4月23日(11)VS絶対善/尽きていく手札の巻
目と鼻の先まで迫った竜の形を象った膨大な魔力を右の籠手で受け止める。
そして、籠手から生じた白雷を流し込む事で、"絶対善"の最大最強の攻撃は線香花火のように儚く呆気なく消え失せてしまった。
魔女の方が竜の数は多かった。
魔女の方が竜の完成度が高かった。
"絶対善"の最大最強の攻撃は、魔女のよりも劣っていた。
だから、右の籠手で防ぐ事ができた。
ただ、それだけの理由。
どうやら"絶対善"は、まだこの籠手が魔力にのみ作用している事に気づいていないらしい。
もし気がついていたら、俺の目が眩んでいた間に、魔力が篭っていないコンテナや瓦礫をぶつけていただろう。
奴の動きも思考も最適かつ最善なものだった。
にも関わらず、俺に傷1つつけられなかったのは、右の籠手の考察が足りなかったからだ。
ただ、それだけの理由で奴は俺にトドメを刺し損ねた。
まあ、あの程度の攻撃──デカいかつ破壊力だけある攻撃なら、籠手がなくても幾らでも避ける手段はある。
……視界が眩んでいなければの話だが。
(あんなにデカい攻撃を使ったにも関わらず、まだピンピンしているのか)
宙に浮いたまま、唖然とした表情を浮かべる"絶対善"を見る。
彼の表情から察するに、雷の竜は後数発くらい撃てそうだ。
奴の学習能力の高さから、次はもっと捌くのが難しい一撃が繰り広げられるだろう。
そして、最後の1発を撃つ頃には俺の動きは完全に見切られてしまうだろう。
それ程、奴の成長するスピードは速い。
だから、優勢である今の内に何とかしなければ。
そんな事を考えていると、突如雷の球が俺の目前に現れる。
反射的に右掌を雷の球に向ける。
球に触れようとした瞬間、雷の球は何の前触れもなく、破裂してしまった。
破裂した際の衝撃波により、俺の身体は後退させられてしまう。
慌ててバランスを取り戻そうとする。
すると、背後から何かを感じ取った。
背後から迫り来る何かを避けるため身体を逸らす。
俺の左頬に雷槍が掠めてしまった。
反射的に"絶対善"の方を見る。
彼は次々に音速の雷槍を出しては消して、出しては決してを繰り返していた。
四方八方から瞬間移動して来た音速の雷槍。
それらが、俺の身体を掠める。
右の籠手を使っても、避ける事で精一杯だった。
(くそ……!もう右の籠手なしじゃ太刀打ちできねぇぞ……!!)
どこに瞬間移動して来るか分からない攻撃を右の籠手の力で引き寄せながら、直撃を避け続ける。
予備動作もない上に死角から飛んで来るため、右の籠手なしで避けるのは不可能と言っても過言ではなかった。
(ガイア神や天使よりも厄介過ぎる……!!)
神様や天使と違って、"絶対善"という人間を破壊する事はできない。
異常な程の執念から生まれた耐久力、無尽蔵の魔力、そして、脅威的な成長速度。
どれを取っても一級品。
手加減なんか考えていたら、間違いなくこっちがやられてしまう。
だから、さっさと籠手の使い方をマスターしなければ。
奴が自滅する前に。
俺が奴に殺される前に。
瞬間移動して来る音速の槍を避けながら、右の籠手の力がどのように流れているのかを把握しようと試みる。
死角から放たれた一撃を最小限の動きで躱した。
足元から放たれた一撃を最低限の動きで凌ぐ。
頭上から放たれた一撃を右の籠手で受け止める。
両脇から放たれた槍をバク宙する事で避け、四方から飛んできた槍を反発の力で弾く。
全部ギリギリだった。
先読みした訳ではない。籠手を通じて右の腕から感じる圧迫感──と、言っても感覚を研ぎ澄ませて、ようやく感知できるくらい弱々しい感覚──が、どこに槍が瞬間移動して来たのか教えてくれた。
空間の歪みが発生すれば、右の籠手が感知する。
たとえ"絶対善"の目線や動きが見えなくても、籠手から感じる圧迫感さえあれば、奴の攻撃を先読みできる。
だが、それだけじゃ足りない。
この理解の速さでは、奴の進化についていけない。
(──感覚を研ぎ澄ませろ)
持てる武器を全て使って、音速の連撃を捌いていく。
(──把握しろ、この場にあるもの全てを)
右の籠手から感じる圧迫感により、360度、あらゆる方向から飛翔する攻撃に対応できるようになる。
(──理解しろ、己にできる最善の行為を)
連続的に放たれる雷槍を捌いていくにつれ、"半分程度の出力ならば、右の籠手でわざわざ触れなくても雷槍を逸らせる"事に気づく。
今までは10割の力で反発させていたため、俺の身体に反動がかかっていた。
しかし、半分程度の力を籠手に出力すれば、反動を受ける事なく、ただ立っているだけで雷の槍は逸れていく。
"これならいける"と思った矢先、動いていないにも関わらず、身体が鉛のように重くなり始めた。
"絶対善"の攻撃が止んだ途端、俺も籠手の力を使うのを中断する。
すると、身体の怠さが少しだけ緩和された。
(もしかして、この籠手、力を使う度に俺の体力を削っているのか……?)
新たな事実が判明すると同時に、空に浮いていた"絶対善"は地上に降り立つ。
多分、遠距離・中距離からの攻撃は無意味だと悟ったのだろう。
奴は両手に雷の剣を握り締めると、俺の動きを曇ったガラスのような目で睨み始めた。
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