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4月31日(5)平行世界の自称神様の巻

 元の世界では自室だった部屋に戻る。部屋の中は俺が知っているものではなかった。


上宮(うえみや)(つかさ)、……か」


 教科書に書かれていた知らない名前を読み上げながら、俺は教科書を放り投げる。

 どうやらこの世界の俺はこの部屋で寝起きしていないようだ。


「で、どうするの?お兄ちゃん?騒ぎが落ち着くまで、ここで待っているつもり?」


 遠くから聞こえてくる爆音を聞きつつ、ベッドの上で寝転びながら美鈴は俺に疑問を呈する。


「ああ。あいつらから何も聞き出せていないし」


「にしても、驚いたよ。まさか違う世界のお兄ちゃん達と会うなんて思っていなかったから」


「本当に良かったよ、あいつらが敵じゃなさそうで。あいつら、かなり強そうだし」


 違う世界の俺達を思い出しながら、俺は美鈴が寝ているベッドの上にダイブする。

 俺がベッドの上にダイブした途端、美鈴の身体は少しだけ跳ねた。

 

「私も初めてかも。お兄ちゃんが負けるかもって思ったのは」


 美鈴は上半身だけを起き上がらせると、電気の点いていない蛍光灯をぼんやり見つめ始める。


「あの人達は、多分、お兄ちゃんと同じ領域にいると思う。世界一の魔術師である"絶対善"でも踏み込めない領域に」


「ん?それってどういう意味だよ?」


「ほら、言ってたじゃん。お兄ちゃん達は神様を殺した事があるって。多分、お兄ちゃんと同じようにあの人達は神様を殺せるくらい強いんだと思う。だから、フクロウさんはこの世界にあの人達を呼んだんだと思うよ。この世界にいるであろう始祖(かみさま)を殺すために」


 先程ジングウが言った言葉の意味を美鈴はちゃんと理解していた。


「お兄ちゃんなら理解しているんじゃないの?ジングウさんが敢えて話さなかった憶測を」


「なんとなく。ただ情報が不足し過ぎているから、断言はできない」


 欠伸をしながら、俺は寝返りを打つ。


「俺が気になったいる点はたった1つ。あのピエロみたいな天使が俺に勝負を挑んできた理由だけだ」


 フクロウの話が本当なら、美鈴は何者かに狙われている。

 あのピエロみたいな天使の狙いが美鈴なら、直接俺に喧嘩を売らず、俺と逸れた美鈴を攫えば良かった筈だ。

 もしかしたら、あの天使の狙いは美鈴じゃないかもしれない。

 けど、あの天使は俺が褐色の青年と喧嘩している隙を狙って、美鈴を攫おうとしていた。

 だから、美鈴を攫おうとする可能性はある訳で。

 なら、何で美鈴を攫う事を優先せずに俺と喧嘩した?

 あの褐色の青年が美鈴を捕らえていたからか?

 彼を引っ張り出すために、俺に喧嘩を売ったのか?


(あー、幾ら考えても答えは出ねぇ)


 あの天使の目的さえ分かれば、全ての謎は解消される──ような気がする。

 

「まあ、今は啓太郎を探そう。今、考えても材料が足りな過ぎて答えは出ないだろうし」


「だいたいしょうち」


 お腹が減ってきたので、俺達は食堂に向かう。

 廊下を歩いていると、爆音の他に獣の鳴き声みたいなのが聞こえてきた。

 恐らく平行世界の俺達は獣と闘っているのだろう。

 寮周辺から敵意も殺意も感じなかった。

 多分、彼等が食い止めているから、敵がここまでやって来ないんだろう。

 食堂に辿り着く。

 食堂はいつもの賑わいが嘘みたいに静まり返っていた。

 厨房に行き、食糧になりそうなものを探す。

 カップラーメンしかなかった。

 備蓄していた水とカセットコンロを使って、お湯を沸かす。

 その間、俺達は食堂の中を探索する事にした。


「献立表から察するに、4月頭まではこの食堂使われていたみたいだな」


 週1で更新される献立表を見ながら、フクロウが提示した情報──4月4日に『神堕し』が成功した──がデマでない事を確信する。


「この世界の寮長さん達はどこに行ったんだろう?」


 美鈴はテーブルの上に乗った埃を人差し指で拭い取りながら、疑問を呈する。


「多分、安全な所じゃね?」


「安全な所ってどこ?」


「………………土星?」


「土星に安全なイメージないんだけど」


 そうこうしているカップラーメンが出来上がってしまった。

 俺と美鈴は無言でカップラーメンを食べ始める。

 美鈴は少しだけ表情を曇らせながら、ラーメンを啜る。

 見知らぬ世界──それも人類が滅んだ世界に迷い込んだんだ。

 そりゃあ、気持の1つ2つ暗くなるのも当然だ。

 だから、俺は気の利いた言葉で彼女を笑わせようとした。

 が、俺の低脳な頭では幾ら考えても、気の利いた言葉なんて思いつかず。

 結局、俺も無言でラーメンを啜る事しかできなかった。


「無理しなくても良いよ」


 美鈴は残ったラーメンの汁を飲み干しながら、俺に笑顔を向ける。


「無理に明るく振る舞おうとしなくても良いよ。私は大丈夫だから」


 逆に気の利いた言葉をかけられてしまった。

 

(やっぱ、俺、子どもだな……)


