4月31日(7)童顔の巻
「お、おい!オレを引っ張るな!自分の足で歩ける!」
脳筋女騎士──アランに引っ張られている教主様──フィルは文句を言う。
彼女は聞こえていないのか、それとも聞くつもりがないのか、彼の首根っこを持ったまま、黙々と光の柱の元へ歩き続けた。
「なあ、本当にあいつに任せて大丈夫なのか?」
「俺や君よりかは遥かにマシだろう」
平行世界の俺──ジングウは周囲を警戒しながら、俺の質問に応える。
「逆に聞くが、君は彼の気持ちに理解を示せるか?」
「示せるに決まっているだろ。あいつ、俺と似ているし。あ、でも、救世主になりたい云々は理解できないな」
「なぜ?」
「だって、この世界に救世主はいないだろ。どんなに苦しくても、どんなに助けを求めても、都合良く救世主が現れない。というか、機械仕掛けの神様が現れて、何もかも解決するのは物語の中だけだ。現実はそんな単純なものじゃない」
金郷教騒動や魔女騒動、そして、人狼騒動を思い出す。
結局、俺がやれたのは問題を有耶無耶にする事だけだった。
根本的な問題を解決できた訳じゃない。
金郷教騒動を綺麗さっぱり解決できなかったから、魔女騒動・人狼騒動、そして、今回の件が起きているし、魔女騒動でも元魔女だった男は寝たきりの状態になっているし、人狼騒動が起きた根幹である人狼達の差別問題や"絶対善"の深い恨みが晴れたら訳じゃない。
俺は暴力で問題を有耶無耶にしただけ。
とてもじゃないが、救世主のやるべき事じゃないだろう。
俺は美鈴達の危機を壊しただけで、問題の解決を先送りにしてしまった──或いは別の問題を作り出しただけである。
「現実が単純じゃないから救世主がいないのか、それとも救世主がいないから現実が単純化されないのか。どっちか分からねぇけど、ヒーローがいない事だけは確かだ。いない奴になろうとする理由自体に理解を示す事出来ねぇし、そもそも、あいつは人を救うために救世主になろうとしたんじゃなく、自分を救うために救世主になろうとしたんだろ?ならさ、わざわざ救世主になる道を選ばなくて良いじゃねぇか」
考えれば考える程、教主様の考えている事が分からなくなる。
一体、彼は何を考えているのだろうか。
「きっと彼が救世主になりたかったのは、過去の汚点を"なかった事"にしたかったからだ」
ジングウは理解できているのか、教主様の気持ちを代弁し始める。
「救世主になる事で今の自分──妹を見殺しにした自分を正当化したかったのだろう。それが彼にとっての償いであり、自分を救う唯一の手段だったに違いない」
「うーん、その償いっていう見解、少し違くないか?だってさ、あいつは妹を見殺しにした自分に対して罪悪感を抱いているんだろ?美鈴を生贄に世界を犠牲にしている時点で過去の過ちをもう1度繰り返しているというか、より罪悪感を募らせているというか……あいつの思惑通り世界を救った所で、あいつ自身が納得しないと思うんだが……」
上手く言葉にする事ができず、しどろもどろになってしまう。
「それでも進まなければならなかったのだろう。たとえ同じ過ちを繰り返しても、世界を救わなければならなかったのだろう。時代や環境に後押しされたというのもあるだろうが、その選択が彼にとって茨の道だったに違いない。……まあ、その選択は思考停止の賜物であるから、素直に同情できないが……」
そう言って、ジングウは複雑そうに教主様の方を見る。
相も変わらず、彼は脳筋女騎士に引っ張られていた。
「とりあえず彼女に任せよう。彼に同情できない俺達よりも彼女の方が適任な事には変わりない」
「……本当に大丈夫なのか?」
「だったら、君が彼を救ってやるがいい。そのやり方を知っているんだったらな」
"そのやり方を知らないだろう"と暗に告げながら、ジングウは淡々と言葉を紡ぐ。
皮肉でも何でもなく、彼的には事実を述べただけなのだろう。
彼の言う通りだ。
俺は教主様の気持ちを楽にしてやる術を知らない。
というより知っていたら、とうの昔に行動している。
きっとジングウは自分の事を理解した上で、その言葉を述べたんだろう。
一瞬、彼の面影と啓太郎が重なった。
「……今更だけど、あんた、幾つなんだ?」
思いついた疑問を恐る恐る尋ねる。
今の今まで、彼は俺と同じくらいと思っていたが、多分、この言動から察するに彼の年齢は──
「20代後半だ」
「え!?あんた、俺より10個上だったの!?」
毎朝、鏡と見ている顔と大差ない顔をしている彼は少し不機嫌そうにしながら、俺の質問に答える。
「だったら、俺、10年後も童顔なままな訳!?俺、ダンディな男になれないのか!!??映画に出てくるような渋くて大人っぽい人になりたいのに、俺、童顔なままなの!?え!?嘘!?めちゃくちゃ嫌なんだけど!?」
「人の顔を見て、嫌とか言うな。お望みだったら、その顔、ぐちゃぐちゃにしてやるぞ」
眉間に皺を寄せながら、彼は怒気を孕んだ言葉を口にする。
どうやら彼も俺と同じくらいに童顔とである事を気にしているらしい。
「あー、ごめん。180センチ近くの童顔とか需要皆無とか言って。でも、高身長童顔に需要ないのはイロモノ枠だろ。だってさ、筋肉モリモリマッチョの身体にショタの顔が乗っているんだぜ?そんなの許されるの2次元だけだよ。3次元でいたら唯の澄んだ目をしたトロールだよ」
「誰が澄んだ目をしたトロールだ」
そんなアホな事をしている内に俺達は廃墟と化した聖十字女子学園に辿り着く。
俺のいた世界と違って、校舎は原型を保っていた。
恐らく魔女騒動が起きていないのだろう。
俺とジングウは先行する脳筋女騎士と教主様の後に続く形で、学園内に足を踏み入れる。
薄らであるが、人の気配を感じ取る事ができた。
「どうやらこの学園の中に誰かいるみたいだな」
振り返った脳筋女騎士は俺とジングウに声を掛ける。
「で、どうする?別々に行動するか?それとも一緒になって行動するか?」
「一緒に行動しよう。もしかしたら、ここが敵の本拠地かもしれないしな」
「ああ、分かった。では、共に行こう」
ジングウと脳筋女騎士の短いやり取りだけで、今後の方針が固まってしまう。
特に異論はないため、俺も教主様も口を出さなかった。
教主様の方を見る。
一瞬だけ目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。
脳筋女騎士に引っ張られる彼を見ながら、俺は後頭部を掻きむしる。
……ああ、こういう時、立派な大人だったら何て言うんだろう。
足りない頭で考える。
が、幾ら考えても答えは出なかった。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送って下さった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
本日(9月15日11時現在)、本作品のブクマが300件突破致しました。
また、累計PVも20万超える事が出来ました。
これも皆様がここまで読んでくれたお陰・ブクマしてくれたお陰です。
この場を借りて、厚く厚くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
今のところ、ブクマ300件記念中編の構想はできていませんが、8〜10万PV達成記念短編が終わり次第、構想を練るので、もう暫くお待ち下さい。
また、8〜10万PV達成記念短編と並行して、ブクマ200件記念中編「価値なきものに花束を」も執筆しております。
この記念短編『4月31日編』が終わり次第、投稿する予定なので、お付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は9月22日水曜日12時頃に予定しております。
9月末までに9万PV達成記念短編は終わらせるよう頑張りますので、もう暫くお付き合いください。




