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4月26日(4) 「ほら、人狼達のオオカミモードって基本的に裸だろ?」の巻

 いつの間にか窓から入って来る陽の光が茜色に染まり始めた。

 そろそろ面会時間が終わってしまうと判断した俺は、病室を後にしようとする。

 他の人狼や待たせている美鈴には悪いが、彼等のお見舞いは明日以降にしよう。

 そう思いながら、俺はリュックの中に入っていた紙袋を取り出す。


「はい。これ、お見舞いの品。後でサイズチェックしといてくれ」


 そう言って、俺は病室から出ようとする。

 病室の扉に手を掛けた瞬間、小鳥遊の口からか細い声が漏れ出た。

 虫の羽音よりも小さな声。

 それでも、俺は彼女の言葉を聞き逃さなかった。

 照れ臭くさを感じながらも、ちゃんと彼女の言葉を聞いていた事を伝えるため、俺は彼女にVサインを送る。

 ベッドの上で毛布を包まっている小鳥遊は、俺のVサインを見ると、顔を真っ赤に染め上げた。

 小鳥遊は毛布の中に顔を埋めてしまう。

 彼女の病室から出ようとした瞬間、「また明日」という小鳥遊の言葉が聞こえてきた。

 「ああ、また明日」と返しながら、病室から出る。

 病室を出た瞬間、眠そうにしていた美鈴と遭遇した。

 どうやら彼女は廊下でずっと俺の事を待っていたらしい。

 ちゃんと空気が読める子だ。

 もしかしたら、俺より彼女の方が精神的に大人なのかもしれない。


「ごめん、美鈴。こんな時間になっちゃって」


「いいよ。小鳥遊君のお姉ちゃんにとって、必要な事だっただろうし」


 美鈴は眠そうに目を擦ると、俺に笑顔を送る。


「バイトリーダーの家までおんぶしてやろうか?」


「いいよ。自分の足でここまで来たから。せめて自分の足で帰りたい」


「じゃあ、待ってくれたお礼を兼ねて、近くのラーメン屋でも行くか」


「あ、それなら焼肉が良いかも!」


「今の俺にそんな金はありません」


 そんな事を駄弁りながら、俺と美鈴は白を基調とした廊下の上を歩き続ける。


「ところでお兄ちゃん。小鳥遊君のお姉ちゃんに何をあげたの?楓ちゃんと人狼さん達のお見舞い品を探している時、お兄ちゃんだけ別行動取ってたから何を買ったのか分からなかったけど、……一体、何を渡したの?」


「ああ、それなら……」


 俺はリュックから小鳥遊弟用に買ったペット用衣服──オオカミ状態の小鳥遊弟でもすっぽり入る特大サイズを取り出す。

 それを見た途端、美鈴は信じられないようなものを見るような目で俺を見つめた。


「ほら、人狼達のオオカミモードって基本的に裸だろ?毛皮で大事な所を隠しているとはいえ、やっている事は露出狂と変わらない。加えて、これから夏が始まる。小鳥遊も小鳥遊弟も換毛してしまうだろう。その所為で、今より大事な所が見えるようになってしまうに違いない。だから、オオカミモードの時に着れるよう、これを選ん……」


美鈴にペット用衣服 (特大)を選んだ理由を説明していると、背後から夥しい程の殺意を察知した。

 振り返る。

 そこには入院着に着替えた人型の小鳥遊が、般若みたいな形相を浮かべていた。


「じーんーぐーうううううう!!!!あんたねぇええええ!あんたねぇぇぇぇえええええ!!!!」


「ど、……どうしたんだ?"一匹狼"、そんな殺気立って……はっ!まさか、"絶対善"がこっちに向かっているのかっ!?」


「お兄ちゃんの要らない気遣いに怒っているんだと思うよ。ペット用の服あげる事さえ失礼な行為なのに、大事な所を隠すように服をあげる事が火に油注いでいるというか……暗に大事な所見えてますよって言っちゃってるというか……」


「あー、大体承知。そういう事か。すまん、"一匹狼"。言葉が足りなかった。お前の大事な所は見てないぞ」


 美鈴の的確な説明により、俺は小鳥遊の地雷を的確に踏んだ事を理解する。


「ていうか、興味がない。Gカップ以上になってから出直してくれ」


 俺の一言の所為で小鳥遊の額に血管が浮かび上がった。

 うん、やっぱ俺に女心を理解する事は無理そうだ。

 めちゃくちゃ難し過ぎる。


「いや、お兄ちゃんがデリカシーなさ過ぎるだけだと思うよ」


「俺の心を読むなって」


 そんな事を言っていると、殺気立った小鳥遊が、威嚇するような声を上げながら、俺に襲いかかろうとする。

 俺は美鈴を米俵のように抱えると、小鳥遊から逃げるため、全力疾走し始めた。


「ちょ、"一匹狼"!!お前、怪我人だろ!?そんな走ったら入院長引くぞっ!!」


「うっさい!!1回殴らせろっ!!この獣に欲情する変態ケダモノがっ!!!!」


「誤解だって!俺、お前のデリケートゾーンなんか見てねぇし!!てか、獣に興奮する程、俺の性癖は広くないしっ!!」


「ちょ、お兄ちゃん!この抱っこ、めちゃくちゃ上下に揺れるんだけど!?吐くよ!?私、これ以上この態勢続けたら、遠慮なくオエーッってするよ!!」


「その時はあいつに向かって吐き出せ!ゲロビームだ!!」


「そんなビーム発射したくないんだけど!?」


「待てや、こらあああああ!!!!」


 全力疾走で小鳥遊から逃げる。

 こうして、俺はめでたく桑原病院従業者に嫌われる要素をまた1つ獲得してしまった。



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。

 皆さんのお陰でこの作品の総合ポイントが500pt(4月30日15時現在)になりました。

 厚く厚くお礼を申し上げます。

 次の更新は18時頃を予定しております。

 完結まで残り5話になりましたが、最後の最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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