 自分よりも小さい女の子に慰められて、俺は少しだけ落ち込む。

 すると、背後から何者かの気配を感じ取った。


「2度目は引っかからないぞ」


 俺の頬を突こうとした人差し指を右手で受け止める。

 振り返ると、そこには小鳥遊似の少女が立っていた。


「ちぇ、やっぱ2度目は通用しないか」


「戻ってきたって事は、外の敵は全部やっつけたのか?」


「いや、まだ沢山残っているわよ」


 大雑把にテーブルの上に座る彼女を眺めながら、俺はラーメンの残り汁を飲み干す。


「なら、何で戻って来たんだ?」


「飽きたから。あんたと話した方が楽しそうだし」


 どうやら目の前にいる小鳥遊似の少女は、見た目だけ小鳥遊とそっくりなだけで、彼女のように喧嘩に対して強い拘りを持っていないらしい。


「そういや自己紹介が遅れたわね。私の名前はカナリア。ティトマト神話の最高神の娘で、こう見えて真実を司る神様なの。よろしくね」


「てぃと、まと……?」


 聞いた事のない神話だった。

 美鈴の方を見る。

 彼女も知らないようで、首を横に振っていた。


「"平行(ちがう)世界で語り継がれる神話の神様"っていう認識で良いわよ。もう1人のジングウツカサ」


「え、貴女、神様、なの……?」


 美鈴は怪しいものでも見るかのような目で自称神様を見る。


「厳密に言えば、第2始祖が生み出した天使の1柱だけどね。全知全能の神様でも全能の始祖(かみ)でもない神様気取りの人間モドキ──そういう認識でオッケーよ」


「天使、ねぇ……今まで喧嘩してきた天使と比べると、あんたは人間味あるというか俗っぽいというか……本当に天使なのか、あんた?」


 この1ヶ月間で遭遇した天使達を思い浮かべながら、俺はなんとなく呟く。


「こう見えて、私、1000年以上生きているからね。そりゃあ、1000年も人の中で過ごしていたら、人間臭くなるのも当然って話よ」


 酒瓶をどこからか取り出しながら、彼女はケラケラ笑い始める。


「あんたが喧嘩してきた天使も1000年生きていたら、私みたいになってたかもね」


 そう言って、彼女は酒瓶を開けると、それを一気に飲み干した。


「私の自己紹介はこれくらいにして、今度はあんた達の事を教えてよ。ほら、酒のつまみくらいはあげるからさ」


 何の前触れもなく、俺達の前にスナック菓子がどこからともなく現れる。


「俺達の事、って……あんた、さっき俺らの会話を盗み聞きしてただろ?あれ以上に話す内容なんてねぇぞ」


 先程、ジングウ達に話した内容をもう1度話したくないので、俺はやんわり彼女の申し出を断る。


「違う違う。私が知りたいのはあんたらの人間性。何が好きとか何が嫌いとか、そういった話を聞きたい訳」


「は?何でそんなのを知りたいんだ?」


「酒が美味しくなるからよ。ほら、さっさと話して。話すネタがないんだったら、好きなら女の子の話でもオッケーよ」


 いつの間にか取り出した缶ビールを片手に、彼女は俺にウザ絡みをする。

 酔っ払いに絡まれているみたいであまり気持ちの良いものではなかった。


「──ほう、面白そうだな。なら、俺も混ぜて貰おうか」


 聞き慣れない声が食堂内に響き渡る。

 食堂の出入り口を見ると、赤のコートを着込んだ金髪の青年が立っていた。


「な、何者……!?」


 突然音もなく現れた金髪の青年に美鈴は素性を尋ねる。

 彼を見た瞬間、今までヘラヘラ笑っていたカナリアは眉間に皺を寄せた。


「何であんたがここにいるのよ、"赤光の魔導士"……!」


「しゃ、赤光……!?」


 金髪の青年の2つ名らしきものを聞いた瞬間、美鈴は目を大きく見開く。


「美鈴、知っているのか?」


「し、知っているよ!魔法使いや魔術師なら1度は耳にした事があるくらい有名な人だよ……!だって、あの人は……!!」


 金髪の青年が音もなく消える。 

 それと同時に俺の隣にいたカナリアも音もなく消えた。

 食堂内に金属同士が衝突する音が唐突に鳴り響く。

 いつの間にか金髪の男とカナリアが鍔迫り合いをしていた。


「で、あんたは何しにここに来た訳?」


 どこから取り出したのか分からない鉤爪で青年の双剣を受け止めながら、カナリアは疑問を呈する。


「まどろっこしい真似は嫌いだからな。手っ取り早く、この騒動を収めるために神器を奪いに来た」


「へえ……!そう、なの……!」


 彼等は鍔迫り合いを止めると、目にも映らない速さで攻防を始める。

 俺は彼等の闘いに巻き込まれないように美鈴を抱えると、外に向かって駆け出した。


「お兄ちゃん、気をつけて……!あの人が本物の赤光の魔導士なら、かなり手強いよ……!」


「……顔見知り、なのか?」


「顔見知りなんかじゃない。けど、名前だけは知っている。あの人は……!」


 顔を青褪めながら、彼女は彼の正体を口にする。

 彼女が口に出した事実は、俺にとって荒唐無稽なものだった。


「あの人は、第二次世界大戦を終結に導いた英雄……!神代の時代の英雄達に匹敵するとまで言われた大魔導士なんだよ……!」


 ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に厚くお礼を申し上げます。

 

 次の更新は明後日金曜日の12時頃に予定しております。

 これからもお付き合いよろしくお願い致します。

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