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4月23日(7) VS絶対善/血に濡れたビー玉の巻


「"俺には勝てない"か。随分、デカく出たもんだな」


 金髪の少年──"絶対善"は身体中から発した赤雷を俺目掛けて飛ばす。

 赤い稲妻は俺の周囲を取り囲むように落ちると、俺の周囲を焦し尽くした。

 当てる気がなさそうだったので、避ける事なく、棒立ちのままでいた俺は、彼が隙を見せるまで待ち続ける。


「お前、俺が世界一の魔術師だって事を知らねぇだろ」


 "絶対善"は微動だにする事なく、立ち尽くした俺を見ると、苛立った様子で俺の顔面を睨みつける。


「魔法や魔術が使えるんなら、とっとと使え。じゃねぇと、1分もしない内に終わっちまうぞ」


「なら、1分で終わらせてみろよ」


 挑発を挑発で返し、彼に慢心を抱かせ、平静さを奪おうとする。


「それとも、世界一の魔術師は虚勢を張る事しかできないのか?」


 俺の挑発の言葉が喉から出ると共に、奴の背後に夥しい数の魔法陣が空中に刻まれる。 

 空間に刻まれた魔法陣は、規則正しく陳列すると、出来の悪いイルミネーションのように発光し始めた。

 "絶対善"の目を見る。 

 彼の目に悪意はあっても敵意はなかった。

 多分、さっきと同様、牽制の一撃を放つつもりなのだろう。

 中空に浮かぶ無数の魔法陣の中心から、赤く発光した雷の槍が音速の速さで放たれる。 

 一瞬で軌道を見抜いた俺は、避ける事なく、その場に留まった。

 音速の速さで放たれた雷槍の大群は、瞬く間に俺の立っている場所を取り囲むように降り注ぐ。

 案の定、槍は俺の肌に掠りもしなかった。

 雷槍の雨により、俺の周囲の地面は、石造であったにも関わらず、耕された土のように粉々に砕かれる。

 砂埃が舞う。

 雷槍が地面を抉った衝撃により、瓦礫や小石が流星のようにあちこちを飛び交うと、俺の身体を掠めた。


「どうした?力の差を思い知って、身動き1つ取れないのか?」


 砂埃の向こう側にいる"絶対善"は調子に乗った発言を吐き出す。

 溜息を吐き出した俺は、顔面に飛んで来た掌サイズの石をキャッチすると、砂埃の先にいる"絶対善"の顔面目掛けて投げつけた。

 砂埃が舞っているため、詳細は分からない。

 が、砂埃の向こう側で"絶対善"が大きく動いた事を知覚する。

 多分、ギリギリの所で石を避けたのだろう。

 俺は凸凹になった地面の上を歩きながら、砂埃の中から脱出する。

 そして、ゆっくりと一歩一歩確実に"絶対善"との距離を縮めていった。


「なっ……!?」


 無傷の俺を見た瞬間、"絶対善"の顔が強張る。

 彼は瞬時に右掌を俺に向けると、赤い雷で構成された魔弾を連続的に放ち始めた。

 かなり動揺しているのだろう。

 連続的に放っているにも関わらず、当たる気で放っているにも関わらず、魔弾は俺に当たらなかった。

 ガイア神や天使の攻撃よりも遅い魔弾。

 それらを上半身をちょっと動かすだけで難なく躱した俺は、ゆっくりと"絶対善"の方に歩み寄る。


「涼しい顔してんじゃねぇぞ……!!」


 "絶対善"は赤い雷(まじゅつ)の力で、周囲の空間から砂鉄を掻き集めると、自分の手足のように操り始めた。


「気をつけろよ!その砂鉄は表面を振動させる事によって、あらゆる物体を真っ二つにする事ができる!!触れたら、一瞬でお陀仏だからな!!」


 "絶対善"は興奮した様子で叫ぶと、俺目掛けて、電磁力で操作した霧状に分布した砂鉄を躊躇う事なくぶつけようとする。

 油断も慢心もない彼の一撃が繰り出されるよりも早く、俺は右親指の皮膚を嚙み千切ると、右ポケットに入っていたビー玉を取り出す。

 そして、右親指から出た血をビー玉に塗りたくると、彼が攻撃を繰り出すよりも先にビー玉を彼の額目掛けて投げつけた。

 血だらけのビー玉は、港を照らす人工灯の光を反射する事なく、宙を漂う砂鉄を潜り抜けると、"絶対善"の額に突き刺さる。

