4月23日(9)VS絶対善/自爆攻撃の巻
"絶対善"は折れた左肩を押さえる事なく、鼻血が垂れた顔面を拭う訳でもなく、腫れた頬を気にかける事なく、ただ曇った眼で魔族絶滅の邪魔をする俺を睨みつけていた。
精神が肉体を凌駕している。
たとえ肉体を痛めつけたとしても、両手両足の骨を折ったとしても、奴の心を折らない限り、魔族への強い憎しみを捨てない限り、"絶対善"は止まらない。
幾ら攻撃をしようが、意識を刈り取ろうが、彼は止まる事なく動き続けるだろう。
息の根が止まるその日まで。
「ちっ……!!」
完全に見誤った、"絶対善"という人間を。
俺は右の拳を握り締めると、奴の顔面に数回フェイントを入れ、奴の鳩尾に回し蹴りを叩き込む。
渾身の一撃。
一時的に呼吸が苦しくなる攻撃を受けたにも関わらず、奴は気絶しなかった。
「アガアアアアア!!!!!」
"絶対善"は取り囲むように俺の周囲に無数の魔法陣を四方八方に展開すると、魔法陣を用いて、俺目掛けて雷の魔弾を発砲し始める。
瞬時に魔弾の軌道を見抜いた俺は、最小最低限の動きで四方八方から飛んでくる魔弾を躱し続けた。
しかし、完全に避け切れず、何度か着ていたジャージに魔弾が掠めてしまう。
(攻撃の精度が、さっきよりも上がっている……!?)
嫌な予感が頭を過ぎる。
俺はさっさと喧嘩を終わらせるために、全速力で"絶対善"との距離を縮めると、本命の一撃を叩き込むためのフェイントを入れようとする。
しかし、"絶対善"の様子に違和感を感じたため、俺はフェイントを入れる事なく、奴の顔面に全力の拳を叩き込んだ。
奴に触れた途端、少量の電流が俺の右手に流れ込む。
奴の隙を完全に突いたにも関わらず、遅れながらも俺の攻撃に反応できた事実に少しだけ驚愕してしまう。
だが、奴は俺が気絶する程の電流を流し込む事なく、俺の拳を顔面で受け止めると、呆気なく後方に吹き飛んでしまった。
手加減する事なく、全力で放った一撃。
人狼だろうが狼男だろうが、一撃で倒す事ができるくらい力を込めた。
なのに、彼は何事もなかったかのように起き上がると、息をしないまま、次の魔術の準備を始める。
痺れた右手を左手で押さえながら、俺は鼻と口から血を流す奴を見て、舌打ちをした。
(くそっ……!決定打を打つ事ができない……!!)
"絶対善"を殺す事はできても、倒す事はできない事を痛感する。
殺すつもりで殴らなければ、彼を止める事はできない。
たとえこのまま幾ら殴ったとしても、彼は死ぬまで俺を攻撃し続けるだろう。
「負けられねえ!!俺は負けられねえんだよぉ!!!!」
"絶対善"は発狂しながら、音速の雷槍を俺目掛けて発射する。
俺は余裕を持って彼の攻撃を避けようとした。
が、奴の放った一撃は俺の右脇を掠めてしまう。
俺の動きを見て攻撃の軌道を修正した事を肌で実感する。
(こいつ……!喧嘩の中で成長してやがる……!!)
このままでは"絶対善"の攻撃が避け切れなくなる。
かと言って、このまま奴を殴り続けていたら、俺は奴を殺してしまう。
殺す覚悟を決めない限り、俺は奴を止める事はできない。
奴の体力が尽きるまで逃げ続ける?
いや、そんな事をしたら奴は死んでしまうだろう。
殴り殺すのと変わらない。
ならば、俺が取る方法は1つ。
奴の体力よりも先に奴に魔力を浪費させる。
そして、奴の四肢の骨を砕き、攻撃ができない状況に追い込む。
……それしか奴を殺さずに無力化する方法はない。
「……行くぞ、絶対善。第2ラウンドだ」
今まで喧嘩した事がない相手との喧嘩に少しだけ怖気ついた俺は、自分を奮い立たせるため、右の拳を握り締める。
俺の声に反応した"絶対善"は、体外に赤い稲妻を放出すると、先程まで宙に浮いていたコンテナを再び宙に浮かべ始めた。
俺は再度俺に投げつけられるであろうコンテナを躱すため、コンテナを投げつけられない場所へ──"絶対善"の下に向かって走り始める。
自分の攻撃を自分に当てる馬鹿はいない。
奴がコンテナを投げつけられないよう、俺は一定の距離を保とうとする。
「負けられねぇ、んだよっ!!!!!」
しかし、今回も"絶対善"は俺の想定を上回った。
彼は自分が巻き込まれる事を前提にした上で浮かしていたコンテナを魔術の力で真下に落とし始める。
「なっ……!?」
予想だにしない攻撃──自分の身を省みる事のない投擲に一瞬だけ困惑した俺は、一瞬だけ足を止めると、そのまま全速力で"絶対善"の下へ走り始める。
避けるのは簡単だ。
左右どちらかに走れば、余裕を持って避けられる。
けど、俺は避けられても"絶対善"は避けられそうになかった。
否、彼の瞳に真上から振り落ちる攻撃を避けようという意思はなかった。
(このままでは、奴が死んでしまう……!!)
懸命に足を動かした俺は、コンテナが地面に落下するよりも早く"絶対善"の下に辿り着くと、彼の身体を突き飛ばす。
──彼の身体に触れた途端、大量の電流が身体に流れ込んだ。
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