4月30日(3)神宮司と小鳥遊神奈子 *6万PV達成記念短編
本日は先生達の研修により昼休み以降の授業はなかった。
時刻は14時前。
帰りのHRを済ませた後、不機嫌な小鳥遊を連れて、俺は近くの駄菓子屋に向かう。
理由は至って明瞭。
小鳥遊の機嫌を取るためだ。
「……本当に好きなもの、奢ってくれるんでしょうね?」
「あ、ああ……!幾らでも奢ってやる!……千円くらいなら」
「あ?」
「いえ、何も」
言えない。
もう俺の懐には殆どお金がない事を。
大事に取っておいたお年玉込みで1000円くらいしかない事を。
口が裂けても言えない。
「……破産させる勢いで食べてやる」
「太るぞ」
「本当、あんたってデリカシーないのね!!」
手加減抜きの蹴りを俺の顔面目掛けて放つ小鳥遊。
人間の領域を遥かに超えた速さの一撃を俺は難なく躱した。
「今時、暴力系ヒロインは流行らないと思うぞ。もっと甘やかしてくれるバブみのあるヒロインじゃないと」
「誰が暴力系ヒロインよ!!いつ私があんたのヒロインになった!!??」
「自惚れるなよ、Gカップ未満。俺のヒロインになりたければ、せめて巨乳になってから出直して来い」
「本当、あんたって口開く度に最低な事しか言わないのね!!"絶対善"の時のキリッとしてたじゃん!!日頃からあれを保ちなさいよ!!」
「キリッ」
「口だけキリッって言ってもキリッてなってないから!舐めてんのか!!」
「そりゃあ、俺だって相手が金髪爆乳美女とかだったら、無理にでもキリッとするんだけど……相手が常日頃喧嘩売ってくる暴力女だから、モチベが上がらない訳で」
「やっぱ、あんた、喧嘩売ってるでしょ!?」
小鳥遊の拳が俺の頬を掠める。
多分、この距離感が小鳥遊との適切な距離感なのだろう。
前みたいに喧嘩売られるからという理由で避けていたら、また"絶対善"の時みたいに1人になって暴走してしまうだし。
暫くは──小鳥遊が本気で嫌がるまでは──このスタンスを貫こう。
当たり障りのない話をして暴力を振るう理由を奪うよりも、今のように暴力を振るえる状況下の方が彼女の性に合っているだろうし。
「小鳥遊、スカート履いたまま、蹴りを連発していたらパンツ見えるぞ」
「本当、あんたってスケベ主人公並みにデリカシーないわね!昭和の少年漫画主人公かっての!!人の事を暴力系ヒロインって言う前にあんた自身の価値観もアップデートしなさいよ!!このドスケベ化石主人公!!」
小鳥遊の攻撃を巧みに捌きながら、下駄箱に向かっていると、下駄箱前でスマホを弄っている四季咲と遭遇した。
「よお、四季咲。昨日は世話になっ……何してんだ、お前」
四季咲が持っていたものはスマホじゃなかった。
子どもの頃に流行っていたキ-チェーン型育成ゲームだ。
俺は持っていなかったが、確かたまご何とかっていうゲームで、画面の中にいるキャラクターを育てる事を目的にした玩具だったような気がする。
「見て分からないのか?エグっちだ」
「何で学校に子どもがやるようなゲーム持ち込んでんだよ。ここは学校だぞ。というより、それを人通りの多い所でやってて恥ずかしくないんですか?」
「愚問だな、神宮。私はノーパンで土管にハマった上に君に全裸を見られた女だぞ」
「見てない!!流石にお前の全裸までは見てないから!!」
「あの経験を経た今、公衆の面前で子どもの玩具で遊んでいても恥とは思わなくなってしまった」
「やべえ!変な方向に進化してしまったぞ、こいつ!!俺の所為か!?俺の所為なのか!?」
「今までは恥ずかしくてできなかった事が、今ではできるようになってしまった。そう考えると、あの経験は無駄じゃなかったんだな」
「いいか!?四季咲!!今のお前は開き直っているだけだ!!子どもの玩具に興じるのは別に問題ないけど、時と場所を考えろ。ここは勉強する所だぞ」
