4月29日(3) お前も泳げないかいの巻*7万PV達成記念短編
「すまない、神宮。流石に沈めるのはやり過ぎだった」
3度溺死しかけた事で、俺はとうとう水恐怖症になってしまった。
「シャー!!!!」
「あ、ダメだ。お兄ちゃん、風呂を嫌がる柴犬みたいになってる」
「そういや、兄ちゃん、"絶対善"の時も溺死しかけたんだっけ」
「まさか貴方にこんな弱点があるとは思いもしませんでした」
プールサイドにあるベンチの裏に隠れながら、俺は大量の水を保有するプールを威嚇し続ける。
水場に近づく事さえできない身体になってしまった。
本当、どうしよう。
俺、今日、寮の風呂に入る事ができるのかしら?
「本当にすまない。ついカッとなって……」
「い、いや、俺も悪かった。照れ臭かったというか、何かオチをつけたかったというか……」
「次は裁判所で会おう」
「ごめんなさい、もう2度と胸に詰め物云々言わないんで勘弁してください」
四季咲の機嫌を取った所で閑話休題。
四季咲は泳げない美鈴・美波を連れて、プールの中に入った。
「小鳥遊弟、行かなくて良いのか?」
「いや、あんなに女の子だらけだと居場所がないというかなんというか……」
どうやら女の子に混ざって遊ぶ事に抵抗感を抱いているらしい。
「今の内に女心を学んでおいた方が良いぞ。じゃないとデリカシーのない発言をして、嘘を吐かれたり、高い所から突き落とされたり、逃げられたり、壁に叩きつけられたり、重傷を負った身体にプロレス技をかけられたり、後頭部を蹴られたり、デカい尻尾を叩きつけられたり、バットで叩き潰されそうになったり、上空から爆撃されたり、炎の鞭で焼き殺されそうになったり、腹を刺されたり、プロレス技をかけられた挙句窓の外に放り投げられたり、全裸の暗殺拳収めし者に襲われたり、同級生に殺されかけたり、落とし穴に嵌められて生き埋めされたけたり、窓から放り投げられたり、木に吊るされたり、炙られたり、土管にハマった友人の尻拭いさせられたり、プールに沈められたり、メンコバトルに巻き込まれたりするぞ」
あれ?何か途中、未来が視えたような?
メンコバトルに巻き込まれる事はまだ経験してないんだけど。
「女心を学ばないとそんな悲惨な目に遭うの?」
「ああ。だから、精一杯学んで来い。俺はここから見守って──」
「神宮、もしよければ、彼女達と一緒に泳ぎ方を学ばないか?一緒に教えるぞ」
首を横に振り、四季咲の申し出を全力で断る。
「いや、でも、気まずいものは気まずいよ。学ぶ事は必要だけど、今の僕じゃ正確に学べないというか……だから、その兄ちゃん、一緒について来てくれない?」
だが、逃げ道は小鳥遊弟に塞がれてしまった。
ここで"うるせぇ!1人で行って来い!"って言うのは簡単だ。
けれど、それは立派な大人がやる事ではない。
ならば、俺が取る方法は1つ。
「……仕方ない。行くぞ、小鳥遊弟」
13階段を登るような感覚で、俺はプールの中にいる四季咲の下に向かう。
プールの中に足を突っ込む。
冷たい水の感触を感じると共に、息苦しさを感じた。
幼い頃の記憶、そして、"絶対善"と闘った時に溺死しかけた記憶を思い出す。
俺はそれらのトラウマを振り払うように首を横に振ると、勢いのまま、プールの中に突入した。
小学生が泳ぐ事を目的にした深さであったため、高校生──それも平均身長を優に上回っている俺にとって、屁でもない深さだった。
うん、これなら溺れる心配はない。
「じ、神宮……大丈夫か?」
「はっ!大丈夫に決まってるだろ、心配し過……」
四季咲達の方に向かって歩き出そうとした瞬間、俺は足を滑らせてしまった。
プールの底がヌルヌルしていたのだ。
「もががががが……」
「神宮ううううううう!!!!」
口の中に水が入って来る。
それを飲み込んだ途端、息ができなくなった。
慌てて立ち上がろうと、手足を動かす。
だが、もがけばもがく程、俺の身体はプールの底に沈んでしまった。
反射的に身体が体内に入った水を吐き出そうとする。
その所為でまたもや水を飲み込んでしまう。
やばい、このままじゃガチで溺死して──
「ぶぱあ!?」
死を覚悟した瞬間、俺の顔だけ水中から解放された。
「大丈夫か、神宮!?」
どうやら俺はまたもや四季咲に助けられたらしい。
ごめん、四季咲。
人狼騒動の時に頼りないとか思ったりして。
土管にハマった時、"こいつに命を救われるのは末代までの恥なのでは?"とか思ったりして。
お前がいなかったら、俺、間違いなく溺死しているよ。
「さ、サンキュー、四季ざ……げぼ」
体内に入った水を吐き出しながら、俺は彼女に感謝の言葉を告げる。
