4月23日(17)VS絶対善/赤雷の神槍と不壊の盾の巻
「四季咲っ!ちょっと衝撃走るぞっ!!」
ジェット機のように飛翔する"絶対善"を足止めするため、俺は反発の力を──四季咲の身体に負荷がかからないように気を遣いながら──使用する。
が、手加減した程度では奴を足止めする事はできなかった。
反発の力を物ともせず、奴は俺らとの距離を着実に縮めていく。
「くそっ……!」
接近する"絶対善"を睨みつける。
ここでようやく"絶対善"の右手に"棒状の何か"が握られている事に気づく。
棒状の何かは赤黒い雷を纏っていた。
「な、なんだ……?あの武器……?なんか天使の力みたいなのを感じるが……」
『雷霆』
四季咲のポケットから聞き慣れた声が聞こえて来る。
こちらに迫り来る"絶対善"を警戒しながら、俺は彼女のポケットからワイヤレスイヤホンに似た物体を取り出した。
『異界の神デウスが振るった神造兵器。形状は不明。不壊の盾が無敵の防具であるなら、雷霆は神話最強の武器と称されている』
イヤホンから美鈴の声が漏れ出た。
このイヤホンは魔術の力により、遠隔でも会話できる事を思い出した俺は、警戒しながら美鈴の話に耳を傾ける。
『これは私の推測で何の確証はないんだけど、多分、"絶対善"は膨大な魔力と尋常じゃない怒りによって、偶発的に神造兵器を造り出したんだと思う。神造兵器を造り出してしまった代償により、あの人は理性を神造兵器に呑まれてしまったんだと推測するよ』
ガイア神の器として神造兵器を造り出した事のある美鈴は、自分の推測を俺達に述べる。
「じゃあ、あの武器を破壊すれば、あいつは元に戻るのか?」
『理性が戻るかどうかは分からないけど、少なくとも、あの人が身に纏っている雷は消えると思うよ。ただ、たとえ人の手により造り出された事で性能が落ちたとしても、雷霆は怒りによって造られた概念的な武器である事には変わりない。たとえお兄ちゃんがアイギスを持っていたとしても、あの人が怒りを捨てない限り、雷霆は何度でも再生すると思うよ』
「大体承知。じゃあ、アレを破壊する方法はないって事なんだな?」
『そういう訳でもないよ。怒りで全てを滅ぼせるんだったら、この世界は神話の時代に終わっている。幾ら神造兵器とはいえ、所詮、人の手で造り出されたもの。神が造ったものと違って、神が造ったものを偶然模しただけだから、完成度はかなり低い。だから、破壊は可能だと思うよ。幾ら雷霆が宇宙を焼き尽くす程の火力があったとしても、怒りというものは持続的に続くものじゃないし。どっかのタイミングで破壊するタイミングは見つかると思うよ』
「美鈴、何でも良い。そのタイミングとやらを俺に教えてくれ。俺じゃそのタイミングとやらを見出す事ができないかもしれない」
"絶対善"は手に持っている最強の矛を無造作に振り始める。
奴が最強の矛を振るう度に、電撃波が隕石のように振り落ちた。
俺は右の籠手を使いながら、四季咲は巧みなドライブテクを酷使しながら、攻撃を次々に捌き避けていく。
『強いて言うなら、怒り以外の感情が湧いた時かな?或いは完全に気絶させるとか。……いや、神造兵器がある限り、気絶する事はないから、怒り以外の感情を引き出す方が確実だとは思う』
「怒り以外の感情ね、大体承知……!!」
周囲の空間が真っ赤に染め上がる。
"絶対善"は槍に似た形状し難い武器に膨大な魔力を叩き込むと、俺の周囲を焼き払おうとした。
瞬時に右の籠手を傘みたいな形に変形させ、自分と四季咲の身を守ろうとする。
「四季咲っ!身を屈めろっ!!」
四季咲に指示を飛ばした瞬間、巨大な赤雷が振り落ちる。
傘の形に変形した籠手で雷を受け止めた俺は、飛んで来た雷の一部を即座に反発。
攻撃をそのまま"絶対善"に返した。
(くそ……!あまり効いてなさそうだな……!!)