「あんた、今日の授業中、先生に隠れてゲームやってたよね。見てたんだけど、私」
「シャラーップ、小鳥遊。それ以上、真実を口にするな」
今日の朝、俺が授業の時間を惜しんで名作ギャルゲーをやっていた事実を小鳥遊は不機嫌そうに告発する。
「あ、そうだ。神宮、もし良ければ、私と一緒にエグっちをやって貰っても良いか?あと少しでキャラコンプできそうなのだが、結婚で手に入るキャラが手に入らなくて。君にも手伝って貰いたいんだが」
ポケットから2台目のキーチェーンゲームを取り出しながら、四季咲は俺に上目遣いでお願いする。
「別に良いけど……ん?つまり、俺が育てたキャラとお前が育てたキャラを結合させて新しいキャラを作るのか?」
「少し表現は違うが、大体そんな感じだ」
「なるほど。じゃあ、俺ができる範囲でやってみるよ。……流石に学校の中ではやらないと思うけど」
そう言って、四季咲からキーチェーンゲームを受け取ろうと──した瞬間、背後にいる小鳥遊からの怒気を感じ取る。
多分、道草を食っている俺に怒りを向けているのだろう。
「悪い悪い、小鳥遊。すぐに行くから」
四季咲に別れを告げた後、俺は靴を履き替えようとする。
だが、小鳥遊は不機嫌な様子でそっぽを向くと、俺にこう言った。
「そこのお嬢様と一緒にゲームしていたら?私は怒っていないから」
「あ、まさか俺が四季咲と話して嫉妬してんの……うおっ!?」
俺の冗談に本気でキレたのか、小鳥遊は自らの鞄を俺目掛けて投げつける。
鞄の中は空っぽだったため、容易に受け止める事ができた。
「そ、そんな訳ないでしょ!バーカー!」
「おいおい。何だよ、そのテンプレみたいなツンデレ反応は。まさかと思うけど、小鳥遊、お前、本気で俺に惚れてんのか?」
小鳥遊がギリギリマジギレように気を遣いながら、俺は彼女を煽りに煽る。
そろそろ怒りの一撃か飛んで来るなと思いながら、小鳥遊の方を見る。
小鳥遊は林檎みたいに顔を真っ赤にしていた。
まるで俺の発言が図星であるかのような反応だ。
顔を蛸みたいに真っ赤にした彼女に驚きながら、俺は人差し指で自分の頬を掻く。
「あ、あの、小鳥遊……さん?何そのガチ反応?え?お前、俺の事、好き……なの?」
"んな訳ないでしょ!"みたいなツッコミを待ち続ける。
が、小鳥遊は口をモゴモゴさせるだけで何も言わなかった。
「え?俺に惚れる所、どこにあった?まさか"絶対善"の時か?俺がお前のピンチを救ったから惚れたのか?それがガチだったら、お前、漫画やアニメのヒロイン並みにチョロいって事になるぞ?それでいいのか?チョロインは敗北フラグだって、今日1日中やってたギャルゲーで学んだぞ、俺は……っぎゃあああああ!!!!」
小鳥遊の蹴りが目にも映らぬ速さで飛んできた。
完全に油断していた──いや、殺意も悪意も全く感じなかったので避けるのは無理──俺は彼女の蹴りをモロに喰らってしまった。
「んな訳ないでしょ、バカああああああああ!!!!」
「その言葉が、聞きたかっ……ガクッ」
「神宮うううううううう!!!!」
小鳥遊の反論と四季咲の心配する声を聞きながら、俺は意識を失った。
ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
昨夜、6万PV達成記念短編を書き終わる事ができました。
なので、明日から6月11日金曜日まで毎日20時頃に更新しようと思います。
また、8〜10万PVは来月7月上旬から7月下旬まで毎日更新するつもりです。
何度も告知していますが、本作品で残った伏線を中心に回収していきますのでお付き合いよろしくお願い致します。
次の更新は明日の20時頃を予定しております。
今週は金曜日まで「王子の尻を爆破してお尋ね者になった悪役令嬢(略)」も毎日更新しているので、まだ読んでいない方はそちらも読んでくれると嬉しいです。
よろしくお願い致します。




