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4月23日(23) 決着の巻

 息を切らしながら、俺は"絶対善"が起き上がるのを待つ。

 彼は数分以上時間をかける事で、再び上半身を起き上がらせた。

 そして、俺の方に右掌を突きつけると、赤い稲妻を右腕に蓄積し始める。


「死…………っ!?」


 だが、俺の背後に視線を送った彼は、純粋な子どもみたいな表情を浮かべると、そのまま、眠るように意識を失ってしまった。

 彼の右腕に蓄積された稲妻が、夜の空間に溶け込んでしまう。

 俺は彼が気絶する事を確認すると、背後に視線を送った。

 俺の背後にある雑木林の方を見る。

 オオカミ姿の小鳥遊弟の姿が先ず目に入った。

 遥か後方にいる四季咲達よりも前の位置にいるため、彼の姿が真っ先に視界に映し出された。

 恐らく、"絶対善"は小鳥遊弟を見たのだろう。小鳥遊弟の姿に何か思う所があったのだろう。彼の背景を知らない俺は、何故彼が諦めたのか予想する事はできても、完璧に理解する事はできなかった。

 背後にいる小鳥遊弟にVサインを送る。

 彼は俺の元気そうな姿を見ると、笑みを溢した。

 彼の笑顔を認識した途端、とうの昔に限界を迎えていた俺の身体は、何の前触れもなく、血に染まった砂浜の上に伏せてしまう。


 ──その時だった。


「やっと気絶してくれた。これで神造兵器を回収できるわ」


 聞き覚えのある声が響き渡ったのは。

 この声には聞き覚えがある。

 金郷教騒動の時、ガラスの塔で遭遇した美女の声だ。

 疲れ切った身体を無理に動かし、声の主の方を見る。

 そこには美鈴の容姿と酷似した──多分、美鈴が大人になったら彼女のような容姿になるだろう──美女が立っていた。


「"絶対善"がこの時点で"神域"に達してしまうのは予想外だったけど、これはこれで嬉しい誤算だわ」


 突如、現れた美女は気絶した"絶対善"の下へ歩み寄る。

 彼女から発せられている雰囲気から、嫌な予感がした。

 起き上がろうとする。

 が、腕に力が入らない。

 立ち上がろうとする俺に気づいたのか、彼女は妖艶な笑みを浮かべると、俺にお礼の言葉を告げた。


「ありがとね、泥棒猫のお気に入り。貴方のお陰で、私は元の姿に戻れそうだわ」


「元の……姿……?」


「泥棒猫から聞いてないの?私が外来神である事を」


 聞き慣れないワードを口にしながら、気を良くした美鈴似の美女は言葉を紡ぐ。


「数年前、『神堕し』を行った金郷教は、平行世界から始祖を呼び出して、始祖から力を根刮ぎ奪い取ったの。その力を奪い取られた間抜けな始祖が私って訳」


 『始祖』『平行世界』『外来神』というワードには聞き覚えはない。

 しかし、金郷教というワードだけは知っている。

 その金郷教が『神堕し』──美鈴という神の器を使う事で、神をこの世界に降ろそうとする魔術──した事も。


「だから、私は奪い取られた力を取り返すために暗躍していたのよ。たとえば、そこの

神器でやろうとした『神堕し』。あの時、私はこの世界の始祖である"ガイア"の分霊を吸収する事で力を取り戻そうとしたの。けど、あんたがガイアの分霊を殺しちゃった所為で、私の企みは見事に失敗しちゃったわ」


 金郷教騒動を裏で手を引いていたのが、目の前の美女である事を理解する。


「まあ、失敗には慣れっこだから、特に気にしていないんだけどね。だから、私はすぐに切り替えたわ。貴方が壊した天使を使って、力を取り戻そうとした。天使を成長させて、神域に辿り着かせれば、力を取り戻せるかもしれないからね。神になりたがっている凡人と人狼の女の子に天使を宿らせたんだけど、これもあんたが天使を倒しちゃった所為で頓挫しちゃった訳」


 魔女騒動の元凶を作ったのも小鳥遊の身体に天使が宿ったのも、彼女の所為である事に気づかされる。


「だから、私は天使があんたに壊された時の事を想定して、"絶対善"をこの地に呼んだの。そして、神造兵器を着けているあんたを誘き出すために、そこの神器と人狼の子どもを引き合わせたって訳。あんたと"絶対善"をぶつけさせ、"絶対善"を神域に至らせるために」


 この騒動も彼女の所為で引き起こされた事を、そして、俺達が彼女の掌の上で転がされていた事に今からながら気づく。


 今の情報で大体把握できた。

 バイトリーダーが追っていた"ガラスの皇女"はあいつだ。

 何故、バイトリーダーが追っていたガラスの皇女がここにいる?もしかして、あいつ、やられたのか──?


「結果、"絶対善"は私の予想以上の進化を遂げたわ。力を全く使いこなせていないけれど、始祖を模した姿に変化できた訳だし。この力さえあれば、私は元の姿に戻る事ができるわ」


 猟奇的な笑みを浮かべる彼女を見て、俺の脳裏に"絶対悪"という単語が過ぎる。

 人々が思い浮かべる倫理的な"絶対悪"ではない。

 生物的に──進化論的に"絶対悪"なのだ。

 彼女は"そこにいるだけ"で人類という種の繁栄を妨げる存在。

 今は始祖とやらの力を取り戻していないから、人類の繁栄を妨げていないだけで。

 もし彼女が力を取り戻したら、人類という種に未来はないだろう。


「あんたというジョーカーはクソみたいな神器を使った所為で、身動き1つ取れない。泥棒猫はソウスケが足止めしている。トリックスターである松島啓太郎も国際魔導組織『magica』も『価値なきものに金塊を(デウス・X・マキナ)』も他の外来神も神域に至った『神域到達者(アウトサイダー)』もこの場にいない。──つまり、私を止められる奴は、今、この世界にいないって訳──!!」


 肺の中に息を詰め込んだ俺は、勢い良く跳び上がる。しかし、鉛のように重い身体は再び地面に沈んでしまった。

 俺の背後から七色の魔弾が飛翔する。

 四季咲のものだ。

 俺同様、美女──"ガラスの皇女"の行動に危機感を覚えた彼女が、攻撃を仕掛けたのだ。

 しかし、四季咲の魔弾はガラスの皇女が出したガラスの盾によって遮られてしまう。


「言ったでしょ」


 "ガラスの皇女"は"絶対善"の身体に手を突っ込む。そして、彼の身体から赤黒い雷の塊を取り出した。


「──今の私を止められる奴はこの世にいないって──!!」


 赤黒い閃光が俺の視界を埋め尽くす。

 "ガラスの皇女"の嬉しそうな高笑いを知覚しながら、俺は"絶対的な悪"が再誕した事を本能的に理解した。


 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、本当にありがとうございます。

 そして、新しくブクマしてくれた方、この作品に感想を送ってくれたワンコ小炉さんに厚くお礼を申し上げます。

 頂いた感想・ブクマ・評価ポイントは、今後の執筆の糧にさせて貰います。

 本当にありがとうございます。


 また、この場を借りて告知致します。

 5月4日から新連載「願望が叶うとしたら」を連載させて貰います。

 特別な存在になりたがっている少年が不器用だけど心優しい少年と共に人々を襲う未確認生命体を倒していくお話です。

 公募用に書いたものですが、満足できる出来にならなかったため、この場を借りて掲載させて貰おうと思います。

 本作品同様、毎日12時頃に更新しますのでよろしくお願い致します。

 

 次の更新は明日の12時頃を予定しております。

 あと少しで完結致しますが、応援よろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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