4月23日(11)VS絶対善/未来視(?)と雷の竜の巻
流石の"絶対善"も魔力が尽きたら、攻撃手段がなくなる筈だ。
もしかしたら、彼が異常にタフなのは魔力があるからかもしれない。
ならば、右の籠手の力──魔力を白雷に変換させる力──により、彼の魔力を全て白雷に変えてしまえば、魔力切れになるまで喧嘩しなくても良い筈だ。
だが、白雷を流し込めば、大なり小なり"絶対善"にダメージを与えてしまう。
もし相手の魔力量が大きければ大きい程、白雷のダメージ量が増すのなら、俺が右の籠手で奴の身体に触れた瞬間、奴は大量の白雷を浴びて死んでしまうかもしれない。
けど、俺が白雷の流し込む量をコントロールできたら──少量の白雷を連続的に流し込めば、奴にそこまでダメージを与えないまま、無力化できる…….かもしれない。
(奴を殺さずに無力化するには右の籠手の力をコントロールできなければならない)
右の籠手を使わされるのは、かなり屈辱的だが、奴を無力化する手段はこれしかないのも事実だ。
(現在、分かっている籠手の力は……魔力を白雷に変換する力、魔力を引き寄せる力、魔力を反発させる力。そして、籠手の形を変化させる力。この4つの力を自在にコントロールすれば、闘い方にバリエーションが増えるし、"絶対善"を簡単に無力化できるようになるかもしれない)
「どこまでも舐め腐りやがって……小羊如きがっ!!!!」
右の籠手が瞳に映らない程に激昂した"絶対善"は音速の雷槍を放つ。
俺は右の籠手を使って、飛んで来た攻撃を受け止める。
そして、割くらいを意識しながら、雷槍に白雷を流し込んだ。
しかし、流し込む量が不適切だったのか、雷槍は俺の右手を弾くと、後方にあるクレーンの根本に突き刺さった。
「うおっ!」
咄嗟の判断で雷槍を背後に流す事で何とか直撃を回避する。
失敗したと思った瞬間、俺は"絶対善"と距離を取るために、後方方面に走り始める。
「逃げても無駄だっての!!」
魔術の力で空高く飛んだ"絶対善"は、再び大量の雷槍を撃ち始める。
"もうその攻撃は見飽きたんだけどな"と思いながら、俺は右の籠手の力で飛んで来た雷槍を全て一箇所に引き寄せると、そのまま、少し離れた所にあった海原に雷槍の束を反発の力で叩きつける。
雷槍の束が海面に直撃した途端、高さ十数メートル級の水柱が立ってしまった。
もしこれを"絶対善"に返却していたら、彼の身体は粉々になっていただろう。
彼の攻撃力の高さを改めて思い知る。
「何だよ、その力はっ!?魔法が使えるんなら、最初から使っとけよ!!お情けかっ!?余裕こいてんじゃねぇぞ、一般人Aがっ!!」
ロケットのように飛んで来た"絶対善"を反発の力──さっきより気持ち弱めの力──で押し返す。
彼の身体は推進力と押し返す力により、空中で静止してしまった。
「ぐっ……ぎぃ……何だ?何で俺は前に進めな……」
"絶対善"の押し返す力が強まったのを右掌の感覚で感じ取る。
そして、俺は右の籠手の力で彼の身体を引き寄せた。
「うおっ……」
"絶対善"がバランスを崩したのを見計らった俺は反発の力を駆使して、先程雷槍の束を操った要領で、彼の身体を海面に叩きつけようとする。
「うおりゃああ!!」
掛け声を上げながら、"絶対善"を海原に叩きつけようとした瞬間、突如、背後から人の気配を感じ取った。
反射的に背後から忍び寄った"何か"を右の籠手で弾く。
「なっ……!?」
瞬間移動したのだろう。
いつの間にか"絶対善"は俺の背後に回っていた。
振り返る。
折れた右指と俺の姿を交互に見る"絶対善"の情けない姿が視界に飛び込んで来た。
彼は再び瞬間移動で俺の拳が届かない距離まで移動すると、息を荒上げながら、俺を睨みつける。
「信じられねぇ話だが……お前、未来が視えているみたいだな」
"絶対善"は怒りを抑えた冷静な口調で、頓珍漢な事を語り始める。
「今さっきの咄嗟の対応も音速の槍を紙一重で避ける事も、"未来が視えていないとできない所業"だ。故にお前の固有魔法は"未来視"であると推測する。その未来視と雷を操る神造兵器、そして、相手に魔力を感じさせない"感知切除"の魔術が、お前の武器なんだろ?」
いや、未来視も魔術も使えないんだけど。
「はっきり言って、お前を見くびっていた。お前が俺を欺ける程、賢い人間には見えなかったからな。だが、もう油断はしねぇ……!俺の最大最強の攻撃でお前をぶっ殺してやる!!」
最大最強の攻撃とやらが撃たれる前に俺は右の籠手の力を使おうとする。
しかし、先手を打ったのは"絶対善"の方だった。
奴は左掌から眩い閃光を発すると、俺の目を眩ませる。
「くっ……!」
視力を奪われた俺は、"絶対善"が瞬間移動した事を聴覚で察知する。
彼は俺の視覚以外の五感が働かない所に逃げたのか、気配は何処にも感じられなかった。
(くそ……!やられた……!!)
閃光で視界を奪われたのは、油断したからではない。
俺より彼が1枚上手だった、それだけの話だ。
さっきみたいに白雷を自分の身体に流したとしても、視力が回復する訳ではない。
今回は俺の視覚に直接雷が流し込まれた訳ではないから。
(籠手の引力で、奴の居場所を割り出せるかもしれない──!?)
初めて"絶対善"との喧嘩に危機感を抱いた。
早急に危機感を解消するため、俺は奴の身体を引き寄せようとする。
籠手を身につけた右腕は独りでに動くと、目線より高い位置に移動した。
籠手からの手応えから察するに、彼は俺を見下ろしているらしい。
引き寄せる。
しかし、"絶対善"は宙に留まるばかりで微動だにしない。
(なら、反発の力が有効か……!?)
反発の力を使おうとした所で、俺の真っ白に染まっていた視覚は、元の状態に戻り始める。
俺はまだ少しだけ霞む視界で空を仰いだ。
──星1つ見えない夜空に浮かぶは、雷の竜。
魔女曰く、"竜の魔法・魔術は最高級の魔法使い・魔術師にしか使えない代物"。
地形を思いのままに変形できる程の破壊力を秘めた代物が、綺羅星の如く、夜空の中を漂っていた。
雷竜が流星の如く、夜空を翔る。
咆哮を上げながら、俺に迫り来る雷の竜を見て、俺は安堵の溜息を漏らした。
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