4月23日(14)VS絶対善/「本当にそう思っているのか?」の巻
もうこれ以上、暴力を振るう必要はない。
そう思った俺は、彼と話し合おうとする。
"絶対善"に一歩歩み寄った瞬間、彼の身体から赤黒い稲妻が少しだけ漏れ出た。
「──っ!?」
その稲妻を見た途端、俺の背筋に悪寒が走る。
その稲妻は天使の力と酷似しているような気がした。
確証はない。
ただの勘だ。
周囲を見渡す。
幾ら見渡しても天使らしき姿も形も見えなかった。
「俺が、あいつと同じだと?」
魔力なんて殆ど残っていない筈の"絶対善"は、膨大な稲妻を体外に放出する。
その余波により、俺の身体は吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされた俺は、急いで体勢を整える。
「あいつは……村の人達に助けられたってのに、その恩を仇で返したんだぞ?俺の家族を……幼馴染みを……笑いながら殺したんだぞ?それを知ってて、お前は俺をあいつと同じだと言うのか?」
俺は"絶対善"の言葉に耳を傾けながら、彼の瞳をじっと見つめる、
「何も知らない癖に……あいつが……魔族が……犯した罪を何も知らない癖に……!知った口を叩いてんじゃねぇぞ!!!!ヒーロー気取りがああああ!!!!!」
赤黒い稲妻が"絶対善"の身体を覆い尽くす。
稲妻は彼の怒りと呼応しているように迸った。
「知らねぇなら教えてやるっ!!俺の家族はなぁ、今のお前みたいに魔族に救いの手を差し伸べた!!その結果、助けた魔族に殺されたっ!!それだけじゃねぇ!!あいつは俺の故郷を全て焼き払った!!女子供を全て性玩具みてえに消費した!!反抗した男達をサンドバッグみてえに遊びやがった!!あいつは……あの牛の魔族は……人の尊厳を踏み躙りまくったんたぞ!!!!それなのに……お前は、奴と俺を同一視しやがった……!!!!何も知らねぇ癖に……!!お前は俺を"絶対悪"と罵った……!!!!」
彼の地雷を踏んだ事を瞬時に理解する。
"絶対善"は知っていたのだ。
時代が変わっても場所が変わっても変わる事のない"絶対悪"の存在を。
そして、魔族に情けをかける事の愚かさを。
彼は理解した上で、俺の言葉を拒んだのだ。
もう2度と自分の家族みたいな人を増やさないように。
"過去を知った所で未来は変えられない"。
その価値観に固執した所為で、彼の話をちゃんと聞かなかった所為で、俺は"絶対善"に言ったらいけない言葉を言ってしまった。
俺の独り善がりの価値観の所為で、彼の心の地雷を起動させてしまった。
自分の愚かさを認識する。
反射的に謝罪の言葉が口から飛び出そうになる。
けど、俺は彼に謝罪の言葉を告げなかった。
「同じだよ」
ここで引いてしまったら、小鳥遊も小鳥遊弟も"絶対善"の憎悪に焼き殺されてしまう。
ここで"絶対善"を止めなかったら、彼は憎しみにより近い将来自滅してしまう。
ここで彼を止めなかったら、誰も救われない。
だから、俺は一歩も引く訳にはいかない。今、俺が選ぼうとしている選択肢は間違っていないが正しくはない。
同じように、"絶対善"が選ぶ選択肢も正しくないが間違ってはいない。
もし俺が賢い人間だったら、最善の選択肢を選ぶ事ができただろう。
俺が聡い人間だったら、暴力以外の解決方法で彼を止める事ができただろう。
「今のお前は、お前の家族を殺した魔族と一緒の事をやっている。自分の思いを優先し過ぎるあまり、他人の思いを蹂躙している。今、お前がやっている事は間違ってはいないけど、正しいものじゃない。ただの独り善がりだ。その道を辿っても、誰も……お前自身も幸せにはなれない」
"絶対善"の容貌は変化していく。
赤黒い稲妻は歪で凶々しい形に変貌していく。
「……お前はあの人狼の子に自分が味わった痛みを──大切な人を失う痛みを味合わせるつもりなのか?」
「俺はお前や父さん達みてぇな過ちは犯さねえ……!!魔族に同情心は抱かない……!!魔族は悪。畜生如きに人間の感情なんか理解できねぇんだよ……!!」
赤黒い稲妻に覆われた"絶対善"の背中から、禍々しい翼が生え出る。
翼が生えたと思った矢先、今度は彼の頭から角が生え出た。
禍々しい稲妻の鎧に身を包んだ彼の姿は"悪魔"以外の何者でもない。
本能で理解する。
彼は天使と同じ領域に至った事を。
ガイア神と同じ領域に至ろうとしている事を。
「……本当にそう思っているのか?」
"絶対善"のガラスのような瞳に再び罅が生じる。
彼は俺の言葉を掻き消すくらいの声量で思いっきり叫ぶと、突風を巻き起こした。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、そして、ブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方に感謝の言葉を申し上げます。
本日で「価値あるものに花束を」を投稿し始めて3ヶ月経過しました。
3ヶ月前は『ブクマ100件超えるなんて無理だろうな』と思っていましたけど、皆さんのお陰で超える事ができました。
本当にありがとうございます。
厚くお礼を申し上げます。
あと半月程度で連載終わりますが、最後までよろしくお願い致します。




