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4月31日(4)見覚えのある顔の巻

 交番の中にあった死体の顔を見る。

 中性的な容姿とか男の娘いう類の顔ではなかった。

 脂ぎった黒髪にニキビだらけの皮膚。

 一重の瞳に低い鼻。

 肉団子と言っても過言ではない頬の肉に怠惰の象徴である二重顎。

 その二重顎には青髭が見える。

 顔面だけでもモテる要素皆無なのに、胴体はそれ以上に酷い。

 突き出た腹に短過ぎる手足。

 尻は西瓜のようにデカく、太ももはまるでハムのよう。

 その脂肪だらけの身体を包むのは女子用の制服。

 この容姿には見覚えがある。

 魔女に全ての美点を取られていた時の四季咲のものだ。

 

「……な、んでこの姿に……」

 

 想定外の事態に頭の中が真っ白になる。

 目の前にいるのが俺の知っている四季咲か、それともこの世界の四季咲なのかさえ分からなかった。

 

「その答えは、あの子の掌にあるかもよ」


 いつの間にか俺の背後を取っていたカナリア──小鳥遊と同じ容姿をした酒乱天使──が、俺にアドバイスを送る。

 彼女の言う通り、四季咲の死体は手紙らしきものを握っていた。

 その手紙らしきものを手に取る。

 それは彼女──この世界の四季咲──の遺書だった。


「何が書かれてんの?」


 酒乱天使は何処からか取り出した酒瓶をラッパ飲みしながら、俺に質問を投げかける。


「4月4日に現れた女神により世界は滅亡の一途を辿っている事。四季咲(この子)は魔女を自称する女性に全てを奪われた事。かつての生徒会メンバーに襲われて致命傷を負わされた事。……それくらいしか書いていなかった」


 遺書と言うより現状を客観的に把握するためのメモみたいなものだった。

 この世界の四季咲がどんな気持ちでこれを書いたのか、さっぱり分からない。

 分かっている事は、ただ1つ。

 この世界に彼女を助けてくれる物好きはいなかった事。

 それだけだ。


「何か露骨に落ち込んでいるけど、その子、あんたの知り合いと似ているの?」


「ん、……まあ、な」


 遅れてやってきた四季咲似の脳筋女騎士──アランの顔を見ながら、質問に答える。


「あー、そりゃあ、ショック受ける訳だ。でも、気にする必要はないわよ。それはあんたの知り合いとよく似た人だから」


「……でも、こいつが死んだ事には変わりないだろ」


 救われる事なく、死んでしまったこの世界の四季咲を見ながら呟く。


「知り合いによく似た人が死んで落ち込むってのは分からない訳じゃないけど、落ち込むだけ損よ。あんたが救えるのはあんたが生まれ育った世界にいる人だけ。要するに、あんたがどれだけ最善を尽くそうが、その人を救う事ができなかった訳」


 彼女はわざとキツい言い方をする事で、俺の怒りの矛先を自分に向けさせようとする。

 

「……分かっているよ。ただ、ちょっと感情が追いつけなかっただけで」


 気を遣われている事を理解した俺は、頭を掻きながら、自分の気持ちを整理しようとした。


「あら意外。私を殴らなくて良かったの?」


「その誘導に乗る程、俺は子どもじゃないんだよ」


「ふーん。あんた、結構生き辛い生き方してんのね」


 酒を飲むのを止めた酒乱天使は交番の中を見渡す。


「他に手掛かりらしいものはないみたいだし、さっさと他の場所に行きましょうか」


「ああ、その前にこいつを埋葬させてくれ」


 この世界の四季咲だった肉塊を背負う。

 

「やっぱ、知っている顔を放置したままってのは嫌というか何というか」


「本当、あんた、生き辛い生き方してんのね。そんな生き方していると、いつか自分で自分を壊す事になるわよ」


「大丈夫、何とかなるから」


 そう言って、俺は四季咲の死体を担いで、交番から出る。

 そして、交番近くにある桜の木まで移動すると、その木の下に彼女の死体を埋めた。


(……特に取り乱す事はなかったな)

 

 情が薄いのだろうか。

 この世界の四季咲の死体を見たというのに、俺の心は酷く落ち着いていた。

 違和感を抱かない事に違和感を抱く。

 果たして、俺は何を考えているのだろうか。

 考える。

 自分でもよく分からなかった。

 四季咲似の脳筋女騎士の方を見る。

 彼女は気まずそうな顔で手についた土を払う俺の事を見ていた。


「何か俺の顔についてんのか?」


「……いや、何もない」


 脳筋女騎士は俺から目を背けると、再びどこかに向かって歩き始める。

 俺と酒乱天使はその後に着いて行く事にした。

 変わり果てた桑原の町を探索する。

 雪に埋もれた駅前に行った。

 倒壊した駄菓子屋前に行った。

 燃え滓になった孤児園『ひまわりの園』にも行った。

 その度に見慣れた顔の死体と出会った。

 その度に俺は彼等を埋葬した。

 普通なら取り乱す場面だというのに、俺は何も感じなかった。

 開拓者(アウトサイダー)とやらになった事で、人の心が死んだのだろうか。

 考える。

 が、よく考えても分からなかった。

 悲しみよりも憎しみよりもモヤモヤしたものが俺の心を覆い尽くす。

 そのモヤモヤが何なのか、俺には分からなかった。

 数時間程、町の中を探索した後、俺達は美鈴達がいる桑原学園に戻る。

 当然、手掛かりは何も得られなかった。


「うーっす、戻ってきたぞー」


 美鈴達がいる部屋に入ろうと部屋の扉を開けようとする。

 その瞬間、部屋の中から美鈴の怒声が聞こえてきた。


「ふざけるなっ!!」


 今まで聞いた事のない美鈴の声を聞いて、俺は目を大きく見開く。

 異常な事態が起こっている。

 そう判断した俺は慌てて部屋の中に入る。

 部屋の中には啓太郎と平行世界の俺、怒りの余り顔を真っ赤にさせた美鈴、そして、──


「な、……何でお前がここにいるんだよ……!?」


 そいつは俺が知っている人だった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。


 次の更新は9月1日12時頃に予定しております。

 8月は諸事情により、週1〜2話更新になりましたが、来月からは先月と同程度の更新ペースでやらせて貰います。

 本当に申し訳ありません。

 残り24話〜30話くらいで9〜10万PV達成記念短編は終わる予定なので、お付き合いよろしくお願い致します。


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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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