右の籠手を元の形に戻した俺は、無傷の"絶対善"を見て、軽く絶望感に浸る。
どうやらあの見に纏っている赤雷は、見た目通り鎧のような役割を担っているらしい。
「神宮っ!あと1分くらいで砂浜に到着する!!このまま、砂浜に突っ込むから、着地を頼んだ!!」
「大体承知っ!お前は引き続き、運転に集中してくれ!!こっちは俺が何とかするからっ!!」
俺は右の籠手で捌きながら、四季咲は水上バイクを蛇行運転させながら、何とか攻撃を凌いでいく。
だが、攻撃を凌ぐ度に、"絶対善"は攻撃の精度を上げていった。
このままじゃジリ貧だ。砂浜に到着する前に撃墜されてしまう。
「四季咲っ!作戦変更だっ!!ハンドルから手を離せっ!!」
「!?──わ、分かった!!本当にハンドルを手放して良いんだなっ!?」
「ああっ!ハンドル離したら俺に抱きつけっ!飛ぶぞっ!!」
"絶対善"は水上バイクに乗る俺ら目掛けて、形状し難い武器"雷霆"を投擲する。
投擲された武器は空を駆ける度に徐々に巨大化していった。あの攻撃は俺らの周囲──直径5キロメートルを火の海に変える事を本能的に理解した。
俺は四季咲が抱きついたのを皮膚感覚で察知すると、右の籠手の力を使って、飛んで来る攻撃を反発の力で押し返そうとする。
全力の反発。
それにより、神造兵器による一撃は"絶対善"の下に返り、俺と四季咲の身体は遥か後方にある砂浜へと飛んでいく。
俺は四季咲の身体を傷つけないように、宙で一回転すると、受け身を取る事なく、背中から砂浜にダイブしてしまった。
「ぐっ……」
「神宮、大丈夫かっ!?」
下が砂浜だったからなのか、想定していたよりも身体にダメージは蓄積されていなかった。
俺は上半身を起き上がらせると、俺を心配している四季咲に声を掛ける。
「ああ……それより、四季咲、今すぐここから離れてくれ。ここは危険だから」
服に染み込んだ海水の所為で付着した砂を煩わしいと思いながら、俺は"絶対善"の方を見る。
先程、跳ね返した攻撃により、上空には太陽と見間違う程の爆炎が上がっていた。
「……"絶対善"はあの攻撃を喰らって、健在なのか?」
「分からない。が、用心して損はない筈だ。……もし奴が健在かつあんな大規模な攻撃を何発も放てるんだったら、俺はお前を守り切る事はできない。四季咲、できる限り遠くに避難してくれ。なるべくお前が逃げた方向に攻撃が来ないようにするから」
四季咲はいつもに増して緊迫感のある俺の声を聞いて、一瞬だけ躊躇う。
が、最終的には俺の言う事を聞いてくれた。
「死ぬなよ、神宮。まだ私は君に恩を返せていない」
そう言って、四季咲はこの場から立ち去ろうとする。
彼女が砂浜に隣接している雑木林の中に入った所を見届けた俺は、突如砂浜に現れた人影に声を掛けた。
「あいつが去るのを待っていたのか?」
瞬間移動して来た赤黒い稲妻を身に纏う"絶対善"は、俺の言葉に反応する事なく、両手で武器とは呼べない形状の武器を握り締める。
奴の瞳に理性の光は灯っておらず、曇ったガラスのような目は漆黒に染まっていた。完全に神造兵器に──いや、怒りに呑まれてしまった事を理解する。
もし俺がもう少し奴に気を遣っていたら、奴はここまで怒り狂う事はなかっただろう。
だが、あの発言を吐き出した事に後悔なんてものは抱いていない。
あの言葉──奴が憎んでいる牛の魔族と同じ事をしている事実──は、誰かが言わなきゃいけない言葉だったから。
たまたま今回、俺が言わなきゃいけない役割を担っただけ。
遅かれ早かれ誰かが彼に言わなきゃいけない言葉だったのだ。
あの言葉を掛けた事は、間違ってはいないが正しくもない。
もっとウエットに富んだ言葉を掛ける事もできた筈だ。
反省の余地は多分にある。
「…………行くぞ、"絶対善"。最終ラウンドだ」
本当、この世界は"間違ってはいないが、正しくもない"事が多過ぎる。
善悪が絶対的なものだったら、哲学者なんてもんは存在しなかっただろうし、俺達人間はここまで悩まなくても良かっただろう。
善と悪を簡単に二分化できるのなら、ここまで苦悩しなかっただろう。
右の拳を握り締め、"絶対善"の攻撃がいつ飛んできても良いように身構える。
俺の気配を察知した怒りの化身が、形状し難い武器を掲げる。
海風が砂浜を軽く撫でると同時に、俺と"絶対善"は同時に地面を蹴り上げる。
神話最強の武器と神話最硬の盾がぶつかり合うと、砂浜を白雷と赤雷で埋め尽くした。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方、本当にありがとうございます。
本日4月19日11時時点、この作品のブクマ件数が150になりました。
ブクマしてくださった150人の方に厚く厚くお礼を申し上げます。
残り半月でブクマ200件いくかどうか分かりませんが、今度はブクマ200件いけるように頑張りたいと思います。
これからも完結まで毎日更新致しますので、応援よろしくお願い致します。
次の更新は明日の12時頃を予定しております。




