4月31日(6)「嘘を吐くな」の巻
結局、俺はあの後、美鈴にも教主様にも気の利いた言葉を掛けてやる事ができなかった。
現在、泣き疲れた美鈴は就寝。教主様は啓太郎と一緒にいる。
平行世界の俺や脳筋女騎士、そして、酒乱天使はどこにいるのか分からない。
多分、彼等は休養を取っているのだろう。
これからに備えて。
俺はというと、寝る事もできずに無人の校舎内をウロウロし続けていた。
(……どうしたら正解だったんだろうか)
立派な大人だったら、あの場面で気の利いた事を言えただろうと思いながら溜息を吐き出す。
何もできなかった。
泣き喚く美鈴に曖昧で不確かな言葉しか掛けてやれなかった。
それが彼女にどう響いたのか分からない。
けど、手応えがなかった事だけは確かだ。
教主様にも声を掛けられなかった。
美鈴以上に何て言えば良いのか分からなかった。
何を言えば正解なのか分からなかった。
……こんな時、先生だったら何て言っただろうか。
幼少期の記憶を思い出そうとする。
が、殆ど忘れているため、上手く思い出す事はできなかった。
溜息を吐き出しながら外に向かう。
気がつくと、俺はゴミ捨て場まで辿り着いていた。
ボーッとしながら淡々と歩き続ける。
すると、見覚えのある背後姿を見かけた。
平行世界の俺──ジングウだ。
何故か、彼はゴミ捨て場を漁っていた。
(……もしかして、あのゴミ捨て場に何かあるのか?)
そう思って、俺は彼に話しかける。
「何しているんだ?」
「ひゃい!」
俺が声を掛けた途端、彼は奇声を発した。
「……な、何だ、ツカサか。こんな所で何をしている?散歩か?」
「いや、あんたこそ何をしているんだよ」
焦りをクールな微笑みで覆い隠そうとする彼を見て、つい苦言を呈する。
ふと、彼が持っているものが目に入った。
黒髪ロング貧乳美少女が表紙のエロ本だ。
……生まれて初めて、俺は彼の事をゴミでも見るような目で見てしまう。
何やってんだ、こいつ。
今はそれどころじゃねぇだろ。
性欲に流されてんじゃねぇよ。
色々言いたい事はあったが、俺も制欲旺盛な男子高校。
美鈴達がシリアス的雰囲気になってんのに空気を読まずにマスを掻こうとする彼に言いたい事はあれど、咎めるつもりは毛頭なかった。
「……あんた、黒髪ロング貧乳美少女が好きなのか?」
というか、猥談を始めてしまった。
仕方ないじゃん、男の子だもん。
「え、あ、ああ、そうだが」
「へえ。世界が違えば、性癖も違うんだな」
"ちなみに俺は金髪爆乳美女が好き"とぶっちゃける。
「……え、金髪爆乳美女が好きなのか?あんた?」
意外だったのか、彼は大人のフリを止めて、俺みたいな事を言い始める。
「ああ、そうだけど……そんなに意外だったのか?」
信じられないものでも見るかのように目を大きく見開く彼に少し怖気ついてしまう。
え、俺、何かやっちゃいました?
「あー、いや、意外だなと思ってな。どうやら、俺と君は根っこから違うらしい」
そんな彼の言葉に引っかかりを覚える。
「うーん、そうでもないと思うぞ。俺の初恋相手って、大和撫子を体現したような女の子だったし」
中学生の間に一児の母になった近所の姉ちゃんと幼馴染を思い出しながら、俺は溜息を吐く。
「俺も大和撫子みたいな女の子好きだったんだよ。けど、まあ、それと同じくらいに金髪爆乳外国人を好きになったというか。ほら、俺らの親父って、めちゃくちゃ映画好きだったじゃん?その影響で俺も映画めちゃくちゃ観ててさ。それで洋画に出てくる金髪爆乳ヒロインに恋焦がれたというか……」
父の話を出した途端、彼は苦笑いを浮かべる。
それを見て、俺は悟った。
「……ああ、お察しの通りだ。俺は幼い頃に父と母を亡くしてな。正直な話、彼等の顔をよく覚えていない」
ああ。
やっぱ、そうなのか。
彼は父が映画好きという情報さえも知らずに死別したんだな。
「俺が生まれ育った世界では、21世紀初頭に第三次世界大戦が勃発していてな。……小学校に入学したその日の夜、両親は空襲に巻き込まれて死んでしまった」
彼はエロ本を脇に挟んだまま、自分の過去を語り始める。
それをどういう気持ちで聞けば良いのか分からなかった。
とりあえず、シリアスモードに突入したいから、脇に挟んだエロ本を置いて欲しい。
「だから、両親がどういう人間だったのか、正直覚えていなくてな。……そうか、俺の父は映画が好きだったのか」
噛み締めるように彼は遠い目で空を見つめる。
突然のシリアスモードに驚いた俺は、ついこんな補足情報を告げてしまった。
「……洋画だけじゃなくて、洋物のAVも好きだぞ」
「…………そうか、俺の父も男だったんだな」
めちゃくちゃ複雑そうな顔をしていた。
