4月23日(10)VS絶対善/使わされた切り札の巻
懸命に足を動かした俺は、コンテナが地面に落下するよりも早く"絶対善"の下に辿り着くや否や、彼の身体を突き飛ばす。
彼の身体に触れた途端、大量の電流が身体に流れ込んだ。
一瞬だけ全身に激痛が走ると同時に視界が暗転してしまう。
骨を焼くような痛みにより意識が飛びかける。
何とか舌を噛む事で俺は気絶を回避した。
「あっ……がっ……!?」
だが、一瞬とはいえ膨大な電流を流し込まれた事で、俺の全身の筋肉は硬直してしまう。
上から振り落ちるコンテナを知覚しながら、俺は膝から崩れ落ちてしまった。
あと数秒も経たない内にコンテナの下敷きになる事を理解した。
「うぐ……あぅ……あっ……!」
生き残るために恥も外聞もかき捨て、瞬く間に右の籠手を装着すると、自分の身体に籠手から生じた白雷を流し込む。
魔術の雷で硬直していた筋肉は、あらゆる魔を退ける籠手の力により、再び俺の意思で動くようになった。
そのまま、深く考える事なく本能的に右の籠手の力──魔術に反発する力──を使った俺は、大量の魔力を保持しているであろう絶対善の身体を反発させる。
籠手の力を使った瞬間、物凄い勢いで遥か後方に飛んで行った。
「ぐ……おっ……!?」
俺の身体はコンクリートの上を勢い良く転がると、港にあった全長数十メートル級の巨大クレーンの根本に背中を強打してしまう。
「が……あっ……!」
背中を強打した途端、肺の中の空気が全て漏れてしまった。
背中から感じる熱と痛みの所為で、コンテナが地面に叩きつける不快な音を俺は聞き逃してしまう。
「ぐっ……くぅ……あぁ……!」
背中に感じる激痛に耐えながら、俺は巨大クレーンの根本に寄りかかりながら、息も絶え絶えの状態で何とか立ち上がる事に成功する。
心の中で"痛い"と叫びながら、俺は激痛を訴える言葉が出ないように口を塞いだ。
痩せ我慢だ。
ここで痛みに悶えてしまったら、相手に隙を見せてしまう。
何処かで俺の姿を見ているかもしれない小鳥遊弟に不安を与えてしまう。
だから、口が裂けても痛いなんて叫ばない。
これからも走り続けるために。
「……どうして」
落ちてきたコンテナの向こう側から"絶対善"の声が聞こえてくる。
どうやら彼は無事だったらしい。
彼は先程まで操っていたコンテナを魔術による雷撃で爆散させると、悔しそうな口振りで疑問の声を口にした。
「どうして、お前は、……俺を、助けた?」
爆煙の中から現れた"絶対善"は今まで見てきた中で1番複雑な感情──怒りと憎しみと戸惑いと哀情を混ぜたような一言では言えない顔──を浮かべると、体外に膨大な量の赤雷を放出する。
「……助けた訳じゃねぇよ」
俺は先程唇を噛んだ事で生じた血を口外に吐き出すと、"絶対善"の質問に答えた。
「走りたいから、走っただけだ」
俺の言葉を聞いた途端、"絶対善"は赤鬼みたいな顔つきになると、瞬く間に俺との距離を詰める。
反射的に俺は身につけていた右の籠手の力を使ってしまった。
目にも映らない速さで迫り来る"絶対善"を籠手の力で押し返す。
目に見えない巨大な反発の力に押された彼の身体は、トラックに撥ねられたのように吹き飛んでしまった。
彼の身体は地面にめり込んだコンテナの横っ腹に叩きつけられる。
俺はというと、背後に巨大クレーンの根本が支えになってくれたお陰で、何とか吹き飛ばされずに済んだ。
「ぐ……おっ……!」
だが、反発の力を使った代償が、俺の身体にのしかかる。
まだ反発の力を使いこなせていないのだろう。
物凄い力で反発してしまったため、俺の身体にかなりの負荷がかかってしまった。
(くそ……、籠手の力を使わされてしまった)
右の籠手は使わない。
"絶対善"が言い訳ができないくらい圧倒してみせる。
そんな覚悟を持っていたにも関わらず、俺は命惜しさに籠手の力を使ってしまった。
自分の弱さと甘さを改めて痛感する。
何が"圧倒的な勝利を収めてみせる"だ。
口だけじゃないか。
自分の不甲斐なさに腹を立てながら、自分の思い描く最善の勝利は叶わないと実感しながら、俺は最低勝利条件──"絶対善"を無力化する──を達成するために、全力を尽くす事を改めて誓う。
右の拳を握り締めながら、俺は立ち上がろうとした。
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマ・評価ポイントを送ってくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方に厚くお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
明日の12時頃にも最新話更新致しますのでこれからもよろしくお願い致します。




