3月31日(1)エロ本を買いに行こうとしたらお巡りさんと変な人達と遭遇しちゃったの巻
3月31日。オーケストラの日とか教育基本法・学校教育法公布記念日とかエッフェル塔落成記念日とか誰かにとっては特別1日であるが、俺にとってはただの休みに過ぎないある日の夜。
俺──神宮司は上機嫌に鼻唄を歌いながら、寮から歩いて20分くらいの所にあるコンビニに向かっていた。
別に小腹が空いたからという下らない理由で寮から抜け出した訳ではない。
勿論、誰が聞いても納得するような理由はちゃんと用意している。
エロ本を買うためだ。
電子の海から絶え間なくエロスを供給できるようになった時代になったとしても、人は紙媒体のエロ本を買わざるを得ない状況に追い込まれる。
例えば、ネットに繋げないクソみたいな環境下で生活していたり、電子書籍での販売が行われていなかったり、電子版と書籍版では掲載内容が違ったりなどなど。
紙媒体のエロスに手を伸ばす理由は星の数だけ存在すると言っても過言ではない。
今回、俺がエロ本をわざわざコンビニで買おうとしている理由も無数にある星の中の1つ。
そう、紙媒体にしか付属されていないオマケを手に入れるためだ。
それだけのために、俺は前時代的アナログエロメディアを購入しようとしているのだ。
わざわざ友人や寮長にバレるという危険を冒して。
自分でも馬鹿だと思っている。
けど、そんな馬鹿な真似をしてでも俺は雑誌についているオマケを手に入れたいのだ。
なにせ、今回買うエロ本には金髪爆乳外国人を再現した(と謳っている)空気人形がエロ本のオマケとしてついてくるのだから。
自分でさえ、自分が愚かでリスキーな選択肢を選んでいることは熟知している。
もしも、自分が空気人形とイチャイチャしていたら、友達からドン引きされることは間違いない上、寮長から八つ裂きされるだろう(俺と空気人形が)。
しかし、そのオマケが俺の性癖と非常にベストマッチしているため、買わないという選択肢は最初から存在しない。
思春期の男子である俺にとって、その選択肢を選ばないという選択肢はあり得ないのだ。
偽物でもいいから味わいたい。その一心で俺は力強い足取りでコンビニに向かって突き進む。
「ふふふん〜♪ふふふん〜♪」
上機嫌に鼻唄を歌いながら、俺は無人の住宅街を我が物顔で歩いていた。
周囲に誰もいないと勝手に決めつけて。だから、一瞬だけ反応が遅れてしまった。
「おい、司。何で寮生であるお前がこんな時間に外出しているんだ?」
「げ、雫さん………!?」
完全に油断していた俺は、顔見知りであるお巡りさん──黄泉川雫と遭遇してしまう。
彼女は白を基調とした自転車から降りると、子どもが見たら泣き出しそうなくらい怖い表情で俺を睨みつけた。
足りない頭を振り絞って、言い訳を探す。
しかし、毎回テストで英語以外赤点を採る低スペック頭脳では、この窮地を切り抜ける方法を咄嗟に思いつくことはできなかった。
「何だ?正直に言ってみろ、嘘つきは泥棒の始まりだからな。泥棒予備軍を見逃す程、私は甘くないぞ?」
雫さんは獲物を追う獅子のような貫禄を醸しながら詰め寄ると、俺の胸倉をギュッと力強く握り締める。
「まさか恥部を穢れなき女の子に見せつけるために歩いてるんじゃないだろうな」
「んな性癖持ち合わせてねぇよ。あんたは俺をなんだと思っているんだ?」
「だったら、正直に言え。さもないと公務執行妨害でしょっぴくぞ」
雫さんの目が本気だったので、正直に答える事にする。
「……エロ本買いに行こうとしていました」
雫さんは目にも止まらない速さで、俺を背負い投げすると、地面目掛けて投げ飛ばそうとした。
慌てて彼女の背中の上で半回転した俺は、強引にその技から逃れる。
「うおっ!?あぶねえっ!!」
「お前が本当の事を言わないからだろうがっ!!」
彼女は眉間に皺を寄せると、着地したばかりの俺に怒りを露わにする。
「いや、本当だって!本当に俺はエロ本を買いに行こうとしているんだって!」
「嘘つけ!そんな古典的な言い訳が通用すると思うかっ!?」
「古典もなにも、本当に俺はエロ本買うためだけにここにいるって!」
「嘘吐くな!!そんなアホな理由で抜け出す程、お前はアホじゃないだろ!?エロ本買うためだけに深夜徘徊してるんだったら、かなりのアホだからな、お前!!」
「だったら、俺はかなりのアホだよ!!」
これ以上、彼女に真実を告げても無駄だと判断した俺は、一目散にこの場から逃げようと試みる。
「待てや、こらああああああ!!!!」
お巡りさんらしくない叫び声を上げる雫さん──元レディースの総長──は、現役陸上選手に勝るとも劣らない脚力で俺の後を追い始める。
