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4月23日(25) アウトサイダーの巻

 地面を思いっきり蹴り上げる。

 ガラスの竜との距離を縮めるために、走り始める。

 1歩踏み込んだ途端、息苦しさを覚えた。肺の中にあった酸素が尽きかけた。

 疲れで身体が地面に減り込みそうになっ た。

 今、俺が息苦しさを覚えているのは、身体が鉛のように重いのは、無駄に力が入っているから。

 無駄な動きをしているからだと自覚する。


 ──だから、俺は無駄な力が入らないように、無駄な動きをしないように、無駄な要素を全て排除した。

 無駄な力が入らないように意識をしながら、無駄に動かないように心掛けながら、俺は砂浜に足を減り込ませる。

 一瞬で身体に入っていた無駄な力がなくなった。

 羽根のように軽くなった身体を動かす。感じていた息苦しさも無駄な動きをしないように意識しただけで消え失せてしまった。

 音速速さでガラスの剣が迫り来る。

 絶体絶命の危機を前にした所為なのか、音の速さで飛翔しているにも関わらず、何故か俺は剣を目で追う事ができた。

 迫り来る音速の剣を無駄のない動きで避け切る。

 光の柱が背後に落ちたかと思いきや砂浜に大きな穴を開けた。

 攻撃を避けた瞬間、俺の視界の色は白と黒だけになる。

 夜空も砂浜も、そして、目の前にいる超越者も漫画の真っ白になってしまう。

 唯一色が付いているのは、ガラスの竜だけ。

 風景画のラフ画みたいな光景に唖然としていると、俺の周囲は赤色のスポットライトに照らされる。

 そのスポットライトを見た途端、俺はこの色がついている範囲に攻撃が飛んでくるのを本能的に理解した。

 スポットライトの光源が時間が経つにつれ強くなる。

 攻撃が接近している事を肌で感じ取る。

 赤の光源の方を見た。

 俺の動きが最適化されたのを認識した途端、ガラスの竜は口に魔力を溜め始めていた。

 いつも以上に速いスピード──人類の限界を超えた速さで砂浜を駆け始める。

 文字通り"一瞬で"竜が光線を吐き出せない距離まで詰める事ができた。

 ガラスの竜は口から光線を吐き出すのを中断すると、四方八方からガラスの飛礫を発射しようとする。

 白を基調とした世界に濃い赤光の筋が点在した。

 降り注ぐ赤光に重ならないように、速度を殺さないように意識しながら、俺は無駄のない動きかつ最適最低限の動きで、奴の間合いに入り込む。

 走りながら攻撃を躱していると、ガラスの剣が破裂した。

 剣から生じた爆炎と爆風は俺に届く事なく、消え失せてしまう。

 ガラスの竜は爪で俺の身体を切り刻もうとする。

 奴が爪を振るうだけで文字通り空間に穴が空く。

 その攻撃を躱しながら俺はある確信を抱く。

 今の奴に世界を滅ぼせるだけの力がない事を。

 今の奴はまだ完全に力を取り戻せていない事を。

 今の奴はガイア神よりも少し強い程度でしかない事を。

 だから、広範囲の攻撃をしたとしても、東雲市を一瞬で焦土にする事なんてできない。 

 精々、この砂浜を灰にする事しかできないだろう。

 それでも僅かな時間ではあるが、溜めの時間を必要とする。

 と、言っても今の最適かつ無駄のない動きをする俺には溜めの時間がなくても、広範囲の攻撃を当てる事はできないだろう。


「──っ!」


 竜の万物を切り裂く攻撃を避け切った俺は、奴の身体に青色の亀裂が走っている事に気づく。

 その亀裂は竜の顳顬を起点に広がっていた。

 あの亀裂の起点が奴の弱点である事を本能で察知する。

 俺は短く息を吸い込むと、ガラスの竜が繰り出す前脚の打撃を紙一重で避ける。

 そして、奴の前脚の上に乗った。

 奴の前脚から身体を駆け上る。

 瞬く間に奴の頭上──地面から20メートル以上離れた地点──まで辿り着く。

 自分でも驚くくらい身体は軽かった。

 自分でも信じられないくらい速いスピードで駆け上った。

 多分、今の俺の動きは人類の常識を遥かに超えているだろう。


