4月29日(6) 『平行世界?』の巻*7万PV達成記念短編
「ねえ、お兄ちゃん達、平行世界って知っている?」
自動販売機でジュースを買った俺達は、プールの玄関辺りにあるベンチに座りながら、雑談に花を咲かせる。
「あー、SF映画とかでお馴染みのアレだろ。知ってる知ってる」
四季咲と小鳥遊弟と美波は馴染みがないのか、首を横に傾ける。
なので、簡単に説明する事にした。
「平行世界ってのは、簡単に言っちゃえば、"もしもの世界"の事だ。"もしあの時あの選択をしとけば"って事で生じる世界って言ったら分かりやすいか?」
「なるほど、つまり、"もしも"の数だけ存在すると考えられる別の世界を意味する言葉なのか」
四季咲が分かりやすく噛み砕いたお陰で、小鳥遊弟と美波が納得したような表情を浮かべる。
「で、その平行世界がどうしたんですか?」
「昨日、お姉ちゃんの部屋で平行世界をテーマにした小説を読んだの。だから、その面白さをみんなと分かち合おうと思って」
「あー、確かに面白いよな。平行世界をテーマにした物語。というか、もしもの話を考える事自体、面白いというか」
「あー、よくよく思い出せば僕もそういう漫画読んだ事あるかも。確かその漫画に出てくる世界3大宗教はガイア教・イシス教・仁教じゃなくて、キリスト教・イスラム教・仏教っていう架空の宗教だったような……」
「私も数年前にそういう設定の映画を観た事があるぞ。私の記憶が正しければ、その映画では2020年に世界規模のパンデミックが起きた平行世界を舞台にしていた」
「あー、あれだろ。一昨年くらいに公開されたB級映画。確か『コロナ』っていう映画だっけ?公開当時、"現実味がない"とか"こんな世界規模のパンデミックは医学的にあり得ない"とか叩かれていた」
「ああ、それだ。神宮も観ていたのか」
「俺の親父が映画好きでな。親父と一緒に観に行ったぞ、公開初日にな」
「あの、すみません、パンデミックとは何ですか?」
「あ、それ、私も知りたいかも」
「ああ、パンデミックってのは……」
ワイワイと盛り上がりながら、平行世界のお話で盛り上がる俺達。
すると、唐突に美波は俺にしか聞こえないくらい小さな声でこんな事を言い出した。
「もし、貴方がいなければ、ガイア神はどうなっていたんでしょうね」
彼女は俺を見ながら、缶ジュースを手で弄る。
「さあ?誰かが何とかしてたんじゃねぇの?」
「貴方がいなければ、この世界は滅びていたと思いますよ」
「そんな訳ないだろ。今回はたまたま俺だっただけで。俺がいなかったとしても、別の誰かが何とかしてくれるさ、…………多分」
金郷教騒動・魔女騒動・人狼騒動を思い出しながら、俺は言葉を濁す。
「そうでしょうか?私にはそう思えません」
「まあ、所詮"たられば"の話だ。幾ら話し合った所で、その答えを知る術はない。だって、もう選択し終えた後だからな」
もし人生がギャルゲーやエロゲーみたいにセーブ&ロード機能があれば、俺がいない"もしもの世界"を見る事ができただろう。
もう1つの終わりを見る事ができただろう。
だが、ここはゲームの世界じゃない。
現実だ。
あの時選択しなかった──もしもの可能性なんて知る事はできない。
だから、考えても無駄なのだ。
だって、幾ら考えた所で答えを知る事ができないから。
「それはそうですけど……」
釈然としない様子で美波は同意の言葉を口に出す。
すると、プールの方から啓太郎の叫び声が聞こえてきた。
「……お兄ちゃん、助けに行かなくて良いの?」
雑談を中断して、美鈴は俺に話しかける。
「大丈夫だって、魔法使える鎌娘もいるし」
続いて鎌娘の叫び声が聞こえて来る。
「ねえ、兄ちゃん。本当に大丈夫なの?」
「……大丈夫、他の人が何とかしてくれ……」
