4月30日(6)神宮司と小鳥遊神奈子 *6万PV達成記念短編
15時半過ぎ。
俺と四季咲と小鳥遊は通報を受けて駆けつけた雫さん──桑原のお巡りさん。ちなみに元ヤン──に怒られていた。
「あの、雫さん。何で俺まで怒られているんですか?」
「お前が止めなかったからに決まっているだろ」
とばっちりだった。
四季咲と小鳥遊を見る。
彼女達も冷静さを取り戻したのか、バツの悪そうな顔をしていた。
「まあ、司はともかく、初犯の四季咲と小鳥遊はここまでにしておこう。初犯の四季咲と小鳥遊はともかく」
「何で2回言ったんですか。何で俺を見ながら言うんですか」
「じゃあ、もう喧嘩するなよ。喧嘩したら私がボコしに行くから」
そう言って、雫さんはパトロールに戻ろうとする。
「あ、そうだ。司、お前、最近金郷教教主と会ったか?」
「ん?教主様?あれ以降、1度も会ってないけど……あいつがどうしたんですか?」
「……いや。あいつの今を知りたかっただけだ。じゃあな」
それだけを言うと、雫さんは早足でその場から立ち去ってしまった。
(そういや、あいつ、どうしてんだろ)
"挑戦してみる"とだけ残した教主様の今を想像してみる。
が、情報が少な過ぎてよそうすることができそうになかった。
「さて、そろそろ学校に戻るか」
四季咲は砂埃がついたスカートを払いながら、学校に戻る事を宣言する。
「は?あんた、逃げる気?」
「先程、警察の方に釘を刺されたばかりだしな。それに生徒会の雑事もある。逃げが敗北というなら、今回はそれを潔く受け入れよう。『今回はな』」
小鳥遊の闘争心を駆り立てるような余計な一言を呟いた後、四季咲はこの場を後にしようとする。
……あいつ、結構負けず嫌いなんだな。
「生徒会?あんたみたいな妙にガキっぽい上に友達いなさそうな奴が生徒会みたいなリア充の集まりに所属している訳?流石に嘘でしょ」
「ああ、生徒会長だ。あと、友達いなさそうは誤りだ。私には友達と言える人が2人程いるからな」
「友達2人とか少な過ぎるわよ。あんた、もしかしてボッチなんじゃないの?」
「教室でいつも寝たふりをするお前が言える台詞なのか?」
「うっさい、あんたは黙ってろ」
「量より質の方が大事だ」
「どうせそのたった2人しかいない友達の中にこいつがいるんでしょ。もう1人が歴史に残る聖人だったとしても、こいつ1人であんたの友達の質は急激に下がるわ。残念だったわね」
「おい、俺をナチュラルにデバフ扱いするな」
「そういう君は友達はいるのか?君も友達少なそうに見えるのだが」
「いるに決まってるでしょ。柴郎でしょ?タマちゃんでしょ?フクにマル、そして、コロン……パッと言えるだけでこれくらいいるわ」
「全部近所の犬猫だけどな」
「何であんたが知ってるのよ!?」
「小鳥遊弟から聞いた」
「あの馬鹿……!私のプライベートをベラベラと……!」
「もしや人間の友達はいないのか?」
「流石に2人以上いるわよ!……いるわよ!!」
2人もいなさそうだった。
流石にこれ以上ヒートアップするのもアレなので仲裁に入る。
「落ち着けよ、お前ら。というか、友達の数で優劣つける事自体、間違っていると思うぞ」
「じゃあ、あんたに勝敗決めて貰おうか。…………あんた的には私とこいつ、どっちを彼女にしたい訳?」
仲裁に入った所為で、厄介事に巻き込まれてしまった。
縋るように四季咲の方を見る。
「神宮、答えてくれ。君が私達の勝敗を決めるのだ」
四季咲もノリノリだった。
面倒臭いと思いながら、俺は思った事をそのまま口に出す。
「おっぱいデカイ方」
「君はおっぱいしか頭がないのか?」/「あんたはおっぱいしか頭がない訳?」
「まあ、爆乳じゃない時点でお前らは論外だな。俺の彼女になりたければ、爆乳になってから出直して来い」
半分冗談半分本気で言いながら、俺は欠伸を浮かべる。
「仮に私達が爆乳になった場合、神宮、君はどっちを選ぶんだ?」
もうこれ以上この話を掘り下げたくないというのに、四季咲は空気を読む事なく、しつこく掘り下げる。
普通のラブコメ主人公なら、ここで狼狽えながら『や、優しい方……かな?』みたいな当たり障りのない事を言って、ヒロインと読者の好感度を稼ぎに行くのだろう。
だが、俺はそんな非生産的な事をやらない。
ここで言葉を濁したとしても、彼女達は俺を追及し続けるだろう。
正直、どっちを選んでも面倒臭い事──俺の答えにより四季咲か小鳥遊のどっちかがいじける──になるのは明らかだったので答えなくなかった。
というか、四季咲とはまだ半月程度の付き合いでしかないし、小鳥遊とは会ったら喧嘩を売られる程度の仲でしかない。
