?月?日(2) VS褐色の青年の巻
一息で間合いを詰めた俺達は、相手に拳打を浴びせようとする。
相手の先の先の先を読み、数多のフェイントを入れ、相手の裏の裏の裏を突いた連撃を披露するが、褐色の青年は俺の攻撃を難なく防ぐ。
青年は俺の動きを読み、数多の罠を張り、俺の裏の裏の裏の裏を突こうとする。
それを全て読み切った俺は、両腕と両足を使って、それを全て受け流した。
奴の大振りの蹴り──牽制の意味を込めた一撃──をバク宙で避けた俺は、奴の間合いから抜け出す。
僅か数秒の攻防。
それだけで俺達は悟った。
敵が自分と同じくらいの力量を持ち合わせている事を。
決着が着くのにかなりの時間──数日、数ヶ月単位で闘い続けてやっと白黒つくかもしれない──がかかる事を。
(──ならば、この均衡を崩すまで)
ガラスの竜との闘いで身につけた『モノクロな世界』と『超身体能力』を行使する。
極光に包まれた空間は一瞬で白と黒を基調にしたものに変貌した。
必要な箇所に必要な分の力を注ぎ込む事で、俺の身体は人間の限界を超える。
奴の攻撃を全て見切るため、そして、奴の弱点を把握するため、視界に奴の身体を映し出す。
「────っ」
全てモノクロになった世界の中で、奴の姿だけは色を保っていた。
加えて、奴の弱点を知らせる青い斑点は一切見えない。
奴が俺と同じ領域に至っている事に気づかされる。
「やっと気づいたか」
褐色の青年の目の色が文字通り変わった。
奴の瞳が赤から青空を想起させるような青い瞳に変貌する。
それを見て、奴と俺が視ている世界は同じである事を理解させられた。
「1つだけ言っておく──"それ"は止めといた方が良いぞ。今のお前の身体ではそれを使いこなせ──」
思いっきり地面を蹴り上げた俺は、人間を超えた速さで奴との間合いを一瞬で詰める。
そして、全力の掌底打ちを放った。
奴はそれを呆気なく受け流すと、俺の身体を上空に放り投げる。
俺は固形化した極光の上に飛び乗ると、人外染みた脚力で足場を蹴り上げた。
その所為で、極光は粉々に砕ける。
俺は超スピードで異空間の中を縦横無尽に駆け回った。
側から見たら、今の俺は目にさえ映らないだろう。
音速に限りなく近い速さで奴を翻弄させようとする。
「無駄だ。幾ら人外級の速さであっても、瞬間移動したとしても──」
奴の額に青い斑点が生じた。
俺はそれを殴るために、最短距離を瞬く間に駆け抜けると、拳を思いっきり振りかぶる。
「──敢えて隙さえ作れば、お前を特定する事ができる」
奴の罠にまんまと引っかかった俺は、間一髪の所で、奴の全力の一撃を両腕で受け止める事に成功した。
「なっ……!?」
奴の一撃を受け止めた俺の身体は、呆気なく遥か後方に吹き飛んでしまう。
「力任せに相手を倒そうとするから、攻撃が単調になるし隙も生まれる」
遥か後方にあった極光の塊に減り込んだ俺は、褐色の青年を睨みつける。
奴は涼しい顔をしながら、さっきの俺の動きを批評していた。
「さっきの動きは一体なんだ?速いだけで無駄だらけだ。まだ肉体を強化する前の方が強かった。それに、さっきの一撃も何故フェイント入れなかった?フェイントさえ入れていたら擦り傷くらいは負わせていた筈だ」
数時間前に吐いた言葉がそのまま俺に返って来る。
どうやら小鳥遊に説教できる程、俺もできた人間じゃないらしい。
身体を動かす。
その途端、身体全体に筋肉痛に似た痛みが走った。
超身体能力の反動だ。
無理に動かした所為で、身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
「言った筈だ。超身体能力は使わない方が良いと。お前の超身体能力は強引に身体のリミッターを解除しただけ。それが通用するのは一流までだ。超一流には通用しない」
