大きくして……)


 戦闘方針が固まったその時だった。

 俺に殴り飛ばされた巨大な化猫が跳ね上がるように起き上がると、口から巨大な光弾を吐き出した。


「あらよっと!」


 ガラスの竜は少し間抜けな掛け声を発すると、ガラスの盾を不思議な力で造り上げる。  

 彼女は造り上げたガラスの盾を巧みに操作すると、化猫が吐き出した魔弾を受け流す事に成功した。


「こっち来ないで!」


 突如、宙に現れた数十本のガラスの剣が中空を駆け始める。

 ミサイルの如く、空を割く剣の群れは瞬く間に化物達の身体を蜂の巣にした。

 化物達の体勢が崩れる。

 その隙を狙って、俺は右の籠手の力──反発の力を行使すると、化物達の巨体を吹き飛ばした。


「あれが本領発揮するよりも先に勝負を決めるわ!」


「大体承知、俺も同じ事を考えていた所だ」


「だったら、私の後に続きなさい!」


 右の籠手を大剣の形に加工する。

 大剣の形に加工した籠手を肩に担ぐと、今にも起き上がろうとする化物を真っ直ぐ見据える。

 

「──さあ、踊り狂いなさい、有象無象。夜の帷は羽虫の痴態を覆い隠す。謳え、喘げ、舞い上がれ。そして、地に堕ちろ」


 ガラスの竜は独り言を呟きながら両掌を態勢を整えた化物達に向ける。

 

硝子の(モスキート)舞踏会(アプラスター)──!」


 彼女がカッコいい横文字を叫ぶと同時に、化物の頭上に超巨大なガラスの靴が現れる。

 突如現れたガラスの靴は化物達を踏みつけるような形で地面に落下した。

 だが、彼女の攻撃は火力が足りなかったようで、化物達に地面を舐めさせる事しかできなかった。


「上出来だ」


 思いっきり地面を蹴り上げ、大剣と化した籠手を薙ぐように振るう。

 そうする事で化物達の身体を両断しようとした。

 だが、ほんの一瞬だけ"彼女達"の姿が俺の脳裏に過った。

 その所為で、俺は剣を振るうのを一瞬だけ躊躇ってしまう。

 その所為で俺はガラスの竜が作ったチャンスを不意にしてしまった。

 

「……なっ!?」


 俺と化物達との間に巨大な本が現れる。

 俺の身の丈など優に超える壁のような巨大な本。

 それを大剣と化した籠手で斬り裂き、本の向こう側にいる化物達に致命傷を与えようとする。

 が、俺の刃は彼女達に届かなかった。

 俺が本を斬り裂いている隙に、化物達は背後に跳び、安全地帯に避難する。

 もし本が現れなかったら、俺の攻撃は化物達に届いていただろう。

 いや、俺が躊躇っていなければ。

 躊躇わずに剣を振るっていたら。

 本が現れるよりも先に化物達を倒せていたのかもしれない。

 躊躇ったのは、ほんの一瞬。

 いつもだったら──並大抵の相手だったら隙でも何でもない僅かな時間。

 その僅かな時間を作った所為で、俺は千載一遇のチャンスを逃してしまった。


「悪いな、小さい方のジングウ。まだそいつらをやられる訳にはいかん」


 聞き覚えのない幼女の声が聞こえて来る。

 そっちの方に視線を向けると、校舎だった瓦礫の上で偉そうに腕を組んでいる幼女の姿が目に入った。


「余所見をするな!」


 容姿だけは四季咲と似ている脳筋女騎士──アランが幼女の頭を剣で叩き割ろうとする。

 彼女の斬撃は煙のように現れた文庫本によって受け流された。

 脳筋女騎士が斬撃を放つ度に、幼女の周囲を取り囲むように無数の本が現れる。

 煙のように現れた無数の本は、脳筋女騎士の斬撃を的確に受け流した。

 

「な……!?あれは、神造兵器か!?」


 幼女が扱う本の群れを見て、教主様は再び驚いたような声を上げる。

 

「馬鹿か、貴様。心器(アニマ)に決まっているだろ。お前らの世界じゃ、小さい方のジングウ以外に心器(アニマ)の使い手はいないのか」


「余所見をするなって言っているだろ!!」


 半ばキレ気味に脳筋女騎士は幼女を斬り伏せようとする。

 が、彼女が何度斬撃を放っても、幼女の皮膚に擦り傷を負わせる事はできなかった。

 幼女の方が上手……と言うより、脳筋女騎士が手加減しているんだろう。

 もし本気で斬りに行っていたら、あの程度の防御、余裕で突破できる筈。


「余所見をするなっ!」


 野太い声──聞き慣れていないようで聞き慣れている声が聞こえて来る。

 その声が平行世界の俺──ジングウのものだ。

 彼の警告を聞くと同時に、背後から爆音が聞こえて来る。

 振り向く。

 黄金の嵐──斬撃による衝撃波が教主様の方に飛んで来るのを目視した。

 フクロウの獣人の攻撃だ。

 多分、褐色の青年に向けて放った攻撃が避けられたんだろう。

 ガラスの竜は飛んで来た黄金の嵐を目視するや否や、教主様を助ける事なく、上空に向かって跳び上がる。

 教主様はというと、いつの間にか取り出した2対の短剣で黄金の嵐を迎え撃とうとしていた。


「バカっ!避けろ!!」


 彼の持っている短剣では防ぐ事はできない。

 そう思った俺は右の籠手の力で彼を助けようとする。

 だが、俺の動きは背後から飛んで来た蜘蛛の糸によって遮られた。

 

「しまっ……!」


 右の籠手に蜘蛛の糸が張り付く。

 その所為で、俺の動きは一瞬だけ止まってしまい、教主様を助ける事ができなかった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は明日木曜日12時頃に更新します。

 文章量が膨れたので、今週中に9万PV達成記念短編『4月31日(破)』は終わりませんが、今週の木曜日と金曜日に更新するので、お付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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