「──到達者(アウトサイダー)……」


 ガラスの竜はか細い声で呟く。

 俺は特に声を発する事なく、奴の身体に走る青い亀裂の起点目掛けて、右の拳を叩き込む。

 右の籠手を使っていない一撃。

 にも関わらず、何の変哲もない拳を受けただけで、ガラスの竜の鱗は粉々に砕け散ってしまった。


「あ、ああ……!!」


 ガラスの竜から嗚咽が漏れる。 

 その声を聞いた途端、今さっき自分の拳が破壊したのは、"絶対善"から奪い取った力そのものである事を本能的に知覚した。


「せ、折角、ここまできたのにぃいいいいいい!!!!」


 ガラスの竜は間抜けな断末魔を上げると、光の粒子と化してしまう。

 俺は受け身を取る事なく、最適かつ最小限のモーションで砂浜の上に着地した。

 かなりの高さから落下したにも関わらず、両足で着地したにも関わらず、痛くも何ともなかった。


「う、嘘でしょ……この私が、こんな……おまけみたいな感じでやられるなんて……」


 白と黒だけしかない世界に色が戻る。

 正常な状態に戻った視界で先ず最初に映り込んだのは、ボロ雑巾状態になった"ガラスの皇女"の姿だった。

 竜の姿の時に感じていた威圧感は一切感じられない。

 多分、俺が弱点を突いた所為で"絶対善"から奪い取った力を失ったのだろう。


「ポッと出の黒幕には相応し過ぎる末路だろ」


 ガラスの皇女は渇いた笑みを浮かべると、眠るように気絶してしまった。


(……何だったんだ、今の……)


 先程の超人的な動きとモノクロの視界を思い出しながら、自分の両手を見つめる。

 今さっきの動きと視界は──俺の感覚が正しければ──魔法や魔術といったものではない。

 右の籠手の力でもない。

 ただ無駄な動きと力を省いただけだ。

 今の俺の身体能力を無駄なく使った事により、発揮できたもの。

 視界だってそうだ。

 必要最低限の情報を取り入れて思考を高速化しようとした結果、あんな視覚イメージが形成された。

 あの無駄のない動きとモノクロの視界のお陰で、俺はガイア神よりも強い筈の竜を苦労する事なく、手応えなんか感じる事なく、一瞬で無力化できた。

 先程、彼女が言っていた"神域"という言葉を思い出す。

 もしかしたら、あれが"神域"というものだったのか?

 "絶対善"が急激な進化を果たして神域とやらに入ったように、俺もガラスの竜という桁違いの存在と並ぶため、急激な進化を果たしたのだろうか?

 そんな事を考えていると、人の気配を感じ取る。

 その方向を見ると、四季咲と小鳥遊弟が遠くの雑木林の中に点在していた。

 彼等が無事だった事を確認すると同時に、俺は無駄のない動きを止めてしまう。

 

 ──それが間違いだった。


「あ、やべ」


 1歩足を動かした途端、俺は疲労と酸欠により、一瞬で意識を喪失してしまった。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくださった方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。

 あと少しで本編は終わりますが、最後の最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

 また、この場を借りて4万PV達成記念短編の告知をさせて貰います。

 4万PV達成記念短編は5月7日金曜日に複数話投稿致します。

 具体的な投稿時間は活動報告・Twitter(@norito8989)・(@Yomogi89892)でさせて貰います。

 5万PV・6万PV・7万PV・8万PV達成記念短編も5月以降毎週金曜日に複数話投稿できたら良いなと考えています。

 前回の短編の反省を活かして、面白いものに仕上げてくるので、本編終了後ももう暫くお付き合いくださると嬉しいです。

 これからもよろしくお願い致します。

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