くしゅんという声がどこからか聞こえる。
が、それさえ気にならないくらい、俺は超身体能力を使った反動に苛まれていた。
──だが、闘えない程ではない。
右の拳を握り締めた俺は、固形化した極光に減り込んだ身体を解放すると、再び戦闘態勢に入る。
反動により重くなった身体に鞭を打ちながら、俺は目の前の敵を睨みつける。
「そうこなくては面白──」
青年の言葉は突如生じた爆音によって掻き消される。
俺達の視線は音源の方に吸い寄せられた。
──それと同時に俺の前に美鈴を抱えたフクロウの獣人が現れる。
「すみません、神宮さん。その子の近くにいた青年を助ける事はできませんでした」
俺に気絶した美鈴を渡したフクロウは、日本刀を構え直すと、爆音の方に視線を向ける。
そこには先程俺が逃したピエロみたいな要望をした天使が立っていた。
天使の近くにある亀裂は、ブラックホールみたいに周囲にあるものを吸い込み続ける。
「彼はあの中に吸い込まれてしまいました。恐らく奴等の本拠地である平行世界と繋がっているのでしょう」
「……あんた、何者だ?」
「だが、安心してください。あの天使の狙いはこの女の子。あの天使は神器以外には興味がないので、あの青年は平行世界に漂着したんと思います。多分、命に別状はないでしょう」
「おい、俺の話を聞いているのか?」
「とりあえず、貴方はこの子を守りつつ、あの青年を助けに向かいなさい。くれぐれもこの女の子をあの天使達に渡さないでください。もし渡してしまったら、貴方の世界だけじゃなく、他の平行世界も滅んでしまいますから」
「おい、話を勝手に進めるな。何1つついていけていないから。何であの天使が美鈴を確保したら、世界が滅ぶ状況に陥……」
「亀裂を開けました。早くその亀裂の中に入ってください。彼等の相手は私が務めますので」
「俺の話を聞いてくださります?」
フクロウの獣人は有無を言わせぬ勢いで、言いたい事だけを言う。
俺の話に聞く耳を持とうとしなかった。
「逃がすとでも?」
褐色の青年は乱入して来たフクロウの獣人を睨みつける。
「不服があるなら、いつでもどうぞ。──貴方如きに遅れを取る程、私は弱くありませんから」
褐色の青年と天使がほぼ同時に、フクロウの獣人に襲いかかる。
フクロウは青年と天使の同時攻撃を捌きながら、彼等に剣打を浴びせた。
フクロウが刀を振るう度、天使と青年は追い込まれていく。
……先程まで俺を圧倒していた青年が遊ばれているのを見て、俺は複雑な気持ちに陥ってしまった。
徐々に擦り傷ではあるが、着実に傷を貰う青年を眺めながら、俺は自分が井の中の蛙である事を痛感す──いや、あの程度の斬撃、俺ならもっと上手く躱す事ができるぞ。
何やってんだ、あの褐色。
隣で攻撃している天使が邪魔で劣勢になっているのか?
それとも、先程の俺と同じように、さっさと勝負を決めようとして墓穴掘っているのか?
「早く逃げてください。じゃないと、"奴"が現れます」
フクロウのは俺に逃げるよう促した。
ここにいても状況は進展しない。
フクロウの話が本当なら、むしろ悪化してしまうだろう。
なら、早く美鈴を安全な場所に連れて行く方が合理的だ。
亀裂の中に吸い込まれた啓太郎を助けに行った方が効率的だ。
深呼吸する事で冷静さを取り戻す。
俺は美鈴を肩に担ぐと、フクロウが開けてくれた亀裂の中に飛び込んだ。
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次の更新は7月12日(月)12時頃に予定しております。
あと、今回の話の裏話に関しては、Twitter(@norito8989)の方で呟くと思うので、もしよろしければ覗いてください。
これからもお付き合いよろしくお願い致します。




