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4月23日(9) VS絶対善/止まらない男の巻


 五点着地により着地した俺は、ゆっくりと"絶対善"の方を睨みつける。

 "絶対善"は魔術の力で墜落死を何とか避けると、左肩を押さえながら、地面に膝をつけた状態で俺を睨みつける。

 彼の瞳は冷静さを保っていた。

 …….さっきまでの激昂した姿は演技だったのだろう。

 改めて彼という人間が油断ならない存在である事に気づく。


(だが、"絶対善"はガイア神よりも天使の力を宿した魔女や小鳥遊よりも"弱い")


 "絶対善"は並大抵の魔法使いや魔術師、魔導士よりも強い。

 今まで喧嘩してきた全ての魔法使い達と比べると、彼は最も強い部類に入る。

 キマイラ津奈木や蜘蛛女、そして、狼男よりも。

 けど、ガイア神や天使の力を宿した奴等と比べると、彼は"弱過ぎる"のだ。

 ──ただ、それだけの話。


「てめえ……!!一体、何の魔法を使っていやがるっ!!!!」


 "絶対善"の身体から発せられる赤い雷が、今までの見た中で最も強くなった事を確認する。

 俺は足元に落ちていた瓦礫──多分、"絶対善"がコンテナを操った際に生じたものだろう──を思いっきり蹴り上げた。

 かなり威力のある魔術を使おうとしていた"絶対善"は自分の顔面目掛けて飛んできた瓦礫を認識する。

 そして、彼は赤雷を体外に放出するのを止めると、瓦礫を回避するために身体を動かした。

 "絶対善"が身体を動かすと同時に、俺は彼との距離を詰めるためだけに走り始める。

 たった数秒くらいで俺は彼の間合いに入り込むと、右の拳を握り締め、彼の顔面を殴ろうと──する振りをして、数回高速でフェイントを入れた後、彼の頬を左拳で殴った。

 まんまとフェイントに引っかかった"絶対善"は、躱す事も魔術で防御する事もなく、俺の拳を喰らうと、大きくバランスを崩す。

 隙を見逃す事なく、彼の顎に右アッパーを叩き込むと、俺は彼の線の細い身体を吹き飛ばした。


「ぐ……がぁ……!」


 俺の拳をモロに喰らった"絶対善"は、受け身を取る事も魔術で浮く事もなく、背中から地面に落下する。


「言っただろ」


 "絶対善"は指先を少しだけ揺らすと、そのまま地面に伏せてしまった。


「あんたじゃ俺には勝てない、って」


 俺の言葉を聞いた途端、"絶対善"は憎悪を撒き散らした後、眠るように意識を失った。

 喧嘩が終わった事を把握した俺は、右の拳を緩める。

 今までの経験が教えてくれた、"絶対善"が気絶した事を。

 五感が教えてくれた、"絶対善"の意識がない事を。

 なのに、直感だけはまだ終わってないと叫ぶ。


 "絶対善"はまだ止まってないと。


 前例のない事態に直面した途端、俺の背筋に冷たいものが流れる。

 手応えはあった。

 現に"絶対善"は白目を向いて気絶している。

 演技ではない。

 彼の力は抜け切っており、指先もピクリとも動かない。

 息遣いも気絶している人のものだ。

 100人が100人、今の彼を見たら気絶していると答えるだろう。

 なのに、俺は現在進行形で"絶対善"からの敵意や殺意を感じ取っている。

 彼の意識はない筈なのに。

 さっきの一撃で彼は気絶した筈なのに。

 反射的に俺は後退()()()()()()()()

 魔術を使っている訳ではない。

 美鈴の時や小鳥遊の時みたいに神様や天使が彼の身体に憑依した訳ではない。

 意識がないのにも関わらず、何故、彼の身体から敵意と殺意が漏れ出ている?


 今まで経験した事のない違和感に動揺していると、気絶していた筈の"絶対善"は目を大きく見開く。

 並大抵の人間──人狼や狼男みたいな人間よりも身体能力が上回っている相手は別だが──なら、さっきの一撃で数時間は気絶している筈なのに。

 彼は何かに取り憑かれたかのような不安定な動きをしながら、再び立ち上がる。

 "絶対善"の瞳は憎悪で染まっていた。

 その憎悪は底の見えない沼のように昏く、彼の瞳を見た瞬間、反射的に俺は身体を硬らせてしまう。

 曇った硝子のような彼の目を見た瞬間、俺は即座に理解させられた。

 "絶対善"の理性は狂気に犯されている事を。

 その狂気の源が魔族への強い憎しみである事を。

 ……その憎悪が晴れるまで、彼は決して負けを認めない事を。

 "絶対善"は折れない。

 たとえ俺が彼を圧倒したとしても、彼に耐え難い恥辱を与えたとしても、彼は勝つまで俺に挑み続ける。

 自分の家族の仇である魔族を根絶やしにするまで恥も外聞も気にする事なく進み続ける。

 "絶対善"は止まらない。

 家族の仇である魔族をこの世から1匹残らず駆除するまで、彼は止まる事なく暴走し続ける。

 たとえ彼を気絶させたとしても、全治数ヶ月レベルの大怪我を負わせたとしても、"絶対善"は魔族を殺すためなら、何度でも蘇る。

 彼は殺されない限り、その暴走を──独り善がりを止める事はない。


(…………止める事ができるのか?)


 満身創痍であるにも関わらず、先程よりも強い敵意と殺意を放ち続ける"絶対善"を見つめながら、俺は少しだけ自信を失いかける。

 実力は俺の方が上だ。彼はガイア神のように周囲を焼け野原にする程の力はない。

 魔女のように多彩な攻撃を繰り広げない。

 天使の力を宿した小鳥遊のように広範囲かつ先読みできない攻撃を繰り出す訳ではない。

 神様や天使と比べると弱い。

 にも関わらず、俺は目の前にいる"絶対善"が、決して止まる事なく暴走し続ける彼が、神様や天使よりも脅威のように思えた。

 


 止める事ができるのだろうか。


 この独り善がりに呑まれた男を。





 ──殺す以外のやり方で。






 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方・評価ポイントを送ってくださった方にお礼の言葉を申し上げます。

 本当にありがとうございます。

 これからも毎日更新続けますのでよろしくお願い致します。

 次の更新は明日の12時頃投稿致します。

 

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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