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4月31日(3)俺と脳筋女騎士と酒乱天使の巻

「うーん、やっぱ人いねぇな」

 

 後頭部を乱雑に掻きながら、俺──神宮司は赤光の魔導士が言っていた自称作家とやらを探す。

 が、幾ら見渡しても人影どころか銭ゲバな亀も不思議な種も見当たらなかった。

 ちなみに現在俺とアラン──四季咲似の脳筋女騎士──とカナリア──小鳥遊似の酒乱天使──は、桑原交番近くの道路を歩いている。

 

「いや、近くに人の気配を感じる。恐らくそこにいる筈だ」


「そこって何処だよ」


「そこはそこだ」


 めちゃくちゃ曖昧な答えが返ってきた。

 本当、四季咲の顔で馬鹿っぽい発言は止めて欲しい。


「ちなみに私の鼻によると、大体5キロ圏内に人はいないわよ」


 酒乱天使は鼻を鳴らしながら、俺達に情報を提示する。


「おい、そこの脳筋女騎士。今すぐ近くっていう単語を辞書で調べてこい」


 いつもの調子でアランの事を渾名で呼んでしまう。 

 その瞬間、俺の喉元に剣が突きつけられた。


「──次、脳筋何とかって言ってみろ。その首、刎ね飛ばすからな」


「え?キレる所、そこ?」


 脳筋女騎士は視線だけで人を殺せそうな勢いで俺を睨みつける。

 脳筋女騎士の所為で一触即発な空気になってしまった。

 俺の態度も悪いっちゃ悪い。

 なので、大人に対応をする事にする。


「あー、悪かった。あんたを貶しめる言い方をして。2度と脳筋女騎士って言わな──」


 脳筋女騎士は俺の首に斬撃を浴びせようとした。


「うわっと!?」


「言っただろ?もう2度と呼ぶなと」


「ちゃんと人の話を最後まで聞け!文脈を読み取らず、単語だけをピックアップして揚げ足を取るな!人が何を言っているのか、ちゃんと耳を傾けた上で反論しやがれ!!」


「問答無用!言いたい事があるなら力で捻じ伏せろ!!」


「自分の事を棚に上げて言わせて貰うけど、あんた、野蛮過ぎねぇ!?」


 まさに一触即発。ちょっと刺激しただけでガチバトルが始まりそうな雰囲気になる中、今まで沈黙を貫いていた酒乱天使が俺達の間に割り込む。


「まあまあ、落ち着きなさい。ここで争っても無駄に消耗するだけよ。ほら、お酒あげるから落ち着きなさい」


「いや、俺、未成年だから」


「私は下戸だ。酒なんていらない」


「えー、うそー。あんたら、お酒飲まないの?勿体ない、人生の半分を無駄にしているわよ」


 出た、○○楽しめないのは人生の半分を無駄にしている理論。

 自分の価値観が絶対的なものと思っている人にありがちな謎理論。

 俺、こういう価値観の押し付けは嫌いだ。

 何で嫌いかって言うと、俺自身もそういう所あるから。

 だから、なるべく価値観を押し付けないように努めているが、それでも無意識のうちにしている訳で。

 あー、思い出すだけで枕に顔を埋めたくなる。


「酒を含め、娯楽は無駄だ。百害あって一利もない」


 脳筋女騎士はお堅い聖職者みたいな事を言い出した。

 めちゃくちゃ禁欲的だろ。

 今の時代、お坊さんでも肉食っているのに。


「その無駄がないと神様になっちゃうわよ。あんたは、あんたの世界を滅ぼした奴みたいになりたいの?」


 脳筋女騎士アランの身体から尋常じゃない殺意が放たれる。

 向けられていない俺でさえも身震いする殺気を受けているにも関わらず、酒乱天使カナリアは平然としていた。


「……貴様、私を愚弄しているのか?」


「過去にあんたみたいな無駄を嫌悪する力ある者を何人も見てきたわ。だから、断言する。無駄を愛せない奴は、人類にとっての"絶対悪"になる。ほら、あんたが倒した原初の人間とやらも無駄を愛せなかったから人類を滅ぼしたんでしょ?」


「ちっ……」


 思い当たる所があるのか、脳筋女騎士は殺意を捨てる。

 俺はというと、彼女が怒った理由よりも"絶対悪"という言葉に引っかかった。


「なあ、酒乱天使。その人類にとっての"絶対悪"って何だ?」


「言葉の通り、人類にとっての絶対悪よ。人類の進化及び発展を阻む存在の事を指すわ。大抵は復活した始祖だったり、始祖の力を利用して己が欲を満たそうとする輩だったり、私利私欲に走る開拓者(アウトサイダー)の事を指すわね」


