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4月31日(15) 共闘の巻

 突如、俺達の前に現れたガラスの竜の人間態を見た瞬間、今の今まで影の薄かった教主様が急に声を張り上げた。


「き、貴様……!何でここに……!?」


「さあ?何ででしょう、当ててみなさい。見事当てる事ができたら、飴玉くらいはあげてやるわ」


 少し邪悪さを醸し出しながら、美鈴をそのまま大きくしたような容貌の女性──ガラスの竜は妖しく微笑む。

 そんな彼女が気に食わないのか、教主様は唐突に声を荒上げた。


「んなの、どうだっていい!オレはお前の所為で世界を滅ぼしかけたんだぞ……!?何が確実な"神堕し"だ!お前が教えた方法の通りにやったら、ガイア神が暴走しただろうが……!!」


 今にも襲い掛かってもおかしくないくらいの気迫で教主様はガラスの竜に怒声を飛ばし始める。

 彼女は屁でも思っていないのか、教主様を小馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「私が教えたのは"神堕し"の方法だけよ?始祖ガイアに幻想を抱いていたのも、始祖ガイアを神造兵器のレプリカ如きで制御できると威張っていたのも、"神堕し"をすると決めた貴方の所為よ。私の所為にされても困るわ」


 多分、彼に"神堕し"の方法を教えてから、ずっと考えていたのだろう。

 彼女はぐうの音も出ないくらいの主張で教主様の言い分を捩じ伏せた。


「それに始祖ガイアは暴走したんじゃない。アレは元々そういう生命体(もの)なのよ。それを理解しようとせず、"神堕し"を強行した貴方が1番悪いんじゃないかしら?」


 彼女の態度から彼女が屁理屈を言っている事は何となく理解できた。

 が、彼と彼女の間にどんなやり取りがあったのか、どんな約束事があったのか、俺は何一つ知らないので、それを指摘する事はできなかった。


「楽に願いを叶えようとするから、私みたいなのに足下掬われるのよ──人間」


 教主様は泣きそうな面を晒しながら、眉間に皺を寄せると、黙り込んでしまう。

 その有様は女々しいの一言で片付ける事ができた。

 おい、ちょっとは言い返せよ、テメー。

 女より女々しいじゃねぇか。

 軽口を叩く事さえも躊躇うような気まずい雰囲気が流れる。

 そんな気まずい雰囲気を打ち砕いたのは僧侶っぽい格好をした女性──ルルだった。


「さっきから覗き見していたのは貴女でしたか、人工始祖。そんな枯れ木みたいな状態で私に刃向かっても無駄死にするだけですよ」


「あら。随分余裕そうね、異界の魔法使い。ま・さ・か、そいつらを従えている程度で私に勝てると思ってるのかしら?」


 彼女の周りにいる化物──蛇・猫・鳥・馬・蜘蛛──を顎で指しながら、ガラスの竜は馬鹿にした笑みを浮かべる。


「ええ、勝てますよ。今の貴女なら確実に。勝算があるから出てきたんでしょうけど、これが私の全力だと思っているのなら浅はかで……」


 化物達を率いる彼女の言葉は、突如鳴り響いた轟音によって遮られてしまう。


「熟知しているわよ、貴女が全力を出していない事くらい。けど、流石に貴女が本気を出しても、5人相手じゃ勝ち目ないでしょ」


 轟音が校舎の方から響き始める。

 さっきまで俺達が探索していた校舎からだ。

 視線をそっちの方に向ける。

 その瞬間、校舎は文字通り爆ぜた。

 爆発と共に突風が巻き起こる。 

 瞬時に教主様を守ろうと身を盾にする。

 だが、俺の咄嗟の行動は、ガラスの竜が不思議な力で造ったガラスの盾により、徒労に終わってしまった。

 校舎だった瓦礫がガラスの縦に突き刺さる。

 彼女が造ったガラスは結構頑丈らしく、爆炎も爆煙も爆風も退けてしまった。


「あら、予想よりも早かったわね」


 爆音が止んだかと思いきや、今度は金属音が鳴り響く。

 今度は爆風よりも圧がある突風が巻き起こった。

 激しい金属同士の衝突音が辺り一面に木霊する。

 金属音が鳴る度に、辛うじて残っていた聖十字女子学園の校舎は原型を喪失し、衝撃波が地面を抉る。


「な、なんだ、何が起きて……!?」


「お前、さっきから驚いてばっかだな」


 バカの1つ覚えみたいに驚く教主様を揶揄いつつ、俺は僧侶っぽい服を着た女性──ルルの方を見る。

 彼女は眉間に皺を寄せていた。

 あの様子から察するに、この状況は彼女が意図していたものではないらしい。

 甲高い金属の悲鳴が鳴り響くと共に中庭に何かが落ちてきた。

 視線だけを向ける。

 俺の予想通り、中庭に落ちてきたのは平行世界の俺と脳筋女騎士だった。

 

