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2月13日(3) チョコ完成!?の巻

「チョコは委員長が溶かしたのを使うとして……ツカサン、どうやって外見を寄せる気なんや?ここには専門的な料理器具は無いで」


「爪楊枝とか使って形を整えるしかねえな……あと、委員長が使ってた奴は全部捨てろ。完全再現までは行かなくても、味も近づけなきゃいけないんだから」


「ちょっと、それどういう意味!?私のが不味かったって言う訳!?」


「委員長は女子力低いから知らないんだろうけど、世間一般での手作りチョコってのは市販のチョコを溶かして作るもんなんだよ」


「は?カカオかち割る所から始めなくて良い訳?そんなの手作りじゃ無いじゃない」


「カカオかち割る女子高生なんて、アマゾンの奥地にしか存在しねえよ」


「それに私が作ったチョコも乾パンと同じくらい美味しいじゃない。これなら高級店のチョコと遜色ない味になると思うけど」


「乾パンと同レベルな時点でアウトだっての。それで満足すんのは委員長の貧乏舌くらいだ……布留川、お前はコンビニで高そうな板チョコ買って来い。お前が買いに行っている間、俺達は作り方調べとくからさ」


「オーキードーキ」


 布留川を買い物に行かせ、俺と伊紙丸は調理の準備を始める。


「そいや、ツカサンは料理できるんか?」


「焼きそばとオムレツくらいなら作れるぞ」


「委員長とフルヤンと比べるとマシ程度で、ツカサンも料理できない方やんか」


「それでも、それなりの戦力になるだろ、こいつらと比べると」


「まあ、言うてワイもチョコなんて作った事ないんやけどな」


「50歩100歩じゃねえか」


 スマホでトリュフチョコの作り方を検索しようとする。


「そんなの調べなくても、私の頭の中に入ってるわ」


 委員長は俺からスマホを奪い取ると、ポケットからチョークを取り出す。


「先ずは半径15mくらいの火を意味する魔法陣を描いて」


「料理に魔法陣は使わねえよ!!」


「私が昔いた所では、こうやって料理作ってたわよ」


「どこの世界で生きてたら、料理で魔法陣を使う羽目になるんだよ!?もしかして、今流行の異世界転生して来たのか!?前世の常識を俺に説いてんのか、お前は!?」


「は?前世も異世界もある訳ないじゃない」


「なら、魔法も魔術もねえよ!」


「オッケー、ゴーゴル。ツカサンの検索履歴1週間分読み上げて」


「お前はお前で、さり気なく俺の性癖暴こうとしてんじゃねえよ!おっぱいしか出てこねぇよ!!」


 俺のスマホに雑な命令を飛ばす伊紙丸の頭を叩く。

 すると、血相を変えた布留川が戻って来た。


「やべえ!寮長に無断外出しようとしたのバレた!」


「なら、こっちに戻って来るんじゃねえよ!!どっか行け!!」


「とりあえず、隠れるわよ!見つかったら厄介な事になるかもしれないから!!」


「もう十分厄介な事になってるよ!!」


 布留川、伊紙丸、委員長は俊敏な速さで厨房に設置されている長机の下に隠れる。

 俺も彼等に続いて隠れようとしたが、食堂に入って来た寮長と目が合ってしまった。


「司っ!布留川の馬鹿野郎は見なかったか!?」


「いえ!見ておりません!!」


 軍隊の敬礼みたいなポーズで俺は寮長の機嫌を取ろうとする。 

 妙にぎこちない俺の様子を不思議に思った寮長は俺の顔をじっと睨み出した。


「……何でお前がここにいる?」


「委員長のチョコ作りを手伝う事になったからであります!!ほら、見てください!この石炭みたいなチョコ!味も超苦い上めちゃくちゃ固いんです!!これをクラスみんなに配るとか言い出してたんで、悲劇を回避するために作り方を教えようと思いました!!」


