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4月29日(7) VS変態さん再びの巻*7万PV達成記念短編

 プールの上に浮いている死屍累々から目を背けながら、俺は啓太郎の処女を狙う変態さんと向かい合う。


「ふっ、やっとやる気になったようね」


 変態さんは啓太郎を手放すと、俺に敵意を飛ばし始めた。

 ラッコのように浮いている鎌娘 (全裸)を視界に入れないように努めながら、俺は重く長い溜息を吐き出す。


「とりあえず、面倒だから、ちゃっちゃと決めるぞ」


 海やプールの監視員(ライフセイバーさん)達がよく座っている監視台を持ち上げた俺は、それを変態さん目掛けて投げつけようとする。


「ちょ、それはないんじゃない!?」


「うるせえ、こちとらテンション上がらねぇんだよ」


 誰かが命の危機に瀕している訳でもなければ、苦しんでいる人達もいない。

 加えて、俺が暴力を振るう理由はあっても暴力を振るうメリットは皆無なので、そりゃあ、テンション上がらないのである。

 何よりこれ以上水場にいるのが嫌だ。

 下手したら溺れるかもしれないし。


「んじゃあ、どんどん投げ込むから、頑張って避けろよなー」


 やる気なさそうに呟きながら、とりあえず自分の身の丈を優に超える監視台を投げようとする。


「ちょ、あの時は私と楽しく殴り合ったじゃない!?何で今回はそんな雑な決着の着け方をするの!?もっと殴り合いましょう!?」


「うるせぇ、さっさと陸に上がって来い。話はそれからだ」


 持ち上げていた監視台──意外と重い──を地面に置きながら、俺は溜息を吐き出す。


「……もしかして、貴方、泳げないのかしら?」


「は?んな訳ねーから。泳げない訳ないから。あんた、馬鹿なのか?俺は敢えて水に入らないだけで本当は泳げるんですけど」


「なるほど、泳げないのね」


 めちゃくちゃ早口で言い訳した所為で泳げない事が看破されてしまった。

 変態さんの不敵な笑みの所為で、額に嫌な汗が流れる。

 

「──なら、貴方をここに引き摺り込んだら自動的に私の勝ちって事ね。いいね、分かりやすくて私好みだわ」


「帰る」


 弱点を突く気満々だったので、帰る事にした。

 