「待てって言われて待つ馬鹿がどこにいるんだよ!?」
猛スピードで追ってくる雫さんを振り払うため、俺は懸命にダッシュし始める。
しかし、肉食動物を擬人化させたような存在である彼女から逃れる筈もなく。
このままでは捕獲されてしまうと判断した俺は、苦し紛れに普段人が通りそうのない細い裏道へ逃げ込んだ。
「ん?なにしているんだ、お前ら?」
路地裏に入った途端、怪しい行動をした怪しいローブを着た集団と鉢合わせしてしまった。
反射的に俺は彼らに質問を投げかけてしまう。
「貴様……!?何故、ここに入り込めた……!?」
「いや、普通に入り込んだんだけど……」
男達はアスファルトや石塀に魔法陣らしいものを書き込んでいた。
一眼見ただけで彼等が器物損壊している事が分かる。
公務執行妨害未遂犯である俺は、現在進行形で器物を損壊し続けている奴らを指差すと、俺の後を追ってきた雫さんにこう言った。
「あ、雫さん。変な奴らが変なことしているぞ」
「ああ、そうみたいだな。ったく、本当お前は悪運強いなあ!!」
彼女は指を鳴らすと、怪しいローブに身を包んだ男達を威嚇し出した。
彼女の注意が彼らに向けられた事を察知した俺は、この隙に逃げようとする。
「お前ら、そこで何やっている!?」
「くっ……!逃げるぞ、お前ら!」
「「「御意!!」」」
彼等は駆けつけた警官を見るや否や、一目散に逃げ出した。
彼等に続いて逃げようとした瞬間、雫さんに首を掴まれてしまう。
「寮長にチクられたくなければお前も手伝え!!」
このまま断ったら、首を絞められそうなので、俺は大人しく彼女の言う事に従う事にした。
「大体承知。雫さん、あいつら捕まえたら、寮長にチクるなよ!絶対にだぞ!!」
寮長に怒られたくないが故に、殺されたくないが故に、俺は彼女と共に逃げ惑う怪しい集団を追いかけ始める。
彼等は土地勘がないのか、それともただのアホなのか、自ら袋小路に入り込んでしまった。
「くっ……かくなる上は……!」
ローブを着込んだ男達は懐からアンティークな短剣を取り出すと、刀身を鞘から引き抜いた。
彼等のナイフの構え方を見るに、ナイフ術のプロという訳ではないのだろう。
現にナイフの切っ先は小刻みに震えていた。
多分、俺が参戦しなくても、元ヤンである雫さん1人でやっつけられる筈だ。
「器物損壊に銃刀法違反……か。しょっぴく理由には十分過ぎるな」
雫さんは大袈裟に拳を鳴らすと、怪しい男達に詰め寄る。俺は欠伸をしながら、彼女に声援を送った。
「雫さん、頑張ってください」
「お前もやるんだよ!寮長にチクるぞ、コラっ!!」
ローブを着た男達は全部で5人。俺1人でも十分対処できる数だ。
「この……!お前の所為で使命を遂行できなかっただろうがっ……!」
俺と歳が近そうな青年は、躊躇う事なく、俺の腹にナイフを突きつけようとする。
短剣の突きを最低限の動きで躱した俺は、躊躇する事なく、青年に背負い投げを浴びせた。
青年は受け身を取る事なく、呆気なく地面に落下すると、情けない声を上げて気絶してしまう。
「この……!」
今度は痩せぎすのローブを着た男が俺目掛けてナイフを無造作に振り回し始めた。
拙いナイフ捌きを軽快な動きで躱した俺は、隙だらけだった彼の顔面に右の拳を叩き込む。
「げふっ……!」
潰れたカエルみたいな呻き声を出すと、痩せぎすの男性は白目を剥いた状態で気絶してしまった。
「何だ、こいつら」
あまりにも雑魚過ぎる彼らに思わず呆れてしまう。
弱すぎて全然歯応えを感じなかった。
「そんなの私が知りたいくらいだ」
雫さんは白目を剥いて気絶している3人の男の上に腰掛けると、無線機を用いて同僚を呼ぼうとする。
エロ本を買いに行くチャンスだ。
俺は雫さんに気づかれないように、そろりそろり後退し始める。
そして、彼女の注意が俺から外れた事を確信すると、一目散にこの場からの退散を試みた。
「あ、こら、待てっ!!まだお前との話が終わった訳じゃ……!!」
俺が彼女に背を向けたと同時に怒声が飛んでくる。雫さんは静止を呼びかけたが、俺は聞く耳を持たなかった。
「すまん、雫さん!!俺、どうしてもエロ本と一緒に一夜を過ごしたいんだ!!」
一刻も早く空気人形と戯れたい俺は、全力ダッシュでこの場から逃げ出す。
気絶している不審者達を放置する訳にはいかない雫さんは、走り去る俺の背中にありったけの罵声を浴びせまくった。
それを軽く聞き流しながら、俺はコンビニに向かって走り続けた。
視界の隅に入った黒い雷に違和感を抱くことなく。
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