「その委員長はどこにいる?」


「調味料を取りに戻りました!!」


「そうか。なら、お前の言う事を信じる事にする」


 そう言って、寮長は食堂から去ろうとする──ところで、委員長が食堂の床に描いた魔法陣を視界に入れる。

 彼女がそれを認識した途端、食堂内の空気がピリッとしたものに変わった。

 背中に冷たい汗が流れる。


「……これは、何だ?」


 ここで委員長を差し出せば、俺はこの場を乗り切れるだろう。

 しかし、ここで彼女を引き渡したら、連鎖的に俺達が寮長のチョコを食べた事がバレてしまう。

 俺は短く息を吐き、覚悟を決めると、委員長がしでかした罪を被った。


「──チョコを作るための魔法陣です」


 寮長は今の時代にそぐわない体罰で落書きした俺を罰する。

 俺は話を拗らせないよう、敢えてその暴力を抵抗する事なく受け止めた。


「その魔法陣、消しとけよ」


「……あい」


 鉄拳制裁をまともに喰らった俺は食堂の床に転がりながら、肯定の言葉を吐き出す。床はとても冷んやりしていた。


「さ!チョコ作りやるわよ!!」


「委員長!何か俺に言う事あるよな!?」


 委員長は俺の言葉を無視すると、冷蔵庫からカカオを取り出す。


「で、どうすんだよ神宮。これじゃ板チョコ買えないぞ」


「大丈夫だ。そもそも俺達は根本的な事を忘れていた」


「根本的な事?」


「ああ。……そもそも料理に大事なのは調味料でも材料でもない。──愛だ」


「大体分かったわ、神宮。愛さえあれば、たとえ犬の糞で作ったチョコでもどうにかなるって事ね」


「どうにもなんねぇよ!!ていうか、それ、どこから持って来たんだよ!!汚ねぇな!!」


 何処から持ってきた犬の糞を鷲掴みにしている委員長にツッコミの声を上げる。


「で、神宮。その愛とやらでどうやって誤魔化す気だ?」


「粘土でコネコネしたのを出そう。食べられないけど、気持ちは伝わるだろう」


「お前、二度と愛を語るんじゃねぇぞ」


「んじゃ、さっそくこの糞をミキサーにかけて……っと」


「おい、伊紙丸っ!!その恐怖に満ちたチョコを作ろうとする馬鹿を止めろ!!寮長が担任にアブノーマルなプレイする事になっちまう!!」


「フルヤンに言われんでも止めてるわ!!けど、委員長、馬鹿みたいに力強いねん!!」


「ちょ、離しなさいよ!!セクハラで訴えられるわよ!!」


「「「訴えられんのはお前だ、馬鹿!!」」」


 俺と布留川、伊紙丸のツッコミが冴え渡った所で閑話休題。


 俺は自分の部屋から紙粘土と絵の具を持って来ると、食べたチョコそっくりなものを作ろうと試みる。

 伊紙丸はというと、委員長が作った失敗チョコを使って、チョコを作ろうとしていた。


「おい、伊紙丸。委員長が作った苦いだけの塊を溶かして何をする気だ?」


「んなの、誠意を見せるためや。『間違って食べちゃったけど、一応、頑張って作りましたー』の方がカッコつくやろ?こういうのは反省しているアピールしつつ早めに謝った方がいいね……」


「はい、味の素どぼーん」

 

 伊紙丸が正論を吐いている隙に委員長は味の素を溶かしているチョコにぶっかける。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


「さらに醤油と砂糖もどぼーん」


 夥しい量の調味料を投入する事で委員長はダメなチョコをもっとダメにする。

 反省しているアピールを潰された伊紙丸は、床に膝をつくと、獣のような慟哭を上げ始めた。


「委員長おおおおおお!!!!何をするんやああああああああ!!!!!」


「え、美味しくしようと思って……ほら、大は小を兼ねるって言うし」


「チョコにトドメ刺しとるやろうがああああああああああ!!!!!」


「はぁ!?これがトドメ?本当のトドメはね、こういう事を言うのよ!」


 そう言って、委員長は過剰な程に調味料が入れられたものを豪快に飲み干した。


「げふっ……ごちそうさま」


「オーバーキルすんなやああああああああ!!!!」


 伊紙丸の案は委員長という諸悪の根源によって潰えてしまった。

 俺は黙々と粘土でチョコを作ろうとする。

 が。


「お前、致命的に粘土を捏ねる才能ねぇな」


 布留川は俺が捏ねたチョコ──ウサギの頭から手足が生えた奴を指差しながら溜息を吐き出す。

 ちなみに下のは俺が捏ねた粘土(チョコ)の写真だ。


挿絵(By みてみん)


