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4月31日(5)「オレは、救世主になりたかった」の巻

 部屋の中には苦い顔をする啓太郎と平行世界の俺、怒りの余り顔を真っ赤にさせた美鈴、そして、ここにいる筈のない金郷教元教主──フィルラーナ・ロランディーノが部屋の中にいた。


「な、……何でお前がここにいるんだよ……!?」


 教主様を見て、俺はつい驚きの声を発する。

 だが、教主様も美鈴も俺の声に反応しなかった。


「うわ、……これ、かなりの修羅場ね」

 

 酒乱天使──カナリアは酒を飲みながら、ガチギレする美鈴の方を見る。


「…………………」


 脳筋女騎士──アランは"勝手にやってろ"と言わんばかりの態度で目を瞑っていた。

 ジングウの方を見る。

 彼も特にアクションするつもりがないらしく、じっと美鈴達を眺めていた。

 どうやら彼等は様子見に徹するつもりらしい。

 啓太郎の方を見る。

 彼は気まずい顔をしながら、俺の方を見ていた。 

 どういう状況なのか尋ねるため、彼の下に近寄る。


「なあ、啓太郎。何でここに教主様がいるんだ?」


 空気を壊さないように努めながら、俺はめちゃくちゃ小さな声で啓太郎に尋ねる。


「あれ……俺達の世界の教主様だろ?何であいつがこの世界にいるんだ?」


「さあ?それを聞こうと思ったら、突然、元教主が発狂したんだ。で、その発狂が美鈴ちゃんの逆鱗に触れて今に至る……と」


「は、発狂……?どういう発狂をしたんだ?」


「『オレは救世主になりたかった』」


 俺の質問に答えたのは啓太郎ではなく、ジングウだった。


「彼はこうも言っていた。『救世主になる事で妹を見殺しにした事実から逃れたかった』、『神堕しでガイア神を呼ぼうとしたのは、オレが楽して世界を救おうと思ったから』、『オレは自分のエゴのために世界を救おうとしていたんだ』、『オレが救いたかったのは世界じゃない、自分自身だ』」


「…………本当に、そんな事を言った……のか?」


 ジングウの言葉を信じる事ができず、俺は困惑してしまう。

 それが本当なら、美鈴がガチギレしてもおかしくないものだ。

 だって、美鈴は世界を救うという理由で犠牲を強いられたのだから。

 今になって、犠牲を強いた本人の口から"間違いだった"なんて言葉が出てきたら、そりゃあ、誰だって怒る。


(けど、……)


 教主様の正義感に満ちた顔を思い出しながら、俺は乱雑に後頭部を掻く。

 俺が知っている教主様は、俺と違って、本気で世界を救おうとしていた。

 邪魔をする俺を道連れにするくらい、彼は自分の事を度外視にしていた。

 そんな彼が"自分のために世界を救おうとしていた"なんて世迷言を吐くなんて──


「……ああ、怒るのも当然だ。だって、お前が犠牲になっていたら、この世界のように滅んでいたからな」


 教主様の今にも泣きそうな声が室内に響く。

 それを聞いた瞬間、俺も啓太郎もジングウもアランも息を飲んだ。

 "ぐびぐび"と酒乱天使が日本酒をラッパ飲みする音だけが響き渡る。

 おい、酒乱天使。

 お前はもう少し空気を読め。


「貴方は私に言ったよね!?お前さえ犠牲になれば全人類は救われるって!なのに、何なの!?この世界は!?この世界のどこに救いがあるって言うの!?」


 美鈴の感情的な声が耳を劈く。

 その声にビックリした酒乱天使は、床に酒瓶を落としてしまった。

 床に散らばったガラスの破片と酒を見て、項垂れる酒乱天使。

 そんな彼女から目を逸らす。


「もし私の中に神様が降りていたら、私達の世界もこの世界みたいに滅びていたって事だよね!?いや、滅びていた!お兄ちゃん達がガイア神を倒したから、何とかなったけど、もし貴方の計画通りに事が進んでいたら、間違いなくこの世界みたいに滅びていた!!」


 美鈴の怒声に教主様は"すまない"と心ここに非ずと言った様子で呟く。

 彼の口から出てくる謝罪の言葉に真摯さというものは感じられず、保身のために呟いているようにしか見えなかった。

 そんな彼の姿に違和感を抱いた俺はかなり戸惑う。

 部屋の隅で狼狽える俺に構う事なく、美鈴は自分に犠牲を強いた男を詰る。

 

「私は……私は、自分さえ犠牲になれば皆んな幸せになれるって本気で思ってた!!なのに、何でこんな事になってんの!?何で確実に世界を救える方法で世界が滅んでいるの!?説明してよ!!早く!!」


