4月31日(破)(1) 神域の巻 *9万PV達成記念短編
「どうやらこの世界は平行世界らしい」
神妙な顔をして啓太郎は既知の情報を俺達に提示しやがった。
「「うん、知ってる」」
俺と美鈴は"もうそんな情報に価値ねぇんだよ"と言わんばかりの態度で相槌を打つ、
「驚くなよ。……どうやらこの平行世界は神堕しが成功した世界らしい」
「「うん、知ってる」」
「なら、この世界の神堕しは桑原ではなく、東雲市で行われた事も知っているのか?」
「「うん、知って……え?そうなの?」」
「更に驚くべき事にこの世界での司は7歳の時に溺死している。恐らくこの世界と僕らがいた世界の分岐点はここだろう。ここは司が死んだ事により分岐した世界だ」
「「待って待って待って、話についていけない」」
啓太郎から教えられた新事実に戸惑う俺と美鈴。
だが、俺の背後にいる彼等は慣れているのか、特に驚く素振りも見せなかった。
「啓太郎とやら。君は"神宮司"という人間を特別視しているようだが、"神宮司"という人間は世界を左右する程の人物ではない。偶々、この世界に神宮司が幼い頃に亡くなっているだけだ。その考察は的外れと言っても過言ではない」
平行世界の俺──ジングウが口を挟む。
彼を見た瞬間、啓太郎は大きく目を見開いた。
「司、前々から君の事を単細胞生物と思っていたが、……そうか、とうとう分裂してしまったのか……!」
「んな訳ねぇだろ」
啓太郎の頬を軽く殴り、物理的に黙らせる。
ジングウとはいうと、曖昧な笑みを浮かべながら、啓太郎を見ていた。
「いや、ツカサだけじゃなくて、四季咲くんや小鳥遊くんも分裂しているな……やっぱ、僕は夢でも見ているのだろうか?」
四季咲そっくりな女騎士──アランと小鳥遊そっくりな元天使──カナリアを見て、啓太郎は顳顬を押さえる。
「現実だよ、バカ」
俺は話した。
こうなった経緯を。
そして、背後にいる俺達そっくりの平行存在の彼等の事を。
俺が知っている範囲の事を全て教えた。
「なるほど。やはり、美鈴ちゃんの身体を狙うガイア神──いや、始祖ガイアが黒幕なのか。で、そこにいるのは平行世界の君達で、フクロウみたいな奴に呼ばれたと」
「大体そんな感じだ」
「ふむ、なるほど。つまり、君達は司達の2Pカラーという訳だ」
格ゲーをやった事がないのか、ジングウ達は首を傾げる。
「で、そっちの金髪の人は誰だ?彼に関しては見覚えがないが……」
暇そうに後ろの方で暇を潰していた赤光の魔導士を見ながら、啓太郎は疑問を呈する。
奴はつまらなそうに欠伸を浮かべると、投げやりな態度で答えた。
「こいつらの同類って事で納得しろ。そんな事よりも、松島啓太郎とやら、ここに自称作家を名乗るガキがいた筈だ。そいつはどこにいる?」
「君が言っている自称作家のガキとやらを見た覚えはない。そもそも僕がここに辿り着いたのも、ついさっきの話だ。恐らく僕と入れ違いになったんだろう」
「ちっ、大人しくしてろって言ったのに。クソ、面倒事が増えやがった」
髪の毛を雑に掻きながら、赤光の魔導士は悪態を吐く。
「で、どうする?赤光の魔導士。君が言っていた自称作家とやらはいないようだが」
「探すに決まっているだろ。お前ら、手伝え。あ、あと、神器とそこの一般人、お前らはこの建物から出るなよ。厄介事が増えるだけだから」
そう言って、赤光はこの場を後にする。
「……全く、あいつは言葉が足りな過ぎるな」
ジングウは頭を掻くと、溜息を吐きながら、俺達に指示を飛ばす。
「とりあえず、美鈴くんと松島啓太郎はここでアランと待機。ツカサとカナリアは適当に自称作家とやらを探しといてくれ」
「おい、ジングウ。また私がお守り役か?また貴様は私から闘う機会を奪うのか?」
不服そうにアランは眉間に皺を寄せる。
「だったら、変わってやっても良いぞ。ちょうど、俺も彼と話したいと思っていた所だしな」
再度、溜息を吐き出しつつ、彼は啓太郎の方を見る。
「よし、そうと決まれば、さっさと自称作家とやらを探しに行くぞ」
鎧をガッチャガッチャ言わせながら、アランは部屋から出て行く。
「待て待て、その自称作家とやらの正体をまだ聞き出せていないんだが。あんた、顔も名前も知らない奴をどうやって探すつもりだ?」
「勘だ」
「舐めてんのか」
四季咲とそっくりだけど、そっくりなのは顔だけで、頭の中は筋肉しか詰まっていなかった。
「まあ、そいつの勘も侮れないと思うわよ。そいつもなんだかんだ神域に至っている訳だし。多分、そいつの勘はあんたの眼と同じ効果を持っていると思うわよ」
今まで黙っていたカナリアが何処からか持ってきたビールを飲みながら、話しかける。
それを聞いて、俺は自分の眼──モノクロな視界を思い出す。