「もう素直に告白しよう。今、素直に謝ったら何とか許してもらえ……」


「「「やなこった!!」」」


 布留川の正論を一刀両断した俺達は、ほぼ同時に首を横に振る。


「ここで諦めたら試合終了だぞ!!」


「もう序盤から試合は詰んでいるぞ」


「布留川、まだ夜は長いわ!!」


「もしかして夜通しやるつもりなのか?」


「大丈夫や、フルヤン!まだ材料は沢山ある!!」


「材料、粘土と犬の糞しかねぇけど」


「とりあえず、頑張るわよ!私達が怒られないためにも!!えいえい、おー!!」


「「えいえい、おー!!!!」」


「俺、帰っていいか?」



 こうして、俺達ら徹夜で粘土を捏ねて、チョコそっくりのものを作り上げる事に成功した。


「ふぅ……やり遂げたわ、私達」


「おい、この粘土めチョコで本当に誤魔化すつもりなのか?」


 やり遂げた感を出す俺達に水を差すかのように布留川は現実を突きつける。


「大丈夫だ、布留川。見ろよ、この出来。食べなきゃ絶対にバレねぇよ」


 俺達が食べたものと同じ形をしたチョコを指差しながら胸を張る。


「食べなきゃ絶対にバレないものだから、指摘しているんだよ。もし誰かが食べたらどうするんだよ」


「大丈夫よ、布留川。口に入れられるものだから」


「粘土で作られたものは口の中に入れちゃダメなもんなんだよ。それはチョコでも造形物でもない。恐怖が固体化したものだ」


「──っ!?誰かの足音が聞こえてきた!?お前ら、隠れろ!!」


 偽造したチョコを冷蔵庫の中に放り込み、俺は委員長達と共に物陰に隠れる。

 食堂に来たのは寮長だった。

 寮長は珍しく発情した雌のような顔をして、慎重に周囲を見渡す。

 そして、誰もいない事を確認すると、冷蔵庫の中から俺達が偽造したチョコを取り出した。

 チョコが偽造されている事に気づく事なく、寮長は食堂の中から出て行ってしまう。


「よし、上手く誤魔化せたな」


「「ミッション・コンプリート!!!!」」


「いや、成功したらダメな部類だろ。寮長があれを渡したら大変な事になるだろ」


「大丈夫だって。俺らの担任はそんなにヤワな人間じゃない。ていうか、食べる前に気づくだろ。馬鹿じゃないし」


「いや、食べる前に気付かれたらアウトだろ。お前ら、チョコを食べた事がバレないように偽造しようとしていたんだろ?前提崩れているぞ」


「「「………………」」」


「なに図星突かれたみたいな顔してんだよ、お前ら本当にバカなのか?」


「「じゃあ、俺/達私達は何のために徹夜で頑張ったんだよ/頑張ったのよ!!??」」


「知るか、バカ」


 何も解決していない事を理解した俺達は、その場で項垂れた。

 ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 皆様が読んでくれているお陰で11万PVを超えました。

 この場を借りて、厚くお礼を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

 11万PV記念短編も用意致しますので、もう暫くお付き合いよろしくお願い致します。

 あと、今回初めて画像を挿入させて頂きました。

 多分、画像挿入はこれが最初で最後だと思います。

 

 次の更新は明日の20時頃に予定しております。

 これからも不定期でありますが、更新していきますのでよろしくお願い致します。

 

 

 

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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