 酒乱天使は渾名を気にする事なく、平然とした様子で俺の質問に答えてくれた。

 そのお陰で俺もその単語の意味を完璧に理解する。


「大体承知。つまり、神の力を持つ悪者って訳か」


「そういう事。あんたは"ティアナ"に選ばれてるから問題ないだろうけど、脳筋女騎士(そいつ)は自力で神域に至ったから危険なのよ。場合によっては、開拓者(わたしたち)の敵になるかもだし」


「……は?ティアナ?」


「あ、やば。これは言うなって口止めされてんだった」


 てへぺろとはにかみながら、誤魔化そうとする酒乱天使。

 多分、空気的にティアナというのは教えてくれそうにないので、別の事を聞こうとする。


「これは俺の予想なんだけど、……え、開拓者(アウトサイダー)になったら、その絶対悪とやらと闘わないといけなくなる訳?」


「そういう義務はないわ。私やジングウは趣味みたいなもんだけど、殆どは自由参加ね。自分にとって利になる時や不利益を被る時に絶対悪討伐に参加する奴が大半よ。それ以外は基本放置。世界間移動も楽じゃないし」


 なるほど。

 大学の緩いサークルみたいなもんか。

 気が向いた時だけでいいんだ、絶対悪を討伐するの。


「けど、まあ、開拓者(わたしたち)が手出しするのはその世界の人類が滅んだ後ね。そうしないと私達が絶対悪認定されて、他の開拓者(アウトサイダー)やその世界の防衛機能を敵に回しちゃうかもだし」


「つまり、平行(ちがう)世界から来た人は、その世界の人類の選択(ゆくすえ)に関与したらいけないって事か?」


「基本的にそういう事。その世界で発生した絶対悪はその世界の人類の手で排除しないといけないのがルールって訳。まあ、その絶対悪が他の平行世界に目をつけた場合とか、その世界の人間が開拓者(アウトサイダー)に選択を委ねた時とか、色々例外(抜け道)はあるんだけど」


「ふーん、そうなんだ」


 興味ないので聞き飛ばす。

 俺も開拓者(アウトサイダー)っぽいけど、別に他の世界の平和を守りたいなんて思わないし。

 というか、キリがなさそうだし。

 俺がいる世界に危害が及ぶんだったら、話は別だと思うけど、好き好んで他の世界を救おうなんて思わない。

 というか、ガイア神やガラスの竜みたいな奴と延々と闘いまくるとか命が何個あっても足りないような気がする。


「……………」


 酒乱天使の指摘に思う所があるのか、脳筋女騎士は黙り込んでしまう。

 その姿に気まずさを覚えながら歩いていると、桑原交番が見えてきた。

 酒乱天使は鼻を鳴らすと、交番と脳筋女騎士を交互に見始める。


「どうかしたか?」


「あ、いや、あそこにいるの、よくよく嗅いだら、そいつの臭いと一緒だなーって」


 その言葉により、俺の心臓は跳ね上がる。

 ……まさか、四季咲もこの世界に来ているとかじゃない、よな?

 その考えが脳裏に過った瞬間、俺の身体は勝手に駆け出していた。

 交番に辿り着いた俺は、断りの言葉を告げる事なく、中に入る。

 交番の中にあったのは死体だけだった。

 その顔には見覚えがある。

 今でも覚えている。

 ()()()()彼女の容姿(すがた)を。


「…………四季咲」


 交番の中にあったのは、四季咲の死体だった。


 



 


 ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 皆様のお陰でブクマ290件を超える事ができました(8月20日11時現在)。

 ブクマ300件まで肉薄する事ができたのは皆様のお陰です。

 本当にありがとうございます。

 ブクマ300件記念中編もいつか書きますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。

 

 ちなみにブクマ200件記念中編の件ですが、以前、司が1年生の頃のお話を書くと告知しましたが、内容を変更させて頂きます。

 ブクマ200件記念中編は今回の8〜10万PV達成記念短編で出てきた平行世界の司──ジングウをメインにしたものを執筆させて頂きます。

 詳しい内容に関しては後々告知させて頂きますが、恐らく別の枠──新連載という形で更新させて貰うと思います。

 9・10万PV達成記念短編が終わり次第、準備を始めますので、公開は10月以降になると思いますが、お付き合いしてくれると嬉しいです。


 また、来週の更新は水曜日12時頃に予定しております。

 来週まで私情でゴタゴタしますので、今週と同じく1〜2話更新するだけと思いますが、これからも頑張りますので応援よろしくお願い致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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