 ビー玉をぶつけられた彼は額を押さえると、そのまま、蹲ってしまった。


「くそ……!な、何をした!?」


 "絶対善"は何をされたのか分かっていないのか、困惑した声を上げていた。

 奴の疑問に答える事なく、俺はただ歩き続ける。

 ふと、"絶対善"に触れたら感電死してしまうという前情報を今更ながら思い出す。

 その情報が正しければ、感電死する程に電流が流されるのなら、さっきのビー玉は魔術で溶かされていた筈だ。

 なのに、ビー玉は彼の額に突き刺さった。 

 もしかしたら、彼は"自分が認知した攻撃にしか赤雷を流す事ができないのだろう。

 もし相手が触れた場所に自動的に電流を流す事ができていたのなら、俺が投げたビー玉は電流により溶けていただろう。

 地面に落ちた血だらけのビー玉を見る。

 電流が流された跡は見えなかった。

 

 ──なら、昼間、魔導士相手に練習した"絶対善"対策が功を成すかもしれない。

 いつでも奇襲に対応できるように、再びゆっくりと"絶対善"の方に歩み寄る。

 俺の足音を聞いた途端、彼は額を押さえるのを止めると、激情を露わにした。


「てめえ……何しやがった!!」


 "絶対善"は両手に赤雷を身に纏うと、俺目掛けて、赤い電撃を放つ。

 俺は電撃が放たれる直前に素早い動作で横にステップする事で、彼の放った電撃を躱す。

 そして、攻撃を放って隙だらけだった彼の間合いに一足飛びで入り込んだ。


「──なっ!?」


 "絶対善"は目と鼻の先まで迫った俺を視認すると、慌てて魔術を使おうとする。

 俺は彼が何かしらの魔術を使うよりも先に右の拳を彼の顔面に叩き込もうとした。

 彼の視線が俺の右の拳に集まる。

 それを見た瞬間、俺は右の拳を彼の顔面に当たる寸前で止め、彼の右足を左足で思いっきり踏む。

 彼の右足から嫌な音が響いた途端、彼の口から苦悶の声が漏れ出た。

 彼の視線が自身の右足に逸れた瞬間、俺は寸止めしていた右の拳を彼の顔面に叩き込む。

 思いっきり腕を振れなかったので、攻撃自体は浅かったが、俺の拳は彼の顔面に突き刺さった。

 俺の拳を顔面で受けた彼は、その場に尻餅をついてしまう。

 やはり俺の予想通り、彼は死角からの攻撃を対処できないらしい。

 "絶対善"は動揺した様子で鼻頭を押さえると、魔術の力で瞬間移動し、慌てて俺から大きく距離を取る。

 そして、困惑に満ちた眼差しで俺を睨みつけた。 


「どうした?1分で終わらせるんじゃなかったのか?」


 "絶対善"を挑発しながら、彼が並大抵の相手じゃない事を頭の中で理解する。

 俺が追撃を放ち、彼の意識を刈り取ろうとした瞬間、彼は瞬間移動をする事で俺から距離を取った。

 並大抵の相手ならば、次の行動を取る事なく、俺のトドメの一撃を喰らっていた筈だ。

 "絶対善"は俺が闘ってきたどの魔法使いよりも魔術師よりも魔導士よりも強い事を改めて実感する。


「もしかして、世界一の魔術師ってのは、"世界一魔術ができる魔術師"ってなだけで、世界一強い訳じゃないのか?」


 だから、最善の方法を尽くす。

 最善の方法を尽くす事で、"絶対善"に完勝してみせる。

 もう2度と"絶対善"を名乗れなくなるまで叩き潰してみせる。

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、過去にブクマしてくれた方、評価ポイントを送ってくださった方、そして、新しくブクマしてくれた方にお礼を申し上げます。

 次の更新は明日の12時頃を予定しております。

 次の更新もお付き合い頂けると嬉しいです。

 これからもよろしくお願い致します。

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 厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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