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2月14日(1)バレンタイン当日: 意外な人達の意外な関係の巻

 結局、俺と委員長はチョコを作る事を選択した。

 流石に担任に粘土を食わせる程、人の心は捨てていないのだ、俺達は。

 チョコを勝手に食べた上学校もサボっているので、間違いなく寮長にお怒りを貰う事になるだろう。

 やばい、今すぐにでも逃げ出したい。

 

「チョコの材料は確保したけど、……どこで作りましょうか」


 チョコの材料を買った俺と委員長は徹夜明けでショボショボしていた目を擦りながら、駅前のスーパーを後にする。

 ちなみに伊紙丸と布留川には寮長を見張っていて、ここにはいない。


「うーん、どうしようか」


 バイトリーダーの顔が脳裏に浮かび上がる。

 が、彼女は今大学受験で忙しい事を思い出したので候補から除外する。

 次に思い浮かんだのは啓太郎。

 あいつに借りを作ったら、女子高生と合コン云々言われるので、素直に諦める。


「雫さんに頼るのはどうだ?」


 啓太郎と同じ交番に勤務している元ヤン──雫さんの名前を出す。


「え、あの人、寮長の従姉妹よ。下手したら、雫さん経由で寮長にバレるかもしれないわ」


「え、嘘だろ。雫さんと寮長って従姉妹だったの」

 

「やっぱ、あんたも知らなかったのね。てか、こんな時に雫さんに頼ろうとするとかあんたバカなの?あの人、結構抜けている所あるから、仮に協力を得られたとしても、うっかり寮長に漏らしてしまうかもしれないわよ。一昨年くらいにもあの人がうっかり秘密暴露した所為で大変な目に遭ったし」


「一昨年くらいって、……そんなに雫さんとの付き合い長いのか?」


「ん?言ってなかったっけ?」


「ああ、初耳だ」


 意外な人の意外な繋がりに驚いていると、背後から声を掛けられた。

 振り返る。

 そこには警官の制服を着込んだ寮長の弟が立っていた。


「神宮、それに美子。お前ら、一体何してやがる?学校はどうした?」


「げ、寮長の弟」


「"げ"はないだろ、"げ"は。ったく、お前はいつもいつも好き勝手やりやがって。で、今回は何をしでかしたんだ?」


「あんたの姉ちゃんが用意していたバレンタインチョコ、間違って私達が食べちゃったの」


 委員長は隠す事なく、寮長の弟に俺達がしでかした事を話してしまった。

 

「え、良いのかよ、寮長の弟に話しちゃって」


「大丈夫よ。こいつは雫さんと違って、うっかり話す事はないから」


「もしかして、お前ら、間違って食ったチョコを作るために学校サボったのか?」


 無言で頷く。

 そんな俺らを見た寮長の弟は長い溜息を吐き出した。


「こんなの、素直に"間違って食べた、ごめんなさい"って言っとけば済む問題だろ。何で下手に隠そうとするんだ、お前らは」


「女にはね、引けない時があるのよ」


「そこにいる神宮は男だぞ」


「昨日、モロッコでポコチン取ったわ」


「取ってねぇよ」


 委員長の頭に軽くチョップする。


「てな訳で、真一郎、あんたの家の台所を貸しなさい。チョコ作りたいから」


「悪りぃが、それは無理な相談だ。今、俺の家ではお袋が料理教室やっているから。多分、台所使えるようになるには夕方くらいになる」


「じゃあ、他に使えそうな所を紹介しなさいよ」


「なら、『ひまわりの園』の台所を使えば良い。あそこなら今の時間、空いているだろうし。何なら園長に教えてもらえる事ができるぞ」


「ああ、それはいいわね。貰った」


「てか、お前、寮に入ってから『ひまわりの園』に1度も帰っていないんだろ。園長、嘆いていたぞ」


「失礼ね、盆と正月は帰ったわ」


「少な過ぎるわ。月1で良いから顔を出してやれよ。寮からそんなに離れていないから行くのは余裕だろ」


「えー、そんな暇あるなら、寮でアニメ見たいんだけど」


 2人の世界に没頭する彼等を俺はぼんやり眺める。

 話に割り込む隙がないくらい、彼らは親しげだった。

 恋人同士の会話というより面倒見のいい兄と我儘な妹の会話と言ったら伝わるだろうか。

 委員長と寮長の弟がこんなに親しいとは思わなかったので、ちょっとだけ驚いた。

 

「んじゃ、私達、『ひまわりの園』行くから。寮長には絶対に秘密にしといてね」


「ああ、秘密にしといてやるよ。その代わり、作ったチョコを渡す時はちゃんと姉ちゃんに事情を話せよ。嘘吐いて逃げようとしたら、容赦なく手錠にかけるからな。あ、あと、チョコ作り終わったら、速攻で学校に戻れよ。いいな?」


「「はーい」」


 寮長の弟は大人っぽい事を言うと、再び駅前のパトロールに戻ってしまう。

 俺は彼の背後姿をぼんやり眺め続けた。


「ん?どうしたの?神宮、そんな苦い顔をして」


「ん、ああ、いや、やっぱ寮長一族は苦手だなって思って」


 人差し指で頬を掻きながら、俺は空を仰ぐ。


「同族嫌悪じゃないの?」


「同族、嫌悪……?」


「私から言わせてみれば、あんたも寮長も寮長弟も同じなのよ」


「どの辺がだよ?すぐに手が出る所か?」


「お人好しなのよ、それも絵に描いたようなお人好し。まあ、あんたは寮長達と比べたら、まだまだガキだけど。大人になったら、彼等みたいになるでしょうね」


「ドがつく程のお人好しは食べたチョコを隠蔽しようなんて考えねぇよ」


 センチメンタルな発言をする委員長に思わず戸惑ってしまう。

 いつものおちゃらけた感じには見えなかった。

 はっきり言って、どう反応したら良いのか分からなかった。


(……あれ?地雷を踏んだ?)


 委員長の顔を覗き込む。

 彼女は眠そうにしていた。

 恐らく寝不足で脳の働きが鈍っているのだろう。

 敢えていつも通りに接する事にする。

 

「とりあえず、さっき寮長の弟が言ってた『ひまわりの園』とやらに行こうぜ。案内してくれ、知っているんだろ?」


「ん、じゃ、さっさと行くわよ」


 そう言って、委員長は目を擦る。

 俺はそれを見て、"あ、こいつ調理せずに寝るな"と思った。


 ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 皆様のお陰で本作品のブクマ件数200に到達する事ができました(5月15日19時現在)。

 投稿し始めて約4ヶ月。

 ブクマ100件どころかブクマ200件いくとは思わなかったので、本当に嬉しいです。

 厚く厚く厚くお礼を申し上げます。 

 ブクマ200件突破記念の中編はまだ書き終わっていませんが、近い内に投稿できるように頑張ります。

 もう暫くお待ちください。

 これからも本編は終わりましたが、〜万PV達成記念短編などを投稿していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。


 次の更新は明日の20時頃を予定しております。


 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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