「あと、母さんは元ヤンだぞ。父さんを逆レイ○した強者だぞ。今もお盛んで時々父さんを逆レ○プしている」
「俺はそれをどういう気持ちで聞けば良いんだ?」
「泣いて喜べば良いと思う」
「別の意味で泣けてくる」
彼が抱いていた両親の幻想を跡形もなく打ち砕く。
その瞬間、遠くの方から轟音が聞こえてきた。
「──っ!」
「おいおい、次は何が起きたんだよ!?」
轟音の方に視線を向けると、遠くの方で光柱が立っていた。
「お、おい!?何か起きているぞ!?あれ何だ!?教えてくれ、ジングウ!父さんと母さんが俺を作った時の体位を教えるからさ!」
「親の性癖なんて知りたくない!!」
「──どうやら第13人類始祖の幼体が誕生したみたいね」
背後から酒乱天使の声が聞こえてきたので振り返る。
酒の酔いが醒めるくらいヤバイ出来事が起きているのか、彼女の顔はこれ以上にないくらい緊張感に満ち溢れていた。
「第13人類の幼体……?何だよ、その新用語?」
「簡単に言うと、始祖化した人間の事。このまま放って置くと、始祖ガイアと同じ脅威が誕生しちゃうわ」
俺の質問に答えながら、彼女もジングウも顔を強張らせる。
多分、めちゃくちゃヤバい事が起きているんだろう。
「つまり、さっさと何とかしないといけないって事!さ、今すぐ現場に駆けつけ……」
「いや、待て。ここには神器である美鈴くんがいる。俺達全員で行ったら、その隙に美鈴くんが始祖ガイアの手のものに奪われてしまうかもしれない」
「だったら、この場にいない脳筋女騎士に任せましょう!多分、私達がいなくなったら、彼女も空気読んで、あの子達を守ってくれるでしょう!!」
「──いや。残るのはお前だ、カナリア。私にはやらなければいけない事がある」
再び背後から声が聞こえてくる。
そこには脳筋女騎士──アランと彼女に首根っこを掴まれた教主様が立っていた。
「お、おい、……あんた、何で教主様の首根っこを掴んでいるんだ?」
「こいつの性根を叩き直すためだ」
そう言って、脳筋女騎士は教主様を睨みつける。
「カナリア、お前が神器を守れ。私はこいつに世界を救わせる」
「はぁ!?あんた、何言って……」
突然、突拍子のない事を言い始める脳筋女騎士に酒乱天使は声を荒上げる。
「こいつの性根を叩き直せるのは私だけだ。産まれた時から特別だったお前や他人のために命を費やせるお前らには出来ない事だからな。──私がこいつと世界を救ってやる」
有無を言わせぬ態度で怖気づく教主様を睨む脳筋女騎士。
その態度に押されたジングウと酒乱天使は同意の言葉を口にした。
「……分かった、君の言う通りにしよう。カナリア、美鈴くん達を守ってやれないか?」
「別に良いけど……え、あんた、その青年をあそこに連れて行くつもりなの?最悪、死ぬわよ、それ」
「大丈夫だ、そのときは彼を埋葬する」
「「「何が大丈夫なんだ?/何が大丈夫なの?」」」
冗談なのか本気なのか、よく分からない頓珍漢な事を言いながら、彼女は教主様を強引に立たせる。
「という訳だ、フィル。お前に世界を救わせる。これ以上、生き恥を晒したくなかったから、私に着いて来い」
"否定するなら、この場で叩き斬る"と言わんばかりの貫禄で彼女は教主様の首を縦に振らせる。
そして、彼女は教主様をお姫様抱っこすると、そのまま光柱が立つ現場に向かって走り始めた。
「本当、あいつに任せて大丈夫なのかしら……?」
「だが、彼女の言っている事も確かだ。産まれた時から特別だった君と超人寄りの精神構造である俺達では彼を救えない。多分、彼の悩みを真の意味で理解できる──凡人寄りの思考の持ち主である彼女にしかできない所業なんだろう」
ジングウはゴミ捨て場で拾ったエロ本を懐に収めながら呟く。
彼が持っているエロ本を把握した途端、酒乱天使はゴミでも見るような目をし始めた。
「……あんた、何している訳?」
エロ本とジングウを交互に見ながら、彼女はドン引きした様子で質問を繰り出す。
彼は咳払いすると、俺を指差した。
「……彼が拾ってくれと頼んだんだ」
「「嘘を吐くな」」
今の拙い嘘でようやく実感した。
ああ、ジングウ(こいつ)、俺だわ。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
皆様のお陰で19万PVを超え、20万PVまであと僅かの所まで肉薄できました。
本当にありがとうございます。
この場を借りて、お礼を言わせて貰います。
現在、9万PV達成記念短編のストック作りを頑張っていますので、もう暫く週一ペースで更新させて頂きます。
来週からバトルシーンが増えると思いますので、よろしくお願い致します。
次の更新は9月15日(水)12時頃です。
これからも更新していきますので、よろしくお願い致します。




