4月30日(4)神宮司と小鳥遊神奈子 *6万PV達成記念短編
小鳥遊からのガチ蹴りを受けて数分間だけ気絶した後、俺は小鳥遊と四季咲を連れて、桑原で唯一の駄菓子屋に向かっていた。
「……本当に忘れているんでしょうね」
「だから、何回も言っているだろ。何で気絶したのか覚えていないって」
頬を真っ赤に染めながら、小鳥遊は気絶前の記憶の有無を尋ねる。
俺はというと、記憶を失くした──という嘘がバレないように努めていた。
「そう。なら、良かった」
いや、良くねぇよ。
俺、お前が顔を真っ赤に染めた前後の記憶持ってるんだけど。
え、こいつ、本当に俺に惚れてんの?
異性に好意を寄せられた経験がないから、よく分からないんですだけど。
いや、漫画やアニメとかのテンプレツンデレみたいな反応していただけで俺に好意があると決めつけるのは早計だ。
結論づけるのはまだ早い。
というか、もし仮に小鳥遊が俺に好意を寄せている事が事実だったとしても、何て答えたら良いのか分からない。
え、付き合えば良いの?
けど、俺、小鳥遊の事、よく知らないんだよなぁ。
顔を合わせたら喧嘩を売られる程度の仲でしかないし。
誰でもいい、誰か教えてくれ。
一体、俺はどうしたら良いんだ?
(いやいや、こういうのは告られてから考えるべきだろ?まだ小鳥遊が俺に好意を抱いている確証ない訳だし。まだその疑惑だし、うん」
そうやって、俺はそわそわし続けながら、動かない事を正当化しつつ、問題を後回しにする。
……金郷教騒動で犯した過ちをもう1度繰り返していた。
本当、俺って何も成長していない。
「神宮」
「ひゃい!」
突然、四季咲に話しかけられたので変な声が出てしまった。
「どこに行く気だ?駄菓子屋はそこだぞ」
いつの間にか俺の身体は駄菓子屋を通り過ぎようとしていた。
「え、あ、ごめん、ごめん。ボーッとしていた」
謝罪の言葉を告げながら、俺は四季咲──生まれて初めて入る駄菓子屋にテンション上がっているのか上機嫌だった──と一緒に駄菓子屋の中に入る。
駄菓子屋の中は相も変わらず多種多様な駄菓子が陳列していた。
故郷の駄菓子屋──数年前に店は潰れて、今はない──もこんな感じだったなと思いながら、俺は店内を見渡す。
小鳥遊は俺達よりも先に駄菓子屋の中に入っていた。
鼻唄を唄うくらい上機嫌な彼女は、夢中な様子でお目当ての駄菓子を探し続ける。
今の小鳥遊に話しかけるのは野暮だと判断した俺は、一緒に店に入った小鳥遊に質問を投げかけた。
「小鳥遊は好きな駄菓子とかあるのか?」
「お菓子自体そんなに食わないのだが……強いてあげるとするならば、たけのこチョコだな。偶に勉強中食べている」
あろう事か、論争が起こってもおかしくないお菓子をチョイスしやがった。
「神宮はたけのこときのこ、どっちが好きだ?」
「きのこと言ったらどうする?」
「君との付き合いを考える」
「まさかの過激派」
「信じているぞ、君がこちら派である事を」
「俺は何でも食べる派だ」
「ならば、これを機にたけのこ派になったらどうだ?」
「お前、たけのこ好き過ぎるだろ。絶対、偶にじゃねぇだろ。毎日のように食べているだろ」
四季咲はご機嫌な様子で棚にあった最後の1個──たけのこチョコを手に取ろうとする。
「「あ」」
たけのこチョコを取ろうとした四季咲の手が小鳥遊の手と重なった。
「…………」
「…………」
手を重ねたままの状態で四季咲と小鳥遊は睨み合う。
一触即発という言葉が相応しい程、店内の空気は重苦しいものに変わってしまった。
「……あんた、こないだあいつとコンビニに来た奴よね?何で女になってんの?」