 今にも殴りかかりそうな勢いで美鈴は教主様を睨む。

 彼は唇を小刻みに揺らすと、恐る恐るといった様子で口を開いた。


「……じ、神器に神を降ろせば、オレの願いを叶えてくれるって"ガラスの魔女"が言っていた。だ、だから、俺はそれに従った。いや、……鵜呑みにした」


「何で鵜呑みにしたの!?何でそれが本当に正しいかどうか吟味しなかったの!?」


「そ、それは、……、魅力的だったから。楽な方法だったから……オレは、手っ取り早く世界を救おうとした……だから、オレは何も考えずに……お前を……にしようと」


 ……無理に取り繕う事も保身に走る事もなく、教主様は淡々と自分の罪を口にする。

 真面目過ぎる──と俺は思った。

 言い逃れしようと思えばできただろう。

 誰かの所為にできただろう。

 それでも彼は言い逃れも責任転嫁もしなかった。

 今にも崩れ落ちそうな教主様を見ながら、俺は言葉を失う。

 美鈴の気持ちも教主様の気持ちも分かる。

 だから、どっちの味方をしたら良いのか分からなかった。

 このやり取りを止めるべきな否かさえも判断できなかった。

 啓太郎の顔を覗き見る。

 彼は気まずそうな様子で美鈴達を眺めていた。

 

「そんな理由で私は犠牲にしようとしてたの!?ていうか、貴方、言ってたよね!?『この方法は失敗しない』って!『100パーセント成功する』って!!実際、元の世界でもこっちの世界でも失敗してるじゃん!!」


 美鈴は泣きながら、罵倒の言葉を口にする。

 きっと感情を制御できていないんだろう。

 ……彼女は身も心も子どもだ。

 いや、大人でも彼女みたいに怒り狂うと思う。

 実際、俺も美鈴と同じ立場だったら、間違いなく怒り狂っていた。

 きっと俺は暴力を振るっていただろう。

 殴りかからない分、美鈴の方が大人かもしれない。

 

「ごめん、……ごめん、なさい……でも、オレは、……救世主になりたかったんだ。救世主になる事で楽になりたかったんだ」


 教主様は真摯さも欠片もない謝罪の言葉を口にする。 

 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。


「オレは救世主になる事で見殺しにした妹や友人の死に報いたかったんだ……!救世主になるしかなかったんだよ!オレの気持ちが楽になるのは……!世界を救う事で許されたかった!決して人類みんな救おうとしたんじゃない!オレはオレのためだけに世界を救おうとしたんだ!それだけの理由でオレはお前を犠牲にしようとしたんだ!!だから、ごめん、ごめんなさい……!」


 彼の言っている事を俺は理解できなかった。

 多分、彼の事を何も知らないからなんだろう。

 けど、態度で分かった。

 彼は楽になりたいがために謝罪の言葉を呟いているのを。

 彼は美鈴に謝罪の言葉を告げているのではなく、自分が責められ難い状況を作るために謝罪の言葉を呟いているのだ。

 それが意識的なのか無意識的なのか分からない。

 いや、意識的じゃないだろう。

 だって、意識的に自分が責められ難い状況を作るんだったら、もっと良い方法があると思うから。

 多分、今の彼は何も考えずに思いついた事を言っているだけだ。

 きっと無意識のうちに責められたくないと思って、謝罪の言葉を呟いているのだろう。

 本気で世界を救おうとした教主様の姿を思い出す。

 自分を犠牲にしてでも世界を救おうとしている彼の姿は賞賛に値するものだった。

 だから、聞きたくなかった。 

 彼の本音を。

 ……追い詰められているとはいえ、彼のそんな姿を見たくなかった。


「謝れ!!みんなに、いや、この世界の人達に謝れ!人でなし!!地獄に堕ちろ!!私は貴方を一生許さないから…….!!」

 

 被害者である美鈴は憎悪に満ちた言葉を口にすると、声を上げて泣き始めた。

 その姿を俺はぼんやり眺める。

 ……彼等に何て声を掛けたら良いのか、俺には分からなかった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。

 先月は更新ペースがガタ落ちして申し訳ありません。

 今月も公募の推敲とか同時連載している爆破令嬢のストック溜めとかで週一ペースになると思いますが、ストックが溜まり次第、ガンガン更新する予定なので、よろしくお願い致します。

 次の更新は9月8日(水)12時頃に予定しております。

 これからも9万PV達成記念短編は9月中旬までに終わらせるように努めますので、お付き合いよろしくお願い致します。

 まだまだコロナ渦や暑い日が続きますが、体調にお気をつけてお過ごし下さい。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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