「悪いな、ルル!やはり俺では時間稼ぎできなかった!!」


 幼女と思わしき声が俺の鼓膜を優しく揺らす。

 校舎だった瓦礫の山に目を向けると、そこには茶髪の幼女と金髪の青年──赤光の魔導士が立っていた。


「まあ、俺みたいな唯の作家にやらせた時点でこうなる事は目に見えていたけどな!恨むなら己の人望のなさを恨むが良い!あーはっはっはっはっ!!!!」


「何笑っているんですか、ブチコロしますよ」


「やめろ、お前が言うと冗談に聞こえない」


「そりゃあ、そうですよ。冗談じゃないんですから」


 漫才みたいなやり取りをする幼女と女僧侶を眺めつつ、俺は赤光の魔導士の方を見る。

 彼は平行世界の俺──ジングウを警戒していた。

 ジングウも赤光の魔導士を警戒しているらしく、サバイバルナイフを構えたまま、微動だする事なく。

 脳筋女騎士──アランはと言うと、視線で人を殺せるような勢いで赤光の魔導士と茶髪の幼女を睨んでいた。

 ……事情を察するに、恐らくジングウとアランは茶髪の幼女と赤光の魔導士と敵対しているのだろう。

 そして、俺達が探していた自称作家とやらは、あの茶髪の幼女なんだろう。

 何で敵対しているのかは、一旦置いといて、今が一触即発である事は何となく分かった。

 詳しい事情を知るため、ジングウに声を掛けようとする。

 その行為を阻むかの如く、上空から褐色の青年とフクロウの獣人が落ちてきた。


「やはり面倒ですね……!貴方の相手は……!!」


「今度はその皮を剥ぎ取ってやろう、フクロウモドキ……!」


 フクロウが振るう刀を褐色の青年は素手で捌く。

 彼等が拳と刀を撃ち合う度、大気が激しく振動し、砂埃と呼ぶには烏滸がましい程の土煙が巻き起こる。

 まるで怪獣の行進だ。

 彼等が闘うだけで地形が変わってしまう。

 これが開拓者(アウトサイダー)同士の闘い。

 彼等が小競り合いするだけで周囲に危害が及ぶ。

 ……本当に俺は彼等と同じ領域にいるのだろうか。

 少なくとも俺は地形変える事できねぇぞ。


「ちょっと!ちょっと!何してんの、ソウスケ!?私、そのフクロウみたいなのと戦えって命じていないんだけど!!??」


 ガラスの竜が焦ったような声を上げる。


「すまんな、今はお前の言う事を聞く事はできない──こいつと決着を着けるのが先だ」


「なーに、別のやつとおっ始めている訳!?あんたの獲物はあいつらだって……!おい、ちょ!私の言う事を聞け!」


「ん?予想できない事が起こるから世の中面白いのではないのか?」


「今は予定通りに動きなさいって事よ!」


 ガラスの竜と褐色の青年の痴話喧嘩は、フクロウが放った黄金の嵐によって妨げられる。

 青年は不思議な力を使う事なく、腕力だけで黄金の嵐の軌道を逸らした。

 フクロウが放った攻撃は斬撃だったらしく、地面や校舎だった残骸を跡形もなく斬り刻む。

 ……とてもじゃないが、腕力だけでどうにかできるものじゃなかった。

 何であの褐色の青年は素手で逸らす事ができたのだろう。


「な、……な、……」


 青年とフクロウの激しいバトルを見て、教主様は壊れた玩具みたいに驚きの声を連発する。


「大丈夫だ、教主様。破壊力だけなら、ブチギレた"絶対善"の方が凄いから」


「お前基準で語るな!こっちは魔術が使えるだけの人間なんだぞ!」


「んなの言ったら、俺だって地形変える事できねえよ」


「できないのが当たり前だ!」


 教主様の怒声が合図だったらしく、ジングウ・脳筋女騎士と赤光の魔導士・茶髪の幼女が同時に動く。

 目にも映らない速さで移動した彼等は、凄まじい速さで間合いを詰めると、再度爆炎と爆煙を巻き起こした。

 彼等の衝突により、聖十字女児学園があった場所は平野になってしまう。

 辛うじて残っていた校舎も廃墟と化した町に散らばってしまった。

 それと同時に今の今まで静止していた化物達──猫・蛇・蜘蛛・馬・鳥──が俺達に襲いかかった。

 化物達はガラスの竜が用意した盾を紙細工のように砕くと、俺達との距離を詰める。


「く、来るぞ……!おい、どうするんだ!?」


「来ると言われても、今の私はこいつら相手にする余力ないっての!」


 慌てふためく教主様とガラスの竜を横目で眺めつつ、俺は右の拳を握り締める。

 何で赤光の魔導士があいつらの味方をしているのか、何故ガラスの竜がここにやって来たのか、聞きたい事は山程あるが、今はそれを考えている場合じゃない。


「おい、ガラスの竜。竜の姿になれなくても、隙くらいは作れるだろ?」


 右の拳を握り締める。

 俺の意図を即座に理解したガラスの竜は落ち着きを取り戻すと、余裕たっぷりの笑みを浮かべた。


「それ、私に共闘を呼びかけている訳?貴方達の敵かもしれないこの私に?」


「利害は一致しているだろ?」


「ふーん。あの泥棒猫と違って、あんたは話が分かる奴なのね。気に入ったわ。──殺すのは最後にしてあげる」


「やれるもんだったら、やってみろよ。ガラスの竜。あんたじゃ俺には勝てねぇよ」


「あら?やってみなくちゃ分からない、でしょ?……まあ、それより先ずは」



 いの1番にやって来た巨大な化け猫の爪を紙一重で躱しつつ、猫の眉間に右の拳を叩きつける。

 ガラスの竜は造り上げたガラスの剣を雨のように降らす事で他の化物達の進撃を食い止めた。


「──こいつらを蹴散らしましょうか」


 ここまで読んでくれた方、いつも読んでくれている方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 9万PV達成記念短編「4月31日(破)」は残り5話くらいで終わる予定です。

 まだ完成していないため、もしかしたら話数が増えるかもしれませんが、近い内に完結できるよう頑張ります。

(この時点で予定していたよりも文量が膨れ上がっていますが……)

 次の更新は来週水曜日12時頃に予定しております。

 肌寒くなってきましたが、体調を崩さないようにご自愛下さい。

 これからもお付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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