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4月31日(2) ジングウと松島啓太郎

 神宮司達が退室して1時間後。

 元々は生徒会室だった部屋に残された松島啓太郎は、自分が知っているよりも少し歳を経た青年──"ジングウツカサ"を注意深く観察していた。


「どうした?俺の顔に何かついているのか?」


 ジングウは椅子の背もたれに全体重を預けながら、啓太郎に"何か用があるのか?"と暗に告げる。

 

「……本当に君は司、なのか?」


 部屋の隅で寝ている美鈴を起こさないように声を発しながら、啓太郎は疑問の言葉を口にする。

 啓太郎が知っているより神宮司よりも歳を経た彼──ジングウは、苦笑いに似た哀愁漂う笑みを浮かべると、彼の質問を肯定する。


「君が知っている彼と同一存在……名前と容姿が同じなだけの別人と言ったら分かりやすいだろうか」


 大人びた雰囲気を醸し出しながら、自嘲するように嗤うジングウの姿に啓太郎は違和感を抱く。

 松島啓太郎にとって、神宮司という人間は唯の子ども──腕っ節が強過ぎる高校生──でしかない。

 そのため、彼が漂わせる威圧的な雰囲気や染み付いた血の匂い、そして、眉間に皺を寄せている姿は見慣れないものだった。

 とてもじゃないが、目の前の彼を()()()として見る事ができない。

 故に名前と容姿が違うだけの別人という彼の説明をすんなり受け入れる事ができた。

 

「じゃあ、君は本当に平行(ちがう)世界の司なんだな」


「ああ、(おれ)とは同一人物ではない。正しく言えば、神宮司という人間が第三次世界大戦を経たら、俺みたいな人でなしになる」


 その一言により、啓太郎は少しだけ動揺する。


「……君がいた世界では第三次世界大戦が起きたのか」


「ああ、21世紀初頭にな。それにより人類は滅亡。俺だけが生き残ったという訳だ」


「…………そうか、災難だったな」


 複雑な気持ちに陥った啓太郎は無難な言葉を彼にかける。

 それくらいしか言葉にする事ができなかった。


「何を他人事みたいに言っている。君達の世界では第三次世界大戦が起きていないんだろ?なら、いつ第三次世界大戦が起きてもおかしくない。世界大戦(アレ)は些細なきっかけで起こり得るものだ。君達の世界が世界大戦で滅びる可能性も、君が知っている(おれ)も俺みたいな人でなしになる可能性も決してゼロじゃない」


 意地の悪い言い方で啓太郎を追い詰めながら、ジングウは自嘲する。


「現に君達の世界でも始祖ガイアが顕現したり、魔女(てんし)の叛逆が起きたり、神域に至ったばかりの魔術師が暴走しかけたんだろ?ギリギリの所で阻止できていたようだが、一歩間違えれば、第三次世界大戦が起きていたに違いない。世界大戦(アレ)はそういうものだ。冗談でも脅しでもなく、些細なきっかけで起こり得る」


 わざわざ同じような内容を念入りに口にしながら、ジングウは窓の外に視線を向ける。


「最悪の場合、世界大戦なんていう過程(プロセス)を踏む事なく、この世界のような滅びを迎えていただろう。君達は運が良い。ギリギリのギリギリの所で、最悪の場合を回避できたのだからな」


 ジングウは皮肉でも何でもなく、感心したような声を上げると、視線を窓の外に向けたまま、自嘲を浮かべる。

 その姿は啓太郎にとって見慣れない姿だった。


「今度は俺からの質問だ。松島啓太郎、君は(おれ)の──神宮司の友人か?」


「友人とも言えるし、保護者とも言える。出来の悪い弟みたいなものだ。だから、彼と似ている君を放っておく事はできない」


 啓太郎の一言を聞いたジングウは眉を顰める。


「友人……という言い分だけなら納得できたが、保護者や弟分という言葉に引っかかる。君は本当に神宮司という人間と向き合っているのか?」


「……何が言いたい?」


「君は誰かの面影を(おれ)に押しつけているんじゃないのか?」


 ジングウの指摘により、啓太郎の脳裏にある少年の顔が過ぎる。

 脳裏を過ったのは、かつて近所に住んでいた小学生(おとうとぶん)の顔。

 啓太郎が中学に入ると同時に疎遠になったが、疎遠になるまでは実の弟のように可愛がった男の子の顔。

 啓太郎は弟分の顔を鮮明に思い出しながら顔を顰める。

 今から十数年前。

 啓太郎が実の弟のように可愛がった弟分は亡くなった。

 原因は自殺。

 虐めの主犯格によると、自殺した弟分の担任がイジメのきっかけを作ったらしい。

 きっかけを作っただけではなく、イジメに加担していたみたいだ。

 だが、虐めの主犯格の少年達も虐めのきっかけを作った担任も証拠不足により罪を問われる事はなく。

 結果、彼を死に追いやった人達は、1名を除いて今も裁かれる事なく、のうのうと生きている。

 その時、抱いた悪感情を啓太郎は今でも覚えている。

 弟分に何もしてやる事ができなかった罪悪感。

 事件の犯人を追い詰める事ができなかった無力感。

 あの時の後悔を啓太郎は今でも引き摺っている。

 啓太郎がお巡りさんになったのも、月に1度弟分の墓参りに行くのも、全部、十数年前に抱いた後悔を少しでも晴らすため。

 弟分を助ける事ができなかった後悔は今でも啓太郎の中に残り続けている。

 だから、否定する事ができなかった。

 神宮司に弟分の面影を見出しているという事実を。

 いつも問題を抱え込んでいる神宮司の姿と虐めを苦に自殺した弟分の姿を重ね合わせている事を。

 啓太郎は無意識のうちに思っていた。

 "このまま神宮司から目を離してしまったら、弟分のように死んでしまうんじゃないか"と。

 だから、啓太郎は彼を友人として扱いながらも庇護対象として看做していた。

 もう2度とあの時と同じ後悔を抱かないように。


「的外れかもしれないが、これだけは言わせて貰うぞ。君が救わなくても、神宮司は勝手に救われる。アレはそういう人間だ。君が心配する程、(おれ)は柔な人間じゃない」


「彼は子どもだ」


 啓太郎はジングウの言葉を即座に否定する。


「故に、僕ら大人が守ってやる必要がある。たとえそれがお節介だったとしても、な」


「そうか」


「それを言うためだけに、君はここに残ったのか?」


「まあ、それもある。1番の理由は君という人間を知るた──」


 唐突にジングウは口を閉じると、教室の出入り口辺りを見始める。


「どうかしたか?」


「──何者かがこの学園に足を踏み入れたようだ」

 

 啓太郎に待つように告げると、ジングウは部屋から出て行ってしまう。

 数分後、部屋の外から金属同士の撃ち合う音が聞こえてきた。

 恐らくジングウが何者かと戦闘しているのだろう。

 啓太郎は動く事なく、聞こえてくる金属音に耳を傾ける。

 ──それくらいしか今の啓太郎にできる事はなかった。

 ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 今回は三人称の練習を兼ねて、啓太郎という人間の掘り下げをさせて貰いました。

 本作品でも何回も三人称のお話を書かせて貰っていますが、未だに三人称に慣れていません。

 あと2〜3回三人称のお話を投稿すると思いますが、その時は今回以上に完成度を高められるように努力しますので、これからもお付き合いよろしくお願い致します。

 次の更新は今週の金曜日に予定しております。

 8月前半は公募用の小説に集中していたので、更新ペースが遅くなりましたが、これからは更新ペースを上げていきますので、よろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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