4月30日(1)VS天使ガブリエル+褐色の青年の巻*8万PV達成記念短編
4月30日──図書館記念日とか国際ジャズ・デーとか誰かにとって特別な日であるが、俺にとってただの平日でしかないある日の夜。
俺──神宮司は桑原神社で天使と殴り合っていた。
「うおりゃあ!!」
右腕に纏わりついた籠手──あらゆる魔を払い除けるアイギスで天使の顔面を殴りつける。
ピエロみたいな風貌をした天使は、俺の拳を顔面に叩き込まれると、境内の上を勢い良く転がった。
「言っただろ、あんたじゃ俺には勝てないって」
悔しそうな表情を浮かべる天使にいつもの決め台詞を言いながら、俺は右腕に纏わりついていた籠手を変形させる。
右の籠手は一瞬で白を基調にした脛当てへと変形すると、俺の右足に纏わりついた。
「いくぜ、これでフィニッシュだ」
右足に纏わりついたアイギスが白雷を放出する。
白雷を放出したまま、俺は天使に向かって駆け出す。
そして、前宙しながら、飛び蹴りを放とうとした瞬間、想定外の事が起きた。
「──っ!?」
飛び蹴りを放とうとした俺と天使との間に褐色の男が割り込む。
彼は俺の飛び蹴りを右腕で受け止めると、そのまま俺を後方に吹き飛ばした。
想定外の事に対処できず、俺は境内の上をみっともなく転がる。
褐色の青年は俺に追撃を与える事なく、体勢を整える俺をただ眺め続けた。
(俺の蹴り……しかも、白雷を纏った一撃を受けたってのに、無傷かよ……!?)
アイギスから放たれる白雷は魔力に作用する。
魔力を持っている者ならば、白雷を浴びれば、必ずダメージを負う筈なのだ。
にも関わらず、褐色の青年は白雷を浴びたというのに、涼しい顔をしていた。
(もしかして、あいつ、魔力を持っていないのか──!?)
褐色の青年は俺の出方を伺っているのか、ピクリとも動かない。
どこにも隙が見当たらなかった。
本能が警告する。
"先に動けば敗北する"と。
"無傷で勝つのは諦めろ"と。
(……これは相当厄介だな)
息を短く吐き出しながら、目の前の敵を警戒する。
その時、褐色の青年の背後にいた天使が動いた。
奴は文字通り空間に亀裂を作ると、亀裂の中に逃げ込んでしまう。
「──待てっ!」
俺は声を発する事で天使を止めようとした。
が、天使は聞く耳を持つ事なく、この場から撤退した。
「ようやく邪魔者がいなくなったか」
そう言って、奴は懐から2本の試験管を取り出す。
その中を見た途端、俺は目を見開いた。
試験管の中──そこには、豆粒並みに小さくなった美鈴と啓太郎が入っていたのだ。
「てめぇ!!」
人質を取られて冷静さを失った──振りをした俺は、無防備に突っ込む演技をする。
「無駄な演技を止めろ」
奴はつまらなそうに溜息を吐き出すと、指を鳴らす。
反射的に俺は右足に纏わりついたアイギスで奴の攻撃──恐らく魔法か魔術による攻撃と思われる──を弾こうとした。
しかし、奴の攻撃は白雷に掻き消される事なく、俺の腹部に叩きつけられる。
それを喰らった瞬間、俺は理解した。
奴は指を鳴らしただけで空気の塊を俺の身体に叩きつけた事を。
今さっきの攻撃は魔法や魔術ではない事を。
あの攻撃を単純な力技でやってのけた事を。
「ぐが……!?」
読み間違えた。
またもや俺の身体は境内の上を転がる。
「なるほど。人質を取ったくらいでは効果ないらしい」
褐色の青年は試験管の栓を開けると、中から気絶した啓太郎と美鈴を取り出した。
試験管の中から出て来た途端、彼らは元の大きさに戻る。
「な、何をして……!」
「邪魔だから解放しただけだ。今のお前はこいつらを助ける事を第一に考えている。そんなお前と闘いたくない。俺は本気のお前と闘いたいと思っている」
褐色の青年は無感情に呟く。
「場所を移すぞ。着いて来い」
そう言って、褐色の青年は亀裂の中に入っていく。
俺は彼の後に続く──事なく、気絶した美鈴と啓太郎を抱えると、この場から撤退しようとした。
多分、王道少年漫画の主人公だったら、気絶した美鈴や啓太郎の心配をしつつ、渋々ながら亀裂の中に飛び込むだろう。
そして、あの褐色の青年と死闘を繰り広げるだろう。
だがしかし、俺は王道少年漫画主人公よりもエロゲとかエロ漫画の主人公になりたい男。
そんな非効率的で面倒臭い王道を選ぶ訳がない。
(逃げた天使が気になるけど、とりあえず、こいつらを安全な所に……)
いつ奴が俺の撤退に気づくか分からない。
さっさと安全な所に美鈴と啓太郎を運ばなければ。
全速力で美鈴と啓太郎を桑原交番に連れて行こうとする。
その瞬間、足下に亀裂が走った。
「どこに行こうとしている」
褐色の青年の声が鳴り響いた途端、足下の空間が崩れ落ちる。
即座に理解した。
奴がただの手刀だけで天使が開けた亀裂を広げた事を。
(いやいや、そんな事できるのかよ──!?)
やる事なす事、何もかも規格外。
異空間の中に落ちていく身体。
見上げた夜空が徐々に遠退いていく。
咄嗟の判断で籠手を右腕に装着すると、地上目掛けて、右の籠手を伸ばそうと試みた。
が、しかし、その企みは褐色の青年によって潰される。
彼は指を鳴らすだけで俺の籠手を破壊すると、俺達を穴の底に誘った。
この結果は俺の油断でも俺の実力不足でもない。
ただ、奴の方が俺よりも上手だっただけの話。
(くそ……!)
自分よりも上の存在を前にして、俺は心の中で毒吐く事しかできなかった。
ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
お久しぶりです。
本日から不定期ではありますが、8〜10万PV達成記念短編を投稿していきます。
8〜10万PV達成記念短編は本編の後日談兼「価値あるものに花束を」のグランドフィナーレを飾る物語、加えて、現在毎週水曜日に連載している爆破令嬢(略)の前日譚になっております。
本当は7月以内に終わらせる予定でしたが、公募用の小説と爆破令嬢の執筆に集中している関係で、早くて8月中旬、遅くて9月初旬に8〜10万PV達成記念短編は完結すると思います。
まだブクマ200件記念短編や10〜15万PV達成記念短編が残っていますが、本作品をキチッと終わらせるつもりなので、もう暫くお付き合いしてくれると嬉しいです。
よろしくお願い致します。
次の更新は7月7日(水)12時頃に予定しております。




