4月31日(7)見覚えのある顔/見覚えのない姿の巻
美鈴を米俵のように担ぎながら、俺は人の形をしたバッタの大群から逃げる。
「ちょ、ちょ、ちょ、何アレ!?何アレ!!??」
俺の耳元で美鈴が騒ぐ所為で耳がキーンってなる。
「おいおい、先程よりも数が増えているのではないか!?」
四季咲と同じ顔をしている鎧武者──アランは、俺の右隣を並走しながら、驚きの声を発する。
「なるほど、……!通りで人がいない訳ね……!」
小鳥遊と同じ容姿をしている平行世界の神様──カナリアは俺の左隣を並走しながら、訳の分からない事を発する。
「だから、さっさとそいつを差し出せって言っただろ。今からでも遅くない。俺にそいつを渡せ」
赤光の魔導士は俺の背後を走りながら、溜息を吐き出す。
「この程度の苦境で弱音を吐くとは第二次世界大戦の英雄とやらも大した事はないな」
平行世界の俺──ジングウは俺の前を走りながら、赤光の魔導士に皮肉を飛ばす。
「修行がしたいなら1人でやってろ、被虐愛好者。そんなに自信があるのなら、お前1人でこの騒動を終わらせてみろ」
赤光の魔導士は彼の皮肉にカチンと来たのか、苛立ちを隠す事なく、悪態をつく。
「元よりそのつもりだ。小さい子どもを犠牲にしないと何もできない臆病者の手を借りるまでもない」
「はっ、口だけは一丁前だな」
「あの、俺を挟んで口喧嘩すんの止めてくれませんか?」
彼等のギズギズした雰囲気に耐え切れず、俺は思わず口を出してしまう。
「今、ピンチって事には変わりない。だから、仲良くしよう。人は対話できる素晴らしい生き物だ。拳を解いて対話しよう。暴力や暴言じゃ何も解決しないぞ、うん」
「なら、その対話とやらでこいつらを止めて来いよ、アホ面。──うおっと!?」
アホ面呼ばわりされたので、背後を走る赤光の魔導士目掛けて、飛び蹴りを放つ。
奴は寸前の所で俺の飛び蹴りを受け止めやがった。
「お、おい!?お前、さっきまで対話が云々言ってただろうが!?いいのか!?暴力を振るっていいのか!?」
「黙れ、この世で1番光魔法が似合わない陰湿男。お前みたいなのは言葉で教えるよりも、1回焼きを入れた方が効率的なんだよ」
「あん!?喧嘩売ってんのか、テメェ!」
「お兄ちゃん、今、そんな事をやっている場合じゃないと思うんだけど!?」
バチバチ睨み合う俺と赤光の魔導士に苦言を呈する美鈴。
「いや、お兄ちゃんにしか苦言を呈していないんだけど!?」
「ナチュラルに心を読むの止めてくれない?」
「考えている事を全部顔に出す君が悪い」
ジングウは足を止めると、露骨に溜息を吐き出す。
「ていうか、口喧嘩している暇あるなら、こいつらをどうにかしてよ!一斉に襲い掛かったら、数の暴力で負けるっての!!」
いつ襲い掛かってもおかしくないバッタの大群を睨みながら、カナリアはジングウと赤光の魔導士に怒声を飛ばす。
「それもそうだな。仕方ない、お前らと手を組んでやるか」
超上から目線の物言いで、赤光の魔導士は俺達に協力すると告げる。
「なら、俺とカナリアと赤光は殿を。ツカサとアランはその子を連れて、ここから退避。それでいいな?」
ジングウはどこからか双剣を取り出す。俺達も彼に釣られて、足を止めてしまった。
「待て、ジングウツカサ!?何故、私を戦力外通告した!?貴様らより私は劣るとでも言うのか!?」
ジングウの指示に不満を抱いているのか、アランは抗議の意を示す。
「適材適所という奴だ。君とツカサは私達と違って、守るための闘いを熟知している。君達なら確実にその子を安全な場所に逃す事ができるだろう」
"守るための闘い"という単語を強調した途端、彼は少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。
それを見た俺は彼がどんな人生を辿ってきたか大体察してしまった。
「行け、助けたい人がいるなら是が非でも助けろ。目の前で死なれるのはかなり堪えるからな」
彼の言葉に背中を押される形で、美鈴を抱えた俺はアランと共にこの場から離れる。
俺らの前に立ちはだかるバッタの怪人はジングウと赤光が放った矢によって、瞬く間に肉塊に変わってしまう。
俺はそれを美鈴に見せないように気をつけながら、全速力で戦場から抜け出す。
そして、俺達は特に相談する事なく、山の方に向かった。
山に向かう理由は至って単純。
そこが1番闘い易いからだ。
幼少期から山で遊んでいた俺にとって、山なんてものは公園のジャングルジムと変わらない。
あそこなら何百人相手だろうが、時間さえかければ勝つ事ができる筈だ。
だから、俺は桑原にある太刀山──以前、鳥女が野生に帰ったきっかけになった山──に向かう。
バッタ共を自分のテリトリーに引き入れるために。
「どうする?ツカサとやら。この大群相手にどう立ち回る?」
あっという間に山に辿り着いた俺達は、雪が降り積もった木々の間を駆け抜ける。
ジングウ達が引きつけているとはいえ、俺達の後を追うバッタ達の数は百を優に超えている。
「そりゃあ、美鈴を守りながら闘うしかないだ──」
強烈な殺意と敵意が赤雷と共に飛来する。
その気配も雷も1度経験したものだった。
美鈴を抱えたまま、俺は右の籠手で攻撃を受け流す。
音速の速さで飛んできた雷槍は瞬く間に爆ぜると、地面と共に俺達の身体を吹き飛ばす。
「きゃっ!」
甲高い悲鳴をあげる美鈴。
彼女を抱えた俺は細心の注意を払いながら、雪原に着地すると、雷槍が降って来た方を見る。
そこには見覚えのある/見覚えのない奴が浮いていた。
「"絶対善"……?」
空に浮かぶバッタの怪人の顔は"絶対善"とよく似ていた。
──それと同時に奴の身体から天使の気配を感じ取った。
ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、感想を書いて下さった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
皆様のお陰で、本作品のブクマ件数が280件(7月26日11時現在)になりました。
また、累計PVも17万超える事ができました。
この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
次の更新は水曜日12時頃に予定しております。
本作品は10万PV達成記念短編で一旦終わりますが、ブクマ200件記念中編や11万PV以降の達成記念も必ず執筆しますので、お付き合いよろしくお願い致します。




