2月13日(2) チョコを作ろうの巻
委員長の話によると、寮長は意中の人にチョコを渡すため、わざわざ高級チョコ店からチョコを取り寄せたらしい。
だが、ちょっとした不幸により箱に汚れがついたらしく、寮長はチョコを入れる箱を違うものにするため、箱の中身であるチョコを食堂に設置されている冷蔵庫に入れていたそうだ。
「で、俺が間違って寮長のチョコを持って行ってしまったと。何でそれを先に言わなかったんだよ。そしたら、俺も多分とかいう言葉に惑わされる事なかったぞ」
委員長が作った固形物──クソ苦くて食えたもんじゃない──を噛み砕きながら、文句を垂れる。
「私だって、ついさっき寮長に教えて貰ったのよ!もしあれが寮長のだと知っていたら、多分とか曖昧な言葉言ってなかったわよ!!」
戦犯である委員長は頭を抱えながら、その場で項垂れた。
「今の時間は21時35分。普通に考えて、その高級チョコが売ってる店は閉まっているだろう。明日の朝一でチョコを買って来ても寮長に暴露るのは確実。素直に謝るしかねえな」
「でも、フルヤン。素直に謝った所で寮長が素直に許してくれると思うんか?何やかんやでトイレや大浴場掃除させられる羽目になるで」
「じゃあ、寮長の頭ぶん殴ってチョコの記憶削除する以外方法はなさそうだな」
拳を鳴らしながら、寮長の元へ行こうとする。
「お願いだから神宮!あんたは大人しくしてて!あんたが出張ると100パーセントの確率で厄介な事になるから!!」
「そうやでツカサン!暴力は何も生まないんやで!!」
「神宮、拳じゃ人の記憶は操作できないぞ」
他の3人から止められたので、仕方なく拳を収める。
「じゃあ、どうすんだよ。今から高級チョコ店に強盗でも行くのか?」
「何であんたは、そう犯罪チックな事しか思いつかないのよ!?普通にあのチョコと似た感じのやつ作って誤魔化すのよ!!」
委員長は持っていたスマホで俺らが食べた奴を検索する。
「できるのか?こんなカスみたいな女子力で」
委員長が持ってきた墨としか言いようがないチョコを噛み砕きながら、疑問を呈する。
「やる前から諦めてどうすんのよ!?諦めなければやって来るのよ、そう!あの時出会った白馬の王子様みたいな人が!!」
委員長はいつものようにまだ見ぬ白馬の王子様に目を輝かせ始める。
夢見る乙女状態になった委員長を放置し、俺は残り2人が戦力になり得るか確認した。
「布留川と伊紙丸は料理得意だっけ?」
「ワイは結構得意やで。中学の頃、モテたいがために料理教室変わってたからな」
「俺はダメだ。卵かけご飯くらいしか作れねえ」
「じゃあ、俺と伊紙丸で何とかするか。味は無理でも形くらいなら再現できるだろ」
持っていたスマホで食べた奴と同じチョコを検索する。
ネットの海は偉大だ。
"チョコ・高級"と調べるだけで、すぐにお目当てのチョコが検索結果に出てくる。
「げ、あのチョコ、めちゃくちゃ高級品じゃねえか。中古のゲーム機本体なら余裕で買えるぞ、この値段なら」
「なるほど。もしかしたら、箱汚れたのは嘘で値段隠すために違う箱に入れようとしたんか。……寮長って意外と細かい事に気を遣ってるんやな」
「そこまでして、俺らの担任に好意を伝えようとしてんのかよ。ここまで思ってるなら、さっさと告れば良いのに。俺が代わりに告ってやろうかな」
「ツカサンは寮長の女心が分かってへんなあ。そんなんやから年齢と彼女いない歴が同じなんやで」
「うっせ。てか、お前らだって彼女いない歴イコール年齢だろうが」
「ワイらは処女厨やからな。ツカサンと違って、誰でも良いって訳やないねん」
「うわ、キッモ」
委員長の心の底からの罵倒により、彼等は地に伏せてしまう。よく見ると少しニヤけていた。
「委員長、こいつらに全部罪被せて消えよう。そうした方がwin-winな気がする」
「んな事できる訳ないでしょ!そんなの卑怯じゃない!さっさと偽物作るわよ!」
いや、偽物作るのは卑怯じゃないんかいというツッコミをさせる暇を与える事なく、彼女は俺達の襟元を掴むと、そのまま食堂へ移動した。
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます。
次の更新は21時頃を予定しております。