知らない男の人達の叫び声が聞こえてきた。
多分、このプールで働いている人達だと思う。
「……神宮、行ってこい。多分、君じゃないとどうしようもない案件だ」
「いや、逆に俺が首を突っ込んだらいけない案件だと思うんだけど」
俺だって無闇矢鱈に首を突っ込んでいる訳じゃない。
今回の件──あの変態さんの狙いは俺だ。
下手に首を突っ込んだら、無駄に騒ぎが大きくなる。
…………断じて、プールが怖いからとか溺れるのが嫌だから、拒否っている訳じゃないから。
「あ、啓太郎さん、お兄ちゃんに助けを求めているよ」
「僕の処女がどうのこうのって言ってますよ。……ん?啓太郎さんって男の人ですよね?処女はないのでは?」
「兄ちゃん、行った方が良いと思うよ。大の大人があんな風に助けを求めている時点で異常だよ」
「……仕方ない、私が行こう。魔術を使えば、あの変態くらい鎮圧でき……」
四季咲の頬は真っ赤に染まる。
多分、さっきの変態の全裸を思い出したのだろう。
彼女は少しだけ涙目になっていた。
「……………………………………………分かったよ、俺が行くよ」
断腸の思いで俺はもう1度プールに戻る事を決意する。
「こんな嫌そうなお兄ちゃんの顔、初めて見たかも」
「……………………………四季咲、こいつらを頼む。俺は、……その、……に行くから」
「どれだけプールに行きたくないんですか」
「兄ちゃん、姉ちゃん呼ぼうか?姉ちゃんなら、この状況何とか──」
「被害者が増えるだけだ」
四季咲同様、エロに対して一切免疫のない小鳥遊の召喚を拒む。
彼女が来た所で面倒事が1つ増えるだけだ。
重く長い溜息を吐き出しながら、俺はプールに向かう。
その足取りはかなり重いものだった。
あ、今の俺、一昔前に流行った"やれやれ"系主人公っぽい。
水着に着替えないまま、プールサイドに直行する俺。
プール内は地獄絵図と化していた。
水面に浮き上がる半ケツ状態の男達。
あれ?何かこの光景、どっかで見た事あるような。
プールの中を見る。
啓太郎は変態さんに服を剥がされようとしていた。
鎌娘はというと、啓太郎の名前を叫びながら、スマホで彼の痴態を撮ろうとしている。
流石に良くないと思ったので注意をした。
「おい、鎌娘。流石に啓太郎の痴態を撮るのは止めて差し上げろ。あいつ、自殺するぞ」
「大丈夫よ、ネットに流出させないから」
撮る気満々だったため、鎌娘の頭を叩き、録音を強引に中断させる。
「何すんのよ!?スマホ返しなさいよ!!」
「それよりも先にあいつをどうにかしろ。お前の魔法なら、あんな変態、チョチョイのチョイだろ?」
「はぁ!?こんな小羊が沢山いる所で魔法使う訳ないじゃない!!??あんた、バカ!?」
「あー、そういう設定だったな」
「というか、あんたが何とかしなさいよ!あんたの馬鹿力なら、チョチョイのチョイでしょ!!」
「あー、あいつがプールの中に出てくれたらな」
未だにプールの中にいる変態さんを見る。
彼 (?)は啓太郎が着ていたものを全て剥いでしまっていた。
早く助けないとヤバそうだ。
「とりあえず、鎌娘、人払いとやらをやってくれ。俺が何とかする……」
「──その必要はないわ、私が何とかするから」
威風堂々という言葉が似合う貫禄で鎌娘は自信あり気に胸を張る。
彼女の姿は今までにないくらい頼り甲斐のあるものだった。
今の彼女なら何でも任せ──
「目には目を、歯には歯を。──なら、全裸には全裸を、よ!!!!」
意気揚々と自身の水着を脱ぎ捨てる鎌娘。
「刮目せよ!変態野郎!!私も全裸になったから、これでイーブン──」
俺は躊躇う事なく彼女をプールの中に投げ飛ばした。
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