「おっと、あんたの連れの処女を奪うわよ」


 全裸になった状態でぷかぷか浮いている啓太郎と鎌娘を横目で見ながら、変態さんは俺を脅す。


「良いよ、別に。処女じゃなくても人は生きていけるから」


「じゃあ、この警官さんを女で勃てない身体にしてあげる」


「どうぞどうぞ」


「あんたが連れていた初心そうな女の子と子ども達の前でね!」


 全力で監視台を投げつけた。


「うおっと!?」


 変態さんは間一髪の所で監視台を避ける。

 プールの中に落ちた監視台は、ちょっとした水柱を上げながら、水底に沈んでしまった。


「啓太郎達はどうなってもいい。けど、性知識を殆ど持ち合わせていないあいつらには手を出すな。ガチで洒落にならないから」


 啓太郎は強い人間だ。

 男でしか勃てない身体になってしまっても、それなりに生きていくだろう。

 けど、美鈴達はダメだ。

 間違いなく性癖が歪んでしまう。

 啓太郎の処女喪失を見せられた結果、道を踏み外してしまうかもしれない。

 ……それだけは、避けなければ。


「ふっ、だったら、こっちに来なさいよ。じゃないと、あの子達に一生もののトラウマを見せつけ……」


 ビート板が収められている整理棚を持ち上げた俺は、それを変態さん目掛けて投げつける。

 水中であるにも関わらず、変態は投げつけられた整理棚を俊敏な動きで避けてしまった。

 プールの水面は整理棚を腹に入れた事で、大いに揺れる。

 今度はプールとかでよく見るヌルヌルしたベンチを持ち上げ──



「神宮っ!人払いの魔術を行使した!!思いっきりやれ!!」


 空気を読む事なく、プール内に入ってくる水着姿の四季咲。

 そして、彼女の後に続く美鈴・小鳥遊弟・美波。

 ネギが鴨を背負って来るとはこういう事か。

 四季咲達の余計なお節介の所為で、最悪の状況が生まれる条件が揃ってしまう。


「ははっ!鴨がネギを背負って来たわ!!」


 全裸の啓太郎の手を取る変態さん。

 俺は即座に右の籠手を装着すると、装着した籠手を変形させた。


「──んなっ!?」


 変態さんの間抜けな声が辺り一面に響き渡る。

 俺は右の籠手を伸ばすと、伸ばしたそれを変態さんの身体に巻きつけた。


「…………四季咲、今すぐ更衣室に戻ってくれ、そいつらを連れて」


 四季咲はバツの悪そうな表情で頷くと、美鈴達を連れて更衣室に戻っていく。

 彼女達が立ち去った事を確認後、俺は釣り上げた変態さんを陸に上げる。


「さ、終わらせるぞ」


 右の籠手を外しながら、俺は変態さんと向かい合う。

 籠手を外した途端、変態さんに巻きついていた右の籠手は瞬く間に消失してしまった。


「な、何なのそれ!?何もない所から籠手を召喚とかあり得なくない!!??」


「気にするな」


「気にするわよ!!なんなの!?元傭兵の私よりも強いわ、不思議な力を使うわ!!あんた、何者なのよ!?」


「ただの高校生だ」


「ただの高校生は傭兵帰りのオカマを倒したり、何もない所から籠手を召喚しないわよ!!??」


 変態さんのテンションが上がる度に俺のテンションは下落してしまう。

 ……何で俺は全裸の変態に暴力を振るわなければいけないのだろう。

 その理由を考えるだけで頭が痛くなる。


「隙だらけよっ!!」


 変態さんは大きなおっぱいと巨大逸物を揺らしながら、こちらに迫り来る。

 やっぱ男だろうが女だろうが慎みは必要だなと思いながら、俺は変態さんの拳打を受け流す。


「なあ、さっさと服を着て、ここから逃げろよ。今なら見逃してやるからさ」


 彼 (?)の無駄のない攻撃を片手で受け流しつつ、俺はなるべく穏便なやり方で事を済ませようと試みる。


「ふっ、逃がさない方が吉よ。もしあんたが私を逃すというなら、私はこの姿のまま、小中学校に突入して、青少年にトラウマを植え付けてやるわ!」


「何のために?」


「己の性欲を満たすために」


「清々しい程、屑だな、おい」


 変態さんを放置したら、罪なき子ども達に消えないトラウマ或いは特殊な性癖が植え付けられてしまう。

 少しだけやる気が出た。

 

「……大体承知。なら、俺もやる気になってやるよ」


 ガラスの竜と闘った時に会得した『モノクロな世界』を行使する。

 俺の視界に映るもの全ての色が、白と黒だけになってしまう。

 その瞬間、赤のスポットライトが俺の身体を照らし上げた。

 この赤の光に照らされた箇所目掛けて、変態さんの拳が振り下ろされる。

 俺はそれを難なく片手で受け止めた。

 ──宙空に浮かぶ青い光の斑点が俺に知らせる。

 "ここに攻撃を打ち込め"と。

 だから、俺はそれに従った。

 最低限かつ最小限の動きで繰り広げられる張り手。

 それにより、変態さんはあっさりと地面に背中をつけてしまった。


「──は?」


 変態さんの惚けた声が聞こえる。

 どうやら何をされたのか分からないらしい。

 訳が分からないまま、彼は起き上がろうとする。

 なので、俺は彼の額にテゴピンをお見舞いしてやった。


「へ……あ」


 たった、それだけで変態さんは気絶してしまった。


「……やっぱ、凄いな。この"モノクロな世界"」


 視界を元の状態に戻しながら、気絶した変態さんの顔色を伺う。

 とても健康的だった。

 寝息も規則正しく立てている。

 外傷はどこにも見当たらなかった。

 自身の身体の調子を確かめる。

 どこにも異常は見当たらなかった。

 強いて言えば、少し頭が痛いくらい。


(これで無駄に相手を痛めつける事をしなくて済むようになったけど……何かなぁ)


 以前、狼と人間のハーフである狼男と闘った時の高揚感を思い出す。

 できる限り、暴力は振るいたくない。 

 けど、あの時感じた高揚感をもう1度だけ味わいたい。

 

(……こんな事を願っているから、いつまで経っても子どもなままなんだよなぁ)

 

 溜息を吐き出しながら、俺は右の拳を緩める。

 理想と現実、理性と欲求。

 それらの要素は中途半端な俺の心を大いに掻き乱した。


 

 ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 明日の更新で7万PV達成記念短編はお終いです。

 8万PV達成記念短編「4月31日(序)」は7月上旬から更新するつもりです。

 随分前に7月から毎日更新していくと告知しましたが、爆破令嬢(略)の更新を優先し過ぎて、まだ毎日更新する余裕はありません。

 なので、今月のように一定期間だけ毎日更新という形で投稿していきます。

 具体的な日時は活動報告・Twitter(雑談垢:@norito8989・宣伝垢:@Yomogi89892)で告知致しますのでよろしくお願い致します。

 来月から更新する予定の「4月31日」は本作品のグランドフィナーレ兼現在毎週水曜日に更新中の爆破令嬢(略)に繋がる物語になる予定です。

 ……グランドフィナーレと言いつつ、ブクマ200件突破記念中編や11万PV以降の記念短編が残っているのでまだまだ続きますが、最後までお付き合いよろしくお願い致します。


 次の更新は明日の12時を予定しております。


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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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