「な、なんでこんなに浅いのに溺死しかけているんですか、この人は……!?」
「どんだけ泳ぐの苦手なの……!?」
「美鈴ちゃん、美波ちゃん、人は僅か30センチの水深でも溺死する事がある。だから、水の中にいる時は常に気をつけてくれ」
水の怖さを美鈴達に教える四季咲の右腕に俺は全力でしがみついた。
また下手に歩いて溺死しかけるくらいなら、恥も外聞も掻き捨てて彼女にしがみついた方が遥かにマシだ。
「あ、あの、神宮。そんなにくっつかれたら、動き辛いというか……」
「ごめん、四季咲。俺、お前から離れる事ができない」
彼女の右腕にしがみつきながら、俺は小刻みに震える。
「と、とりあえず、兄ちゃんを陸に上げようよ。このままじゃ、また溺れると思うし」
「え、……あ、ああ、そうだな、うん。ずっと、このままじゃいけないよな、うん」
小鳥遊弟と四季咲が何か会話しているが、水への恐怖心が優って、上手く聞き取れる事ができなかった、
多分、俺が思っているよりも"絶対善"の時に溺死しかけた時の記憶が根深く残っているのだろう。
……気合や根性で克服出来る程、容易いものではなさそうだった。
「じ、神宮。移動するぞ。慌てず、しっかり私にしがみついてくれ」
四季はどこか緊張した様子で、俺に話しかけると、ゆっくり歩き始める。
俺は足を滑らせないように、彼女の右腕にしがみつくと、ゆっくりプールサイドに向かって歩き出した。
……その時だった。
聞き覚えのある声が俺達の鼓膜を揺らしたのは。
「ハッハッハッ!!無様ねぇ、う○こ男!陸の上では、あんだけ強いのに泳げないのって惨めじゃない!!??」
「……げ、鎌娘」
プールサイドの方から俺に声を掛けたのは鎌娘だった。
花柄フリルビキニを着た彼女は、得意げに高笑いすると、四季咲にしがみついた俺を馬鹿にする。
「土管尻だけ女にしがみついて恥ずかしくない訳!?私ならそれやるくらいなら即座に自害するわ!!」
「ねぇ、兄ちゃん。あの人は誰?」
「ただのバカだよ」
「……何で32番がここにいるんですか?」
「しっ、美波ちゃん。鎌娘さんはなるべく無視した方が良いよ。あの人、相変わらずアホだから」
「え、あのアホ、外の世界に出ても治らなかったんですか」
「おい、そこのう○こ男に元神器に金魚の糞女!バッチリ悪口聞こえてるわよ!!」
「金魚の糞女!?それって私の事ですか!?」
「え、あんた、教主にベッタリだったじゃない」
「そ、それはそういう命令だったからで……!私、個人的にあの人、大嫌いなんです!!」
「奇遇だね、美波ちゃん。私もあの人、大っっっっ嫌い。キマイラ津奈木さんの次くらいに」
「……まあ、貴女はあの人達に酷い目に遭わされましたからね」
「美波ちゃんは嫌いじゃないよ、私も美波ちゃんの立場なら同じ事をやっていただろうし。……けど、私が教主やキマイラ津奈木さんの立場なら、あんな事、絶対にやらないけど」
「本当、前教主がいなくなった時、強く反対しておけば良かったです。もし反対しておけば、私達はもっと早く解放されていたかもしれませんし……」
教主様の悪口で盛り上がり始める美鈴と美波。
金郷教騒動を知らない四季咲と小鳥遊弟は、悪口を言い合う彼女達を戸惑った様子で眺め続けた。
「無視すんな!!!!」
「いや、馬鹿にしているだけだ」
「馬鹿にもするな!!!!」
大声を出す事で俺達の注目を集めようとする鎌娘。
美鈴と美波は鎌娘の方に視線を向ける事なく、金郷教時代の愚痴で盛り上がっていた。
蚊帳の外である俺と四季咲と小鳥遊弟は、鎌娘の方を向く。
「うるせぇ、お前が馬鹿なのは事実だろ。なあ、四季咲」
「神宮、私を巻き込まないでくれ。先日、彼女とは距離を取ると固く誓ったばかりなのだ」
「距離を取るだけじゃ足りないと思うぞ。ああいう馬鹿は構って貰うまで馬鹿やるタイプだから」
「馬鹿馬鹿言ってんじゃないわよ!う○こ男!陸の上じゃ、私はあんたに勝てないだろうけど、水中なら私が圧倒できるのよ!格の違いを思い知りなさい!!」
「というか、お前、泳げるのか?」
泳げない元金郷教2名を見ながら、俺は首を傾げる。
「泳げないんだったら、泳ぐ練習しておいた方が良いぞ。溺れるの、ガチで苦しいから」
「練習なんか必要ないわ!だって、私は天才……がぼぼぼぼぼ」
予想通り、鎌娘は水に呑まれてしまった。
俺は合掌した。
鎌娘、強く生きろ。
「私、ボーイじゃないって、もがかがが……」
「ナチュラルに心読むんじゃねぇよ」
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次の更新は明日の12時頃を予定しております。
これからもお付き合いよろしくお願い致します。