確かあれはガラスの竜や褐色の青年みたいな人の領域から逸脱したものは色がついていた。
自称作家とやらも人の領域から逸脱していたら、モノクロな視界を使うだけで苦もなく発見できるだろう。
アランの勘も俺の眼と同じ効果を持っている──人の領域を逸脱しているものを判別できるのなら、ヒントがなくても発見できるかもしれない。
「……"神域"に至る……?それは一体どういう意味だ?司はその神域とやらに至っているという事なのか?」
啓太郎は眉間に皺を寄せながら、カナリアに質問を投げかける。
彼女はビールを一気飲みすると、つまらなそうに彼の質問に答えた。
「言葉の通りよ、有象無象の凡人。神域に至るってのは、神の領域──つまり、人類の始祖とそれに連なる天使に匹敵する力を持つって事よ。てな訳で、私もジングウもアランも、そして、ツカサもその神域ってものに至っている訳」
啓太郎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、カナリアの話に耳を傾ける。
彼女はそれに気づいているのか、淡々とつまらなそうに説明を続けた。
「あんたも見た事あるんじゃないの?魔法や魔術の干渉を無効化する彼の姿を。違う地平を見つめる彼の眼を」
彼女の言葉により、ようやく理解する。
魔女騒動の時、魔女の価値を剥奪する魔法を無効化できた理由を。そして、あのモノクロなな視界は神域とやらに至った結果である事を。
「神域に至った人間の能力は個人によって違うけど、少なくとも始祖の力による干渉を無効化する力と相手の動きを予知する千里眼に似た力を持っているの。というか、最低限その2つを持っていないと、始祖や天使を殺す事なんか不可能な訳で」
魔女騒動の時の事を思い出す。
確かに魔女の魔法の干渉を無効化できないと太刀打ちできなかった。
人狼騒動の時の事を思い出す。
確かにモノクロな視界がなければ、ガラスの竜に太刀打ちできなかった。
「神域に至る方法は多種多様。と言っても、大半は魔法或いは魔術を極めるやり方──始祖の真似事で神域に至るんだけどね。偶にアランみたいに人体の限界まで鍛えた脳筋が至ったり、赤光みたいに始祖の一部を身体に取り込んだり、私みたいに生まれた時から特別な存在が至ったりするんだけど」
「おい。ナチュラルに私を馬鹿にするな、畜生風情が」
「ん……?じゃあ、お兄ちゃんはどうやって神域って奴に至ったの?アランさんと同じやり方で至ったんじゃない、……よね?」
疑問に思った事を反芻する事なく、美鈴は疑問を口にする。
「ええ、そうわよ。彼は私達と違うやり方──いや、ジングウと同じやり方で神域に……」
「お喋りが過ぎるぞ、カナリア」
今の今まで黙っていたジングウは唐突に口を開くと、彼女の言葉を遮る。
「それ以上の事は彼等に言うべきではない。彼等を不安にさせるだけだ」
「別に遅かれ早かれ知る事になるわよ」
「今はその時期じゃないという事だ」
「はいはい、分かったわよ。私もそこまでお節介焼きじゃない訳だし」
そういう訳だからと言って、カナリアは頭を掻くと、アランと共に部屋の外に出てしまう。
「お喋りはここでお終いだ。さっさと君も自称作家とやらを探しに行け。何かあったら狼煙を上げるように。すぐに駆けつける」
「いや、狼煙の上げ方分からねぇから」
無茶振りする彼に苦言を呈した後、俺は美桜と啓太郎に声を掛ける。
「んじゃあ、美鈴。ちょっと待っててくれ。すぐに自称作家とやらを見つけてくるから」
「……うん、お兄ちゃん、気をつけてね」
心配そうに見送る美鈴と苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる啓太郎に背を向ける。
そして、俺も先行した彼等と同じように部屋の外に出た。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いてくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方、新しく評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます、
本日から9万PV達成記念短編『4月31日(破)』を更新させて頂きます。
ただ今週いっぱいまで公募用の小説に注力するため、次の更新は来週の月曜日12時頃を予定しております。
続きを楽しみにしてくれている方、本当に申し訳ありません。
1週間以上のお休みを貰ったにも関わらず、またまた1週間お休みさせて頂きます。
来週から更新頻度を増やすので、最後までお付き合いしてくれると嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。