「色々あってな。小鳥遊さん、もしよければ、そのお菓子、私に譲ってくれないか?どうしても食わせたい人がいるんだ」
「ごめん、私、たけのこ派だから死んでも手放す事ができない」
「奇遇だな、私もだ」
「どうせ他の人にあげる程度にしか好きじゃないんでしょ?離しなさいよ、これはたけのこを心の底から愛している私が食べるんだから」
「心の底から愛しているからこそ、布教すべきなのではないか?たけのこを愛し、食べる人がいるからたけのこは生産され続ける。もし愛する者がいなくなったら、私達たけのこ派は永遠にたけのこを食べられなくなるのだぞ」
「いや、そんな日は永遠に来ないから。私が永遠に買い支えるから」
「君1人で買い支える事ができる程、たけのこは軽くない。大人しく個人の限界を認めるべきだ。本当にたけのこを愛しているのなら布教するのが、真のたけのこ愛好者だと思わないのか?」
「あー、四季咲、俺、今、甘いものの気分じゃないから無理しなくても……」
「大体分かった。小鳥遊、それ、私が1人で食うから私に譲ってくれ」
「力尽くで奪い取れば?私、死んでも離さないから」
四季咲と小鳥遊は火花を散らし合う。
……何でこいつら、スーパーでも買えるお菓子を巡って争っているんだろう?
どうせ争うなら駄菓子屋でしか買えない駄菓子で争えば良いのに。
そんな事を思いながら、俺は当たりつきの駄菓子とハリセンを購入する。
「このままでは拉致が明かないな、表に出ろ。白黒つけようではないか」
「望む所よ!返り討ちにしてやる!!」
「何で殴り合う前提で話進めてんだよ」
先程買ったハリセンで彼女達の頭を叩く事で、彼女達の短絡的な選択を止める。
「小鳥遊ならともかく、何で四季咲も殴り合おうとしてんだよ。お前、そんなキャラじゃないだろ」
「すまない、神宮。彼女だけには何故か負けたくないんだ」
珍しく四季咲は対抗心を燃やしていた。
……土管にハマってから、彼女のダメな所──妙に子どもっぽい所が頻繁に出るようになったような気がする。
それだけ彼女が周囲に心を開いたと言えばそれまでだけど。
「小鳥遊もお嬢様相手に対抗心を燃やすなよ。こいつ、お前がいつも喧嘩しているような奴等と違うんだぞ」
「なんとなくだけど、こいつにだけは負けちゃいけないのよ!なんだが知らないけど、こいつに負ける事は自分に負けるような気がする!」
「奇遇だな。私も君に負ける事は自分に負ける事と同意義だと思っていた所だ」
「……殴り合いの喧嘩だけはすんなよ。大変な事になるから」
魔術が扱える四季咲と人狼の力を持つ小鳥遊が闘ったら、周囲に甚大な被害をもたらすだろう。
彼女達の喧嘩を力尽くで止める事はできても、周囲の被害を完璧に抑える事はできそうになかった。
「やるなら殴り合い以外の勝負をしろ」
「なら、あんたが決めてよ」
「神宮が決めた勝負なら何でも乗ってやる」
「じゃあ、あれはどうだ?」
壁にかかっていたものを指差す。
彼女達はほぼ同時にそれを見ると、力強く頷いた。
「いいわよ、アレで勝負してあげる」
「悪いが、手加減はしないぞ」
「こっちだって」
かくして、四季咲と小鳥遊の勝負の火蓋は切られた。
「俺、帰っても良いか?」
「「良くない!!」」
ここまで読んでくれた方、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
誠に勝手ながら、諸事情により、明日以降の投稿時間を19時頃に変更致します。
本当に申し訳ありません。
これからもお付き合いよろしくお願い致します。




