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4月23日(12)VS絶対善/立ち上がり続ける彼の巻

 空に浮いていた"絶対善"は地上に降り立つ。

 多分、遠距離・中距離からの攻撃は無意味だと悟ったのだろう。

 奴は両手に雷の剣を握り締めると、俺の動きを曇ったガラスのような目で睨み始めた。

 わざわざ俺の得意な接近戦を選んだという事は、十中八九、カウンター狙い。


(上等だ、乗ってやるよ)


 左人差し指で"かかって来いよ"とジェスチャーする。

 "絶対善"の眉が動いた瞬間、右の籠手が何かを感知した。

 奴の視線が背後に向けられていたので、俺は振り返る事なく、背後から来た砂鉄の槍を右の籠手で弾き飛ばす。


「世界一の魔術師ってのは、不意を打つ事しかできないのか?」


 "絶対善"の眉間が動いた。

 俺の挑発に思うところはあったらしい。  

 剣を強く握り締め直した奴は俺を睨みつける。


(さっき折った筈の右指、完治しているな。……なるほど、あいつ、意志の力だけじゃなく、怪我を負った瞬間、魔術で治癒しているんだな。それでギリギリの所で耐え忍ぶ事ができたって訳か)


 治癒が追いつかない程に傷を与えるか、魔力切れを狙えば、流石の奴も気絶するだろう。

 息を短く吸い込み、右の拳を握り締める。


「──止められるもんだったら、止めてみやがれ」


 "絶対善"は前傾姿勢になりながら、剣を低い位置に構える。


「──お前じゃ俺を止められない」


 先程と同じ事を言いながら、"絶対善"は瞬間移動で俺との距離を縮める。

 そして、両手に持った剣を振るい始めた。


「もうその言葉、もう聞き飽きたよ」


 "絶対善"の剣撃は拙いものだった。

 ただ振っただけの一撃。

 それを上半身を逸らすだけで回避した俺は、右の拳を奴の顔面目掛けて振るう。

 が、俺の拳は奴に当たらなかった。

 奴の姿が視界から消えると同時に、右の籠手から生じる雷を自分の身体に流し込む。

 流し込んだ白雷が左足に到達した。

 それを知覚するや否や、俺はバックステップすると、右足で回し蹴りを放った。

 俺の回し蹴りは剣を振り下ろそうとした"絶対善の左手に突き刺さる。

 右足に纏わりついた白雷が、奴の身体を覆う雷の膜を破る。

 その瞬間、奴の左手指から骨の砕ける音が聞こえてきた。


(よし、このやり方なら……!)


 ようやく手応えを感じた俺は、心の中で歓喜の声を漏らす。

 が、喜ぶのも束の間。

 "絶対善"は奥歯が砕けそうな勢いで痛みに耐えると、右手で握り締めていた剣を俺の左肩に振り下ろした。

 肉を斬らせて骨を断つ。

 奴は俺の読み通り、カウンターを狙っていた。

 溜息を吐き出した俺は、右の籠手の反発の力で奴の剣を弾き飛ばす。

 そして、勢いに身を任せるがまま、1回転すると、奴の顔面に回し蹴りを叩き込もうとした。


「く……ぅ!」


 俺の蹴りは"絶対善"の顔面に直撃する寸前で避けられてしまった。

 奴は俺から遠く離れた場所に瞬間移動すると、肩で息をし始める。

 どうやら、瞬間移動するのに何かしらの負荷がかかるらしく、奴の顔には疲労が滲み出ていた。

 "絶対善"の曇ったガラスのような目に迷いが生じる。奴の選択肢が尽きた事を悟った。


「行くぞ、"絶対善(ピュアボーイ)"」


 地面を思いっきり蹴り上げた俺は、"絶対善"の方に向かって駆け出す。

 "絶対善"は全速力で迫り来る俺を見て、少しだけ後退ると、足元にあった瓦礫──今まで奴が魔術で破壊したコンクリートの地面だったもの──を飛ばし始めた。

 地を這うように低く身を屈める事で瓦礫の散弾を掻い潜る。

 奴の苦し紛れの攻撃を何とか避け切った俺は、一足飛びで奴の目と鼻の先の所まで押し迫った。

 接近した俺の顔を見た途端、奴の顔が歪む。


「今度はこっちの番だ」


 俺は滑らかかつ俊敏な動きでクロスステップで"絶対善"を追い抜くと、白雷を左腕に流しながら奴の背後を取る。

 そして、俺の動きに釣られて振り向いた"絶対善"の鳩尾に全力の左ストレートを叩き込んだ。


「が、はあ……!」


 "絶対善"の口から涎が垂れるのを眺めながら、俺は左手首をスナップさせる。

 そして、再び籠手から生じた白雷を左腕に流し込むと、奴の身体に左拳を叩き込んだ。


「ご……のぉ……!」


 "絶対善"が苦し紛れに放った一撃(イナズマ)を右の籠手の力で弾き飛ばすと、再度奴の顎に左拳を叩き込む。

 奴は背中から地面に落ちると、顎を押さえながら立ち上がった。


「………」


 意思の力だけで立ち上がる"絶対善"を見つめながら、俺は奴に声を掛ける事なく、再び奴の身体に殴打を浴びせる。

 俺が殴る度に奴の身体から鈍い音が聞こえてきた。

 奴の口から短い断末魔が聞こえてきた。

 何回、何十回、手応えを感じたにも関わらず、白雷を流し込んでも手応えを全く感じないくらいに魔力を消耗したにも関わらず、"絶対善"は立ち上がり続けた。

 だから、俺は特に声を掛ける事なく、立ち上がった奴に殴打を浴びせ続けた。


 "絶対善"に負けられない事情があるように、俺にも負けられない事情がある。

 もし俺がここで折れたら、小鳥遊と小鳥遊弟達は元の日常に戻れなくなる。

 "絶対善"に小鳥遊達の人生をめちゃくちゃにされる。

 だから、俺は心を鬼にしなきゃいけないのだ。

 立ち上がり続ける"絶対善"を殴り続けなきゃいけないのだ。

 もう小鳥遊や小鳥遊弟達が無理をしなくても良いように。

 ……暴力を正当化する自分に嫌気が差す。

 やっている事は"絶対善"と大差なかった。


 気絶しろと心の中で祈りながら、俺は"絶対善"を殴り続ける。


「はあ……はあ……あああああ!!!!」


 全身青痣だらけになったにも関わらず、もう動くだけで辛いレベルに傷を負ったにも関わらず、もう魔力なんて殆ど残っていないにも関わらず、"絶対善"は俺に攻撃を仕掛けようとする。

 だが、先程の冴えた一撃とは違い、今の奴の攻撃はとても疎く拙いものだった。

 もう奴は限界まで達したのだろう。

 奴の苦し紛れの一撃を丁寧に捌きながら、俺は気絶しろと祈りながら、少量の白雷を纏った左拳を振るう。

 だが、いつまで殴っても奴は意識を保ち続けた。


(……いい加減、気絶してくれよ……!)


 歯を食い縛りながら、祈りながら、俺は全力の左ストレートを"絶対善"の頬に打ちかました。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくださった方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方に厚くお礼を申し上げます。

 この度、本作品の累計PVが7万PV超えました。

 これも皆様のお陰です。

 本当にありがとうございます。

 これからも10万PV目指して頑張りますので、完結までお付き合い頂けると嬉しいです。

 また5万・6万・7万PV達成記念短編は人狼騒動編終了後に投稿致します。

 次の更新は明日の12時頃を予定しております。

 これからもよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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