4月23日(16)VS絶対善/水上バイクの巻
頭を掻きながら、俺は四季咲の提案を素直に受け入れる。
「分かった。お前にかかる火の粉は俺が振り払ってやる。だから、俺を砂浜まで連れて行ってくれ」
「委細承知。さ、運転するから私に掴まってくれ」
覚悟を決めた俺は、四季咲の指示に従おうとする。
だが、どこを掴めば良いのか、幾ら考えても分からなかった。
「……四季咲、どこを掴めば良いんだ?」
「私の身体だ。どうやらこの機体は1人用みたいでな。2人乗りなら背後に座る人用にロープみたいなものが付いているのだが……」
「てか、お前、これをどうやって手に入れた?もしかして、ここに自家用の奴を置いていたのか?」
「まさか、勝手に借用したのだ。美鈴ちゃんから教わった鍵開けの魔術とやらでな。大丈夫、しっかり後で弁償するから」
「盗品じゃねぇか!今すぐ戻して来い!!」
「大丈夫だ、もし壊したらしっかり弁償するから」
「そういう問題じゃないと思うんだが!!」
「その話は後でしよう。今は時間がない。神宮、早く私に掴まってくれ」
「掴まるって……え?お前に?え?どこを掴めば良いの?え?」
「どこでも良いだろう。さ、早く掴まってくれ」
四季咲に急かされたので、俺は恐る恐る彼女の海水を多分に含んだ服を掴む。
「服が破けたらどうするんだ?もっとちゃんとした所を掴んでくれ」
「ちゃ、ちゃんとした所……?」
一瞬、それなりに大きい四季咲のおっぱい部分が頭を過ぎる。
が、今、彼女のおっぱいなんて掴んだら、ガチで海の底に沈められそうなので、俺は恐る恐る彼女の長い金髪を両手で掴んだ。
「いや、そこは1番ないだろう。君は私の頭部に何か恨みがあるのか?」
「カツラにしたら売れるかなって」
「羅生門の老婆でも生きている人から毟り取ろうとしなかったぞ。髪以外の所を掴んでくれ。私はまだ禿げたくない」
「じゃあ、こうか?」
俺は四季咲を背後から抱きしめる。
(母さん曰く、この抱きしめ方はあすなろ抱きと呼ばれるものらしい)
「…………神宮、それだと首が絞まってしまう。普通に腰に掴まって欲しい。頼むから」
振り返る事なく、四季咲は腰に抱きつけと指示を飛ばす。
「ああ、腰ね。大体承知」
四季咲の胴体を抱き締める。
彼女は俺が掴まった事を皮膚感覚で認識すると、ジェットスキーを走らせ始めた。
「四季咲、とりあえず、"絶対善"の方に近づいてくれ。ここからじゃ幾ら大声出しても、奴に届かない」
振り下ろされないように四季咲と密着しながら、彼女に指示を飛ばす。
が、幾ら返事を待っても彼女から返事は返ってこなかった。
「……四季咲さん?」
「あ、ああ!ちゃんと聞いているぞ!!うん!!"絶対善"に近づけば良いんだな、うん!!分かっているぞ!!」
四季咲の声は裏返っていた。
その声により、俺は彼女が動揺している事に気づく。
原因は恐らく密着している俺だろう。
異性として意識していてもしていなくても、恋人じゃない異性が密着しているのだ。
健全な高校生なら、動揺して当然だと俺は思う。
俺だって顔に出さないだけで、かなり動揺しているし。
たとえ四季咲の事を異性として見ていなくても、こんだけくっついている今は異性として見ざるを得ないというか。
微かに匂う彼女の香りが俺を魅了しているというか。
ちょっと言語化するのは難しいが、とりあえず、俺は異性と密着するという慣れていないシチュエーションの所為でかなり動揺していた。
でも、今はラブコメしている場合じゃないので、敢えて彼女の動揺に気づかなかった事にする。
「四季咲、俺が"ゴー!"って言った瞬間、砂浜に向かって水上バイクを走らせてくれ。飛んで来た攻撃は俺が全部弾く。お前は砂浜に着く事だけを考えてくれ」
「わ、分かった……!」
港で暴れている"絶対善"との距離が100メートルを切った所で、俺は瞬時に右の籠手を装着すると、右の籠手から白雷を放出する。
海面を真っ白に照らし上げた瞬間、コンテナ港で暴れていた"絶対善"が、常夜灯に群がる羽虫のように俺の方に視線を向けた。
奴の罅割れたガラスのような目が、俺の姿を捉える。
それを認識した俺は、四季咲に指示を飛ばした。
俺のゴーサインを聞いた瞬間、四季咲は水上バイクの速度を上げる。
法定速度よりも遥かに速いスピードで水上バイクは海原を掻き分けて行く。
が、それよりも速いスピードで赤い悪魔みたいな姿になった"絶対善"は、俺達との距離を確実に着実に堅実に詰めていった。
「四季咲っ!ちょっと衝撃走るぞっ!!」
ジェット機のように飛翔する"絶対善"を足止めするため、俺は反発の力を──四季咲の身体に負荷がかからないように気を遣いながら──使用する。
が、手加減した程度の威力では奴を足止めする事はできなかった。
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