もう少し彼女達と仲良くなったら、答えられるだろうが、今の時点では──彼女達の事をろくに知らない現段階では答えられそうになかった。
ならば、偽りのない本音をぶち撒けて、"あ、こいつに彼女云々の話をするのは止めよう"と思わせよう。
多分、ドン引きされたり、好感度下がったりするけど、この面倒臭い状況から逃れられるなら別に良いや。
この質問に終止符を打つべく、俺は思った事をそのまま吐露する。
「エッチい方」
「「………………」」
俺の答えを聞いた瞬間、彼女達は苦い顔をし始めた。
相手には負けたくない。
けれど、淫らな女とも思われたくない彼女達の葛藤がひしひしと伝わる。
口を開けば猥談しかやって来ない雫さんやバイトリーダー達とは大違いだ。
好機と思ったので、他の質問をされるよりも先に追撃を試みる。
「お前ら、どっちの方がエロい訳?」
「今日の所はこの辺りにしておくか」
「ええ、そうね。白黒つけられないのは残念だけど」
俺のセクハラでしかない質問のお陰で、彼女達の決着が有耶無耶になった。
エロくて良かったと心の底から思いながら、学校に戻る四季咲を見送る。
「さて、四季咲も帰った事だし、俺達もお開きに……」
「あんた、何でここに来たのか忘れてるでしょ」
小鳥遊の機嫌を取るためにここまで来た事を思い出す。
「ちょっと一暴れしたいから、付き合いなさいよ。拒否したら殺すから」
そう言って、小鳥遊は霊園の近くにある工場跡地に連れ込む。
いつもなら拒否している所だが、今回は委員長の頼みと彼女に恥を掻かせた罪滅ぼしの所為で逃げる事ができなかった。
心の中でまで長く重い溜息を吐き出しながら、俺は工場跡地で小鳥遊と向かい合う。
「ちょっと確かめさせてよ」
小鳥遊は準備体操をしながら、欠伸を浮かべる俺に話しかける。
「何を確かめたいんだ」
「色々よ」
小鳥遊は薄暗い天井を仰ぎながら呟く。
「色々って何だよ」
「今の私が何を考えているのか。本当に私はここにいていいのか。何で人狼として生まれて来たのか。何で"絶対善"に勝てなかったのか……それを確かめるために、あんたと本気でやり合いたいのよ」
漠然とした不安を呟きながら、彼女は人型のオオカミの姿に変化してしまう。
「あんた、この姿を見て、どう思う?」
「夏場、暑そうだと思う」
「空気読め。今はシリアスだっての」
「強いて言えば、その尻尾をモフりたい」
「あんたに真面目な回答を期待した私がバカだった」
彼女は頭についたオオカミの耳を撫でながら、俺の目をじっと見つめる。
「……幼い頃から私は魔族に強い恨みを持つ魔法使いや魔術師から逃げる生活を送って来た。転校するのは当たり前。だから、同年代の友達ができる事は殆どなかった」
いつもなら他人の昔話は興味がないと言って切り捨てるが、今の彼女の口から零れ落ちる言葉は俺への言葉ではない。
彼女は自分の思った事をそのまま吐露しているだけなのだ。
本当に考えが纏まっていないからだろう。
ならば、ここは黙って聞く事が彼女のためになる筈だ。
「できた友達もいた。けど、そいつらは私の正体が人狼と知るや否や離れていった。だから、正体を隠し続けた。敵からバレないように、折角できた友達からバレないように。けど、それは上手くいかなかった。だから、私は他人を拒絶した。そして、他人がいなくても生きていけるように強くなろうとした。それで上手くいくと思ったから」
「でも、"絶対善"の時にそのやり方が通用しなくなった」
「通用しなくなったのは、あんたと出会ってからよ。あんたは私よりも強かった。……私1人じゃ勝てないくらいにね。だから、私はあんたより強くなろうとした。1人で生きていくために」
「つまり、今からお前は1人で生きていく強さを得るために、俺と喧嘩しようとしている訳か」
「違うわ。胸の中にあるモヤモヤを解消するためよ」
小鳥遊は低く腰を落とすと、敵意を放ち始める。
「本気で暴れ回る事でスッキリしたいのよ。だから、神宮。──あんたが私の本気を受け止めて」
1人で生きていこうとしていた彼女が他人に頼った。
その事を認識した途端、彼女の心境に変化が及んだ事──委員長の心配は杞憂である事を理解する。
「大体承知。そういう事なら、お前がスッキリするまで付き合ってやるよ」
右の拳を握り締めた俺は、小鳥遊の瞳に視線を向ける。
たったそれだけの動作で、彼女は頬を少しだけ緩めた。
「全力でかかって来いよ、小鳥遊。じゃないと、一瞬で終わっちまうから」
ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
次の更新は明日の19時頃に予定しております。
明日もお付き